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連載 | 田中康夫と浅田彰の憂国呆談

憂国呆談 season 2 volume 119

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新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、テレワークが日常の風景に。そのため、今回の憂国呆談はリモート対談となった。田中さんは東京の自宅から愛犬のロッタちゃんと一緒に、浅田さんは京都芸術大学の研究室から、新型コロナウィルスに対する日本やアメリカの対応、見送りとなった検察庁法改正案まで、日本の現状と課題に言及した。

目次

新型コロナウィルスであぶり出された日米対応の違い、
デジタル後進国の実態、検察庁法改正案の取り下げまで。

第2波、第3波に備え、PCR検査を増やすべき。

浅田 今回は東京と京都のリモート対談ってことだけど、うまくいくかどうか。一方ではZoomミーティングの映像、他方では感染を防ぐため、あるいは香港の活動家のように顔認証を妨げるためマスクをつけた姿が、今年を象徴するイメージってことになるだろうけど、教育に関しては、引き籠もりだった人もリモートなら参加できるっていうような利点はあるものの、やっぱり現場で向き合わないと伝わらないことも多いとは思うな。

田中 福岡伸一さんが『ソトコト』6月号で書いていたように、電子顕微鏡で花粉がラグビーボール大だとすると、新型コロナウィルスはゴマ粒程度の大きさ。その意味では普通のマスクが感染対策の十分条件とは成り得ないのが悩ましい。

浅田 ただ、感染者がウィルスを含んだ飛沫を飛ばすのをかなり防げるし、感染してから発症するまでの間に知らずに人にうつす可能性もあるから、みんながマスクをするのはいいことだ。自分が感染するリスクも多少は防げるし……。しかし、京都の自宅にアベノマスクが届いたの6月2日。その頃にはとっくにドラッグストアでマスクが買えるようになってた。こんなことに260億円もかけるとは(苦笑)。

田中 陽性が判明してもマスクをしないブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領は論外だけど、カビが生えたマスク騒動で検品したから時間がかかったと苦しい弁明の日本もイヤハヤ。そのために8億円も追加で税金を投入なんてありえない(苦笑)。そんなもの、製造・納入業者の責任でしょ。お大尽だねぇ、日本政府は。

浅田 まさに安倍晋三政権の間の抜けた対応の象徴だね。3月5日に習近平中国国家主席の訪日延期が発表されるまで中国全土からの入国を規制しなかったし、3月24日にオリンピック延期が発表されるまで感染者数を少なく見せるためPCR検査を絞った疑いがある。他方、4月7日の緊急事態宣言は一定の効果をもったようけど、判断の根拠となるデータと数理モデルが広く公開されてないんで正確に評価できない。5月6日の期限が迫ったころ、実効再生産数が全国で0.7、東京で0.5に下がったっていうから、解除するのかと思いきや、5月31日までの延長が決まり、結局25日に解除された、あれは何だったのか。最終的に国民の7割程度が感染するかワクチンを接種するかで集団免疫をもつまで流行は終わらないんだし、不況でも人は死ぬんだから、緊急事態を早く解除し、慎重にではあれ経済活動を再開する手もあったと思うよ。

田中 韓国は「呼吸器専門クリニック」を全土で新たに1000か所指定・運用すると発表しているように、日本も第2波、第3波が来るという蓋然性に立ったうえでPCR検査数を増やしていかないといけない。ドライブスルーでも公園でもできるんだから。死者数が少ないから検査数が少なくても大丈夫とタカをくくっている連中に限って自分は科学を熟知した「意識高い系」だと勘違いしていて呆れるよ。

 そもそも世界に冠たる国民皆保険制度の大前提として「早期発見・早期治療」を掲げていたのに、どうして「おウチで過ごそう4日間」「37.5度以上」になるんだ。1985年まで製造されていた水銀式体温計には37度が赤字で記されていたでしょ。根拠も示さず基準を変える赤ペン先生は信用ゼロのブードゥー教徒。早期発見=早期検査だし、早期治療=早期隔離でしょ。

浅田 国立感染症研究所は自前の検査で全国一律にデータを取ろうとし、地方の衛生研究所や保健所を手足に使おうとした。ところが「行政改革」で保健所数は1993年の848からいまや500を切るところまで減ってる。だったら検査を医療保険の対象にし、医師が民間会社に直接依頼できるようにすればいいのに、それはなかなか認めない。

