秋田県鹿角市。そこに、かつて「鹿角市立花輪北小学校」という小学校がありました。
今はもう廃校になったその校舎の前を、私は毎日のように車で通っています。
朝、仕事へ向かう通勤路の一部として。
あの頃の足音
小学生の頃、この道は毎朝歩いていた登校班の道でした。
同じ集落に同級生はいなかったので、他の学年の子たちや兄弟たちと一緒に列をつくって歩きました。
帰り道は、同級生とおしゃべりしながら、少し遠回りしたり、立ち止まったり。
そんなふうに、僕の原風景の中にはずっとこの道があります。
中学校に進学してからは、この道を通らなくなりました。
通学路が変わり、別の道を通って花輪第一中学校へ通うようになったからです。
(ちなみにその中学校も、今では花輪中学校と名前を変えました。)

戻ってきた理由
高校を卒業して進学するまで、地元のことはあまり好きじゃありませんでした。
陸上競技に打ち込んでいた私にとって、雪が多くて冬が長いことはデメリットしかありません。
でも、だからといって都会に強く憧れていたわけでもなく、
ただ何となく「ここじゃないどこか」をぼんやり思っていたように思います。
そんな自分がUターンして、今またこの道を通うようになりました。
きっかけは、母校が廃校になるという噂でした。
「まだ大丈夫だろう」と思っていたその場所が、静かに失われようとしていた現実に、
急に地元の未来が気になりはじめたのです。

子どもたちに“意味のある道”を
Uターンしてまもなく、母校である花輪北小学校は廃校となりました。
私は農業法人に就職しました。
小学校から高校まで地元で過ごしていた頃は想像もしていなかった職業です。
というより地元にどんな仕事があるかなんて考えたこともありませんでした。
いま私は、鹿角市で「しごとーーいかづの」という小学生向けのキャリア教育イベントを開催しています。
昔の自分が何も考えずに歩いていた“この道”を、
今の子どもたちには、少しでも意味のある“道”として歩んでほしい。
そんな思いが、どこか心の奥にあるのかもしれません。
母校の前を通るたび、あの頃の自分とすれ違うような気がします。
特別な景色ではないけれど、
通い、離れ、戻ってきた先で、もう一度出会った道だからこそ、
そこに自分の変化が重なるのだと思います。
何も変わらない道が、
少しずつ変わってきた僕自身を映してくれるようで。
そんな道を、今日もまた車で走っています。