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サスティナビリティ

特集 | SDGs~地球環境編~|これからの世代につなぐ、地球環境について考えてみる!

高木超さんが解説する、SDGsと地球環境と私たちの社会。

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SDGsを実践する上で知っておきたいこと、心がけたいことは何ですか? 自治体のSDGs活用に詳しい高木超さんが参与(SDGsアドバイザー)を務める京都府亀岡市を、高木さんの案内で巡りながら、SDGsや地球環境について語ってもらいました。

目次

17の目標は、自分に投げかけられた「問い」。

 こんにちは、高木超です。慶應義塾大学大学院で特任助教を務めながら、SDGsに取り組むいくつかの自治体のアドバイザーも拝命しています。今日はその一つ、京都府亀岡市に来ています。

 今、企業や個人、学校や自治体などが盛んにSDGsに取り組んでいますが、一般の方でSDGsとは何かを明確に理解されている方は、それほど多くはないと思います。世界全体で解決すべき17の目標がカラフルな図で示されていますが、「自分とは遠い世界のこと」と距離を置いてしまっていないでしょうか? 確かにSDGsが掲げる目標は壮大で、どうやって課題解決に向かえばいいのかわからないという気持ちもわからないではありません。ならば、こうしませんか? グローバルな課題を身近な課題に「翻訳」し、自分に引き寄せてから取り組むのです。

 例えば、目標1「貧困をなくそう」は遠い途上国の課題だと思い込んでいるかもしれません。ただ、日本にも「相対的貧困」という言葉があるように、貧困は社会課題として存在し、「子ども食堂」などサポートする活動も行われています。そんな活動に参加したり、応援したりすることで、先進国の貧困を解決に導くことができます。

 あるいは、目標12「つくる責任 つかう責任」では、児童労働の問題を例に考えてみましょう。児童労働も途上国の課題だと思われるでしょう。でも、皆さんが着ている服のタグを見てみてください。生産地が途上国で値段も安価だったら、児童労働でつくられていないだろうかと想像することもできます。素材のコットンが、厳しい労働によって生産されている場合も考えられます。つまり、消費する私たちにも「つかう責任」が問われるのです。なぜ、途上国の貧困がなくならないのか。もしかすると、原因の一つは私たちの買い物の仕方にあるのかもしれません。そうだとしたら、児童労働ではない、生産者とのフェアトレード(公正な取引)に配慮されてつくられたものを買うエシカル消費を心がけたいものです。

 17の目標に向き合ってみると、途上国だけの問題だとは言い切れなくなり、先進国に生きる私たちの生活にも関係している課題だとわかってきます。17の目標は、世界から私たちに投げかけられた「問い」だと考えてはいかがでしょう? 17の目標から、自分に身近な問いをつくり、自分で答えを導き出すのです。

 いい問いをつくるためには、「SDGsの眼鏡」をかけることをおすすめします。私が勝手につくった眼鏡で、レンズの周りのフレームに17色の装飾が施されています。この眼鏡をかけると、さまざまなものを「SDGsの視点」で見ることができます。例えば、社外報やチラシをつくって情報発信をするとき、文字のフォントに気を配るという視点が生まれます。明朝体は広く使われているフォントですが、視力の弱い人には「3」と「8」、「ぺ」と「べ」などの判別が難しいことがあります。そこで、ユニバーサルデザインフォントという誰にも見やすいフォントを使うと親切です。ビジネスに関する情報発信でそのフォントを使えば、これまでリーチできなかった顧客にも訴求できるかもしれません。

 そんなふうに、SDGsの視点を取り入れることで、毎日の暮らしや仕事を見つめ直すきっかけにしてほしいと考えます。

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亀岡市はパラグライダーも盛んな地。役目を終えたパラグライダーはアップサイクルされ、「HOZUBAG」に生まれ変わる。

近頃、高木さんが気になる地球環境問題は?

 最近、よく耳にする海洋プラスチックごみが気になります。「ダボス会議」を開催することで知られる『世界経済フォーラム』が、このままプラスチック資源を使い続けると、2050年までに世界の海に漂うプラスチックごみが重量換算で魚の量を超すというレポートを発表しました。海に釣りに出かけたら、魚よりもプラスチックが釣れたなんて笑えない事態が起こるかもしれないのです。

 マイクロプラスチックも深刻です。一昨年、神奈川県茅ヶ崎市の海岸でたくさん拾い集めることができました。そのなかに、ポリエチレン製の肥料カプセルもありました。農家が田んぼに撒く肥料で、撒いた後のカプセルは用水路から河川へ流れ、海までたどり着きます。さらに、緑色の人工芝の破片、摩耗したタイヤなどの微細なプラスチックごみは風で海まで運ばれてくるようです。

 ここで、前章で話したSDGsの視点が得られる「SDGsの眼鏡」をかけてみましょう。海のプラスチックごみの削減は、目標14「海の豊かさを守ろう」に該当する課題ですが、沿岸部の自治体だけの問題ではないのです。陸と海は、川によってつながっているからです。つまり、内陸部でプラスチックの使い捨てを減らせば、海のプラスチックごみの量の削減にも関係します。飲み終わったペットボトルを回収ボックスに入れずに道路脇などにポイ捨てすれば、側溝から川へ流れ、海へ出てしまうのです。内陸部に暮らす人たちが自分たちと海のつながりを意識すれば、同時に川でつながる海の豊かさを守ることもできるのです。

 また、気候変動も待ったなしです。局地的豪雨や線状降水帯など、かつてないほどの激しい雨が突然降り、甚大な被害を及ぼすことも珍しくありません。保津川の下流となる桂川が豪雨によって氾濫し、観光地の嵐山付近で大きな被害が出たこともあるそうです。

 気候変動は地球の平均気温の上昇、すなわち地球温暖化によって起こる異変ですが、その影響は生態系にも及びます。生物の生息地が変わり、農作物の被害も頻繁に起こることも考えられます。同時に、外来種の問題も発生しています。温暖化したことで外来種の生息地も広がっているのです。

 いずれにせよ、気候変動対策に取り組むための時間があまりありません。2015年に開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」では気温上昇を1.5度に抑える努力をし、そのために21世紀後半には温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという目標が掲げられました。SDGsでも目標13で気候変動対策の必要性を訴えていますが、目標達成を目指す30年まで、すでに10年を切っています。「行動の10年」を掲げていますが、間に合うでしょうか?

