MENU

場づくり・コミュニティ

特集 | みんなの学校

地域創生医・桐村里紗さんの「学び方」

  • URLをコピーしました!

「病気のない世界をつくりたい」という一心からなった臨床医の仕事を辞め、人と地球とのつながりを考える「プラネタリーヘルス」に根治の道を見出し、今、その実践と普及を行う桐村里紗さんが、「人と地球の学び方」について語ります。

目次

【学び方の3つのPOINT】

ネガティブな経験からも学べることはある。それをどうやってポジティブな行動に転換するかが大事。

五感から入ってくる情報は、すべて学びになる。五感で情報を受け止めるための感性を養う。

自分の欲求や、社会に対する疑問を封印しない。欲求や疑問に忠実になることで、広い視座が得られる。

子どもの頃、母は薬害が原因の病気を患っていました。大学病院で診察も受けましたが、「精神的なもの」と診断されました。私が朝「行ってきます」と学校へ出かけると同時に母はカーテンを閉め、「ただいま」と帰宅してもカーテンは閉じたまま。部屋は暗く、常に母の病状を心配する毎日でした。やがて「病気のない世界をつくりたい」と考えるようになり、医者になる決意をしました。母の病気は、学びの原体験なのです。

内科医となり、毎日患者さんを診察しましたが、その数は減りません。言葉は悪いですが、社会で病人が量産され、医療システムのなかに送り込まれてくるようでした。生活者が意識を変え、社会が変わらないと、医者は薬を出し続けるだけです。

大阪市内で開業し、予防医療や栄養療法、ヘルスケアも行いましたが、「根本的な原因を解決しなければ、病気のない世界はつくれない」との思いを強くするばかり。とうとう私は3年前に臨床医を辞めました。薬の代わりに、情報や体験を“処方”して、多くの人の意識と行動を変えることで病気のない世界をつくる方向へ舵を切ったのです。

母が病気だった子ども時代、虚しさに襲われた内科医時代は、私にとってネガティブな時代でした。けれども、そんな経験が今の私をつくっているのです。ネガティブな経験から何を学び、ポジティブな行動にどう転換していくか。それは、私の学び方の軸になっています。

食養生を実践していた母が、アトピーだった私にオーガニックな食事をつくってくれたことは、食の大切さを学ぶ大きなきっかけになりました。私と、野菜を育てる土や生態系、そして地球はつながっているという事実も、野菜の味や土の香りを五感で感受することで理解できました。五感から入る情報は、すべて学びになるのです。さらに医師になり、食べることを通じて腸と地球環境の土がつながっていることや、土の豊かさには微生物の活動が不可欠であること、そして、人間により地球環境が破壊されるこの時代に、人間だけが健康でいられるはずがないという考えに至りました。2015年 、世界のヘルスケアの潮流を決める国際会議「ワールドヘルスサミット」で人と地球を一体とする「プラネタリーヘルス」という考えが発表されたとき、会場にいた私は「これだ!」と目を開きました。

「プラネタリーヘルス」な食の選択は、「健康になりたい」自分の欲求を満たしながら、腸内細菌を増やし、同時に畑の土壌も健康になり、微生物や昆虫など生物多様性も豊かに ―― と、みんなの幸せがあります。そして、ずっと抱き続けてきた「病気のない世界をつくりたい」という欲求と、その実現を阻む社会への疑問を封印することを止め、欲求や疑問に忠実になったことで、広い視座を得ることもできました。その視座を持って鳥取県・江府町に移住し、今、「プラネタリーヘルス」の実践と普及に取り組んでいます。

 (180061)

きりむら・りさ●1980年岡山県生まれ。地域創生医/東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員。産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(「鳥取江府モデル」)を構築。近著に『腸と森の「土」を育てる』(光文社新書)。
text by Reiko Hisashima, illustration by Itsu Horiguchi
記事は雑誌ソトコト2023年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね
  • URLをコピーしました!

関連記事