高木美佑の『きっと誰も好きじゃない。』を読み終えて、少し切なく、温かい気持ちになった。この本は写真家の髙木美佑が、約4年の間に出会い系アプリで知り合った12名と、カフェやレストランや美術館などで、いわゆるデートした記録が綴られているフォトエッセイだ。エッセイには、それぞれとの出会いから別れまでが綴られている。実際に会うまでのメッセージのやり取り、初対面での印象、待ち合わせした場所、相手と話した趣味や恋愛、仕事のこと。文章の合間には街のスナップ写真が掲載されているが、男性の写真は一切、出てこない。最後のページには、デートの帰り際にレンズ付きフィルムカメラを男性に渡し、撮ってもらった作者の記念写真が1枚、載っていた。東京・新宿や渋谷、留学先のオーストラリアなど、デートした街のなんでもない風景をバックに、予想外なお願いをされながらも撮影に快く応じる彼ら。普段はセルフポートレートを作品にすることが多い彼女だけれど、この写真はそうではない。被写体は同じ彼女でも、撮るまでに過ごした相手との時間やそこで芽生えた関係性を文章によって知らされることで、彼女が見つめる先にいる、シャッターを押している人の存在を、自然と感じてしまうのだ。
本の中でその写真だけは、フィルムで撮影された昔の記念写真のように白いフチが付けられ、ページの上に、1枚ずつ、ていねいに貼りこまれていた。出会った人たちの中には、良い友人になった人もいれば、もう連絡先もわからない人もいるという。小さな白いハードカバーに包まれたこれらの出会いを、彼女はきっとすべて大切に思っているはずだ。
『きっと誰も好きじゃない。』
著者:髙木美佑
発行:TALL TREE