 検査が進まなくて当然だよ。第2波以降を見据え、感染者数の増減に応じてブレーキとアクセルを使い分けなきゃいけないのに、こんな検査体制では五里霧中。「行革」を始めたのは橋本龍太郎政権時の自民党だけど、政権担当当時の民主党も共犯、維新の会にいたっては大阪の府市の二重行政の無駄を省くと称してアグレッシヴに削減を進めた。大阪府知事の吉村洋文がコロナ対策でスタンドプレーをやってるけど、そもそも自分たちが医療体制を弱体化してきた、それは知事と市長を務めた橋下徹がツイッターで認めてるとおり。

田中 カタカナ言葉の羅列で煙に巻いて“やってる感”を演出する小池百合子を評価しちゃう東京都民の「眠度」もエグいけど、6月の企業倒産件数が全国最多でも怒り出さない大阪府民の「眠度」もノーベル賞級だね。休業要請に応じた中小企業に給付する「休業要請支援金」も申請から3週間で支払うはずが2か月以上も経過。しかも吉村は申請業者名をホームページで公開する「自粛警察」。さすがはサラ金『武富士』の起こしたジャーナリストに対する計2億円のスラップ訴訟の顧問弁護士だった知事だ。

 大阪市も特別給付金の給付率が全国20政令指定都市で最低。なのに、6月中旬までの申請分は8月初旬には支払うから文句あっか、と市長の松井一郎が会見で逆ギレする始末。安定の「ナニワ金融道」だぜ。なのに、関西ローカルのテレビだけでなく、東京のワイドショーもスポーツ紙も全国紙も未だに吉村・松井・橋下「口先番長」トリオを礼賛し続けるんだから「誤送船団・記者クラブ」の闇は深いよ。

コロナであぶり出された日米の会見の違い。

浅田 ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモも合理化を進める辣腕経営者型の政治家だけど、パンデミック対応では6月19日まで毎日会見、データを示しながら現状と対策を明快に説明して、信頼を集めるようになった。検査と並んで、感染者と接触した人を追跡するコンタクト・トレーシングが必要なんだけど、日本がクラスター対策班と保健所で必死にやってきたのに対し、「トレーシング・アーミー」が必要だ、まずは3万5000人の医学関係の学生を面接してリクルートする、と。日本に足りないのはそういうロジスティクスなんだよ。

 ドナルド・トランプ大統領との会談後、「彼は私が嫌いだろうが、我々が互いをどう思うかは問題じゃない、連邦政府の援助が必要なら真摯に交渉するまでだ」と割り切ったのはかった。かと思うと手紙を取り出して読んでみせる。「親愛なるクオモさん、信じられないほど忙しいであろうあなたがこの手紙を読むことはないでしょう。私は引退した農民で、妻とカンザスの田舎に籠もっています。二人とも70代で、妻は片肺がなく糖尿病を患っています。農業をやっていた頃のN95マスクが手つかずのまま5つ残っているので、4つは家族のためにとっておきますが、1つは同封しますから、ニューヨークの看護師さんかお医者さんにあげてください、云々」。いつもどおりのドライな調子で読んだ後、「『マスクを1つどうぞ。4つは手元に置きます』。神よアメリカに祝福を。さて質問は?」と記者に振る。アベノマスクとの落差は目もむばかり……。

田中 会見の主催権は内閣記者会という仲良し記者クラブ側にあるのに、事前に質問内容を官邸側に提出して、司会進行も元・中小企業庁長官の長谷川榮一内閣広報官が取り仕切る、緩〜い首相会見は米国のみならずほかの国では考えられない。しかも「プロンプターReader」として「ジャパンLeader」が左右のプロンプター画面を見やりながら話し出す前に毎回、演台の脇をそのまま通り過ぎて写真撮影があるんだよね。会談前に外国の首脳と並んで撮影するのと違って、国民不在の空疎な儀式。

