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展覧会『深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ』図録。妻・洋子の魅力を写した作品群

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目次

謎多き写真家が写した、妻の出勤風景。

やまぶき色の布に包みこまれた、A5サイズほどの本を裏返すと、道路で何かを見上げながら笑う女性の写真が貼り込まれていた。この本は、先日まで『東京都写真美術館』で開催されていた展覧会『深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ』の図録。この裏表紙に写る深瀬の妻・洋子を写した『無題(窓から)』という作品には、新鮮な驚きがあった。

なぜなら深瀬が洋子を写した作品といえば、黒いマントに身を包み、食肉処理場で解体される家畜と共に撮影した作品『屠、芝浦』や、洋子だけ上半身裸で深瀬の家族と実家の写真館で写した記念写真「家族」など、狂気とユーモアがないまぜになった作品を真っ先に思い浮かべるからだ。

『無題(窓から)』は1973年の秋、二人が暮らす団地の4階から、勤め先の画廊に出勤する洋子を深瀬が毎朝望遠レンズで撮影したシリーズ。洋子は深瀬を見上げ、手を水平に広げてポーズを取ったり、大きく笑ったり、舌を出して怪訝な表情を見せたり、ストレートな感情表現をする。花柄のワンピースや着物、パンツスタイルと毎日変わる服装はどれもファッショナブルだ。手に抱える日傘やバッグや本などの組み合わせも楽しい。演出された作品だけではわからなかった洋子の日常の魅力と深瀬の愛情が、あふれ出ている写真のように思えた。

1976年、「写真を撮るために一緒にいるようなパラドックス」が生じ、二人は離別する。写真から二人の心の奥底を窺い知ることはできない。でも50年前、窓から撮影していた二人の様子を想像すると、少しほっと、幸せな気持ちになれるのだ。

『深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ』

 (197879)

深瀬昌久著、トモ・コスガほか編、赤々舎刊
text by Nahoko Ando
記事は雑誌ソトコト2023年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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