 より大きな目標を達成するためには“ムーンショット”を放つことが大切ですが、10年を切った段階では徐々に現実的な提案ばかりが出されるようになる気がします。さらに、「もう考えている暇はない。目標達成のための答えを教えてくれ。答えに従って行動するから」と早急な答えを求める人も増えてきそうですが、それは、ダメです。一刻も早く取り組むことも大事ですが、「自分で考えること」も大事です。仮に教わった答えで目標を達成したとしても、それから後は続かないでしょう。

 それでは持続可能とは言えません。地球環境問題に関しては、2030年以降を見据えながら考えつつも、急いで行動する姿勢が求められているのです。

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「プラごみゼロ」のロゴマーク。亀岡市民と考案。

SDGsの達成は、豊かな多様性があってこそ。

 保津川下りで知られる保津川では、多くのボランティアが清掃活動を行っています。豊かな自然を守るために、地域が一体となって取り組んでいます。ここで、「SDGsの眼鏡」をかけてみましょう。

 そもそもプラスチックごみが川に落ちている原因は、市内のスーパーやコンビニエンスストアで使い捨てのレジ袋やプラスチック容器が使われていることにもあります。ならば、その使用をやめればプラスチックごみは発生しないし、川もきれいになるはずだという視点を持ってつくられ、今年1月に全国で初めて施行されたのが、亀岡市の「プラスチック製レジ袋提供禁止条例」です。桂川孝裕市長は、「施行後、98パーセントの市民がマイバッグ持参で買い物をするようになり、レジ袋はほぼすべての店舗で使用されていません」と話します。さらに、「保津川のレジ袋関連のごみも減ったので、今後はペットボトルの使用削減にも取り組みたいです」と言います。

 ペットボトル使用削減の動きは、SDGs未来都市に選定されている亀岡市をはじめ、企業と連携しながら広がっていくと思われますが、その一方で、SDGsの理念として掲げられている「誰一人取り残さない」という考え方も忘れてはいけません。

 ペットボトルの使用をやめると環境にはいい影響を及ぼすでしょう。ただ、ペットボトル関連の企業の雇用についても考えなければなりません。その考えは、目標8「働きがいも経済成長も」に該当するかもしれません。そこで、企業、小売業者、消費者、行政などペットボトルの製造や使用などに関係するステークホルダーが集まって議論を重ね、納得できる理想の形を見出すことが重要になります。立場や考えの異なる人たちが、同じ土俵で対話するための共通の枠組みとして、SDGsを活用してほしいと思います。

 そんなふうに、一つの目標達成のために始めた取り組みが、ほかの目標にはマイナスの影響を及ぼしてしまうことが、SDGsでは往々にして起こり得ます。これは「トレードオフ」と呼ばれていますが、そんな場合もステークホルダー同士で議論し合うことが重要な解決方法になると思っています。

 なぜなら、SDGsは完全なものではないからです。例えば、目標5は「ジェンダー平等を実現しよう」と謳い、男女の格差についてはターゲットにも書かれていますが、LGBTQの権利は書かれていません。「すべての人に平等を」という表現でカバーしているのかもしれませんが、LGBTQという単語そのものは書かれていないのです。不十分な気もします。

 最初の「SDGs?」の章で、SDGsは目標が壮大過ぎて、自分とは無関係だと思っている人に向けて、グローバルな課題を自分に身近な課題に「翻訳」すればいいと言いました。それは、SDGsのローカライズです。ただ、翻訳するだけではなく、自分たちに必要なものは何か、自分たちで考えて、SDGsを主体的に活用しながらアウトプットを導き出す。それによって、自分たちの生活に何かよい変化が起こる。それが、SDGsのローカライズと言えるのではないでしょうか。

 持続可能な開発は、豊かな多様性があってこそ実現できるものと私は考えています。ソーシャル・インクルージョンという考え方もSDGsのキーワードの一つと言えるのではないでしょうか。日本は人口減少社会を迎えていますが、そんな時代に、高齢者、女性、障害者、外国人といった弱い立場に置かれてしまいがちな多様な人たちが社会の一員としてインクルージョンしていける。そうした世の中をつくっていくためにも、SDGsを主体的に活用していくことを期待しています。

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レストラン、コワーキングスペース、作品展示、農産物直売など多様な使われ方をされる『開かれたアトリエ』にて。
高木 超さん
たかぎ・こすも●1986年東京都生まれ。NPOなどを経て、2012年神奈川県大和市役所職員。17年に退職し、クレアモント評価センター・ニューヨークの研究生となり、「SDGsと評価に関するリーダーシップ研修」を修了。著書に『まちの未来を描く! 自治体のSDGs』(学陽書房)、『SDGs×自治体 実践ガイドブック』(学芸出版社)。
photographs by Hiroshi Takaoka  text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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