 知事就任半年後の2001年5月に「脱・記者クラブ」宣言したのも、主催権を県政記者クラブが握っていて、東京をはじめとする県外のテレビ局はお伺い書を出さないと参加できず、雑誌も新聞社系以外は認められず、しかも『しんぶん赤旗』や『聖教新聞』は門前払いだったのに呆れたから。その異常さを今でも理解できない新聞記者は多いけどね。日本ではパフォーマンス=奇をてらった目立ちたがり屋の行為と思われているけど、パフォーマンスとは本来、費用対効果が優れているクルマやオーディオを評価するときに使う単語でしょ。実体があったうえでのショーアップがパフォーマンスであって、クオモがやっているのはそういうこと。しかも論理的な説明なのに、人間としての体温を感じさせるから、市民も心を揺さぶられてしまうと。他方で大阪では「善意」で33万枚も集まった雨合羽の半分が配られずに市庁舎の玄関ロビーに段ボール箱が山積みで放置され、身内の消防局から火災予防条例違反だと指摘を受けて移動する醜態。雨合羽を府や市が買って配るならともかく、戦時中の鍋釜のように市民から回収して、職員が3密の中で整理しているのを美談のように伝えているメディアは今や死語のオワコンだね。コロナ専門病院へと改組された大阪市立十三市民病院の医療関係者が、「雨合羽で仕事をさせないでほしい」と会見場で発言したら、「雨合羽をもらえるだけでもありがたいと思え」とまたもや市長の松井が逆ギレ。その映像を報じないメディアはチキンそのもの。

浅田 大量の雨合羽が届いたらどう処理するか、そのロジスティクスを考えてないんだから、問題外だよ。

 ただ、クオモが目立ってるのは、トランプがメチャクチャすぎるからでもある。会見で開口一番、「紫外線を身体に当てれば効くらしい」とか言い出し、傍らに座るホワイトハウス新型コロナウィルス対策調整官のデボラ・バークス博士(HIV/AIDSの権威)が当惑と絶望を絵に描いたような表情に。トランプが「消毒薬を注射するのもいいんじゃないか、肺をクリーニングするようなもんだぞ」と言い出すと、目を合わせないように床を見る(直後に、医療関係機関はもちろん、消毒薬メーカーも「絶対に注射したり飲んだりしないように!」という警告を発出)。記者が「シンガポールなどでも感染が広がっているので、夏の熱と光だけで治るというのは無責任では?」と言うと、支離滅裂なやりとりのあげく「いいか、オレは大統領、お前はフェイク・ニュースだ!」と一蹴する。

 早くロックダウンを解いて経済を浮揚させたいもんだから、「民主党知事が不当に自由を奪っている、彼らの州を解放しろ」とツイッターで煽り、銃をもったトランプ支持者が各地の州都に集結してデモをする始末。他方、またも黒人が警察官に殺され、抗議のデモが広がると、軍による鎮圧を示唆、さすがに国防長官や軍人、元・軍人(コリン・パウエル元・国務長官やジェイムズ・マティス前・国防長官を含む)も批判の声を上げ始めた。再選も危うくなってきたけど、ボケかかったジョー・バイデン元・副大統領で勝てるかどうか。もうひとつの問題は、トランプが極端なんで、安倍でさえ多少ともまともに見えてしまいかねないこと……。

秋の米大統領選の行方と全世界で深刻化する経済。

田中 共和党のコア支持層が「リンカーン・プロジェクト」という政治活動委員会「PAC」を立ち上げて、反トランプのテレビ広告を流し始めた。ジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官を務めたコリン・パウエルも民主党のジョー・バイデンに投票すると明言する始末。ドナルドの忠実なだった晋三が昨年秋に「ゴールまで、ウラジミール、二人の力で駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」とウラジオストクで語りかけたロシアのプーチンは、憲法改正の国民投票が77.92パーセントと尋常じゃない賛成多数で成立し、2036年まで大統領職にまれるだけでなく、「領土割譲の禁止」も決まり、北方領土は過去完了形となった。責任を問わない日本の記者クラブのヘタレ振りは絶望的だけど、後手後手どころか迷走混迷のコロナ対応で第2波、第3波を迎えるのも心配だ。確かに感染者も死者も欧米や中南米に比べれば少ないけど、「日本はうまく封じ込められた」という理由を誰も説明できないんだからね。

浅田 確かに、環太平洋地域のアジア・オセアニア諸国は人口あたりの死者数が目立って少ない(その中では日本は多いほう)んだけど、その理由はまだわからない。とくに日本はまともに検査をしてないからねえ……。

田中 IMF(国際通貨基金)が今年の世界経済成長率はマイナス3.0パーセントと発表した翌日の4月15日に経済財政諮問会議で首相が、「今回の経済対策108兆円で国内総生産GDPを3.8パーセント押し上げる」と述べたのには驚いた。

 そもそも「真水」と呼ばれる一般会計の支出は20兆円にも満たないんだからね。で、しれっと5月18日に年率換算でマイナス3.4パーセントと修正する始末。ところが内閣記者会は、当日の官房長官会見で「認識と今後の対応方針をお聞かせください」と敬語で尋ねている。朝鮮中央テレビを笑えないぜ。

浅田 中小企業や個人事業主への休業補償に関しても、遅まきながら多少は厚くしたとはいえ、まったく不十分だし、いまだに届かないところが多い。さらに、1人10万円の特別定額給付金をマイナンバーカードで申請しようとしたらエラーが続出、やり直したら二重に申請が受理されてたとかいう大混乱。地方自治体が郵便での申請を推奨する始末。

田中 『キオクシア』と名前を変えた『東芝メモリ』や『ジャパンディスプレイ』に膨大な税金を投入したけど、いまや実質的に外国資本。e-Japan戦略と称して光ファイバーの全国普及率は98パーセントになったけど、5万6000件もの政府全体の行政手続きの中でオンライン完結型になっているのは4000件強と、全体のわずか7.5パーセントだよ。確定申告も含めて政府サイトでの電子申請経験者は5.4パーセントに過ぎない。ここでも死語のオワコンが登場するとは。

浅田 それに比べ、台湾は2月には国民がIDナンバーを示せばひとりあたり週に2つマスクを買えるようにし、若きIT担当相オードリー・タンがどの薬局にどれだけ在庫があるか一目でわかるアプリをすぐ開発した。女性に性転換してからの唐鳳って名前をオードリー・タンと読ませる、あれは鳳蘭のファンだからなのかしらん。中国から来た国民党に対し、蔡英文の民主進歩党は先住民のマイノリティを大事にしてるわけだけど、アメリカだって先住民は家父長制の伝統に固執したりするのに、香港ではレインボー・プライド・パレードで先住民も性的マイノリティと共に行進する。そういう国でトランスジェンダーのIT相が活躍してるってのは、いかにも21世紀って感じ。ちなみに副総統の陳建仁も、WHOから排除されながらもSARS危機を抑え込んだプロ中のプロだしね。

大反発を食らった、検察庁法改正案。

田中 黒川弘務東京高等検察庁検事長の定年延長の件は、多くの芸能人や著名人が「ツイッター」で法案に反対の声を上げていたところに、『週刊文春』が『産経新聞』、『朝日新聞』の社員との賭博麻雀を暴露して、彼は辞職、法案も吹っ飛んだ。「側用人」として重宝な役職者の任期を恣意的に延ばすのは、友人知人を重用するクローニズムや家族親族で独占するネポティズムという縁故主義ではないか、と市井が異議申し立てをした大きな成果だと思うよ。「NewsPicks」という「意識高い系」が集うオンラインサロンの中心人物で、「日本版ダボス会議」を主宰するグロービス経営大学院大学学長の堀義人が「なんでみんな反対するのかが本当によくわからない。人生100年時代だ」と発言して、そこじゃねーだろと思ったけどね。

浅田 日米は「中国は法治国家じゃない」って非難するけど、安倍政治も、過激な量的緩和をよしとする黒田東彦を日銀総裁にするとか、集団的自衛権発動を認める小松一郎を縁もゆかりもない内閣法制局の長官にするとか、法治ならぬ“人治”。検察人事に介入できるようにして忖度させるってのもそうで、間接的な指揮権発動だよ。韓国の司法が政権に左右されるのを批判したがるけど、自分はどうなんだ、と。

田中 イデオロギーという四角四面な意味合いから解き放たれた「倫理」が、あらゆる局面で問われているんだと思うね。これまでの知識や前例を、思い込みのように思考停止状態で受け入れてしまったり、逆に法律という「形式知」だけで対応しようとすると、新型コロナウィルスを契機に大きく変容していく世の中を見誤ってしまう。それは以前に浅田さんがっていた「因果関係は分からないと認めることから科学は始まる」という謙虚な弁証法的な思考回路にも通じる話。ある意味では創刊以来の『ソトコト』の誌面に通底している、人間と自然が織りなす“体温のマリアージュ”とも言えるかな。

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