ハッシュタグは#MendItMine。服のMendingで、ファッションを楽しむムーブメント。

ハッシュタグは#MendItMine。服のMendingで、ファッションを楽しむムーブメント。

東京・渋谷区の代々木公園に集まった4人の若者。手には服や本。メンディングを通して服と自分、服と社会の関係を見直すムーブメントを起こそうとしている『MendItMine』のメンバーだ。

 トップ画像の『Mend It Mine』の4人。公園に集まって行っているのはメンディングだ。この英語を直訳すると「修繕」という意味になり、服を直し繕うという意味にも使う言葉だ。器用に針を動かす人、ゆっくりと針を進める人、さまざまだ。

「服をメンディングする」という行為を通して、さまざまな価値観を持つ人たちがゆるやかにつながり、服と自分、服と社会について考えようと呼びかける『Mend It Mine』らしい風景だ。

少しの工夫で、服をよみがえらせる。

『Mend It Mine』の始まりは2020年の夏。当時、大学院修士課程の2年生だった杉浦由佳さんの呼びかけで3人が集まった。

 環境や自然保護に興味があり、生態学を学んでいた杉浦さん。留学先で、アパレル産業が環境に与える負荷が大きいことや労働環境の悪さなどを知った。「服の大量生産・大量消費、大量の在庫廃棄は深刻ですし、服の製造や素材の生産現場では児童労働や農薬の問題なども起きています。服と環境問題がつながっていることに気づけました」。

 そして心がけたいと思うようになったのは、環境に配慮され、適切な労働条件の下で作られたエシカルな服を買うこと。けれど、そもそもたくさん服を持っているのに新しく買う必要があるのだろうか、と自分のワードローブを見直した。「すこし色あせていたり汚れたりしているけれど、捨てるにはもったいない、そんな服がクローゼットにたくさんあることにハッとしたんです」。

 そこで杉浦さんの目にとまったのは、以前着ていたチェックのスカート。「ポケットやベルト通しの合皮が剥がれていただけなので捨てる気にはなれず、別布を当てるなど手縫いで補修しました」。

 この行為を杉浦さんは”メンディング“と呼ぶことにした。「お直しやお繕いという日本語もあるのですが、それだと技術のある年配の方がやっているイメージになってしまいます。そうではなくて、もっと気軽に、楽しく、ちょっとした工夫で服に個性を付け加え、よみがえらせる方法があることを伝えたくて、メンディングという言葉を使うことにしました」。

薄くなったプリント柄にあらためて刺繍をしたTシャツを着る杉浦さん。

共感のポイントは、ひとつではない。

 少し汚れたり、破れたり、穴が開いたり、柄が薄くなったり、なんとなく着なくなってしまったり。そんな洋服には、捨てたり、売ったり、寄付するほかに、もう一度着られるようにするためにメンディングという方法があることを多くの人に伝える『Mend It Mine』。

 杉浦さんはそれを”ムーブメント“と位置付けている。大切にしたいのはメンディングをすることだけでなく、メンディングを通して服を大事にするその方法やその楽しさやおもしろさ、創造性、さらにアパレル産業にある課題を知ってもらうことだからだ。

 そんな『Mend It Mine』に共感し、さまざまな人が集まってきている。今年4月から社会人となった杉浦さんに代わって代表を務める真田ハンナさんは、個性あふれるメンディングの服をSNSにアップしている。「私はファッションデザインを勉強していて、服をよみがえらせて長く着る、というコンセプトに共感しました」。祖母世代が着ていた古い洋服に、自分の表現としてひと手間加え、リメイクするのが好きだという。

 副代表を務める夏目絢太さんは「フェイスブックで杉浦さんの投稿を読み、環境問題とファッションを関連づけられる活動に興味を持ちました」と話し、同じく副代表の平田結渚さんは「デンマークでファッションビジネスとサスティナビリティについて学ぶ予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でいけなくなってしまいました。日本でなにかできないかと考えていたときにこの活動に出合いました」と語る。

好きなパステルカラーのラメ入り刺繍糸で、ダメージ・ジーンズの穴がこれ以上広がらないようにメンディング。

メンディングで気づく、服と私の関係。

 活動開始から1年。インスタグラムで『Mend It Mine』のアカウントを覗くと、出てくるのは”ひと手間“かけられた服の数々。

 かかとを補強した靴下や穴を繕ったブラウス、ワンポイント刺繍を入れたTシャツ──。祖母や母の洋服のリメイクも出てくる。#MendItMineで検索すれば、さらにたくさんの手直しを施した個性あふれる洋服が現れる。また写真に添えられた文章には、工夫したポイントや、メンディングした服への愛着や新しくなったことへの喜びがあふれていて、共感の輪の広がりを感じる。

『Mend It Mine』の活動のなかで、前出の4人も服への意識が変わっていったのだろうか。

 平田さんは、長く着られることを基準に服の素材やデザインを選ぶようになったと語る。「どこでどんな人たちが、どんな環境でつくっているか、ブランドのホームページなどで調べて、納得できるものを買うようになりました」。

「実はまだメンディングまではしていないのですが」と言う夏目さんだが、実家に眠っていた服を掘り起こして、着てみることにした。「今穿いているズボンも実家に6年くらい眠っていました。けっこう着られますね(笑)。活動に参加して、買う服も減りました」。

真田さんの母親が子どもの頃に着ていたカーディガンに、ニットの花のモチーフを付けてリメイク。

 杉浦さんは「自分のファッションスタイル」について考えるようになったという。「以前は流行や安いからという理由で服を選んでいました。でも”長く着る“ことを選択の基準にした時に、流行っていても来年は着ないと感じる服は買えない。逆に5年後も着たいと思える、本当に自分に似合うスタイルの服ってなんだろうと、自分の好みやスタイルを問い直すことにもなりました」。

 真田さんはメンディングによって、「まあ、好き」な服が「最高に好き」に変わっていく、そのことに魅力を感じている。「私にとってどんな服を着るかは、どんな自分を表現するのかと同じ。メンディングした服で自分らしさを表現する人が増えたらうれしいです」。

 それぞれに服と向き合ってきたメンバーたち。これからは男性の参加者も増やしたい、アパレル産業の現状も伝えていきたいとやりたいことが次々に出てくる。

 針と糸があれば、どこででも誰でもできるメンディング。小さく個人的な行為だけれど、服と自分、服と社会について考えるきっかけを与えてくれる。そして服を選ぶ基準が変わっていけば、それはファッションというものの考え方やファッション業界のあり方を変え、ひいては社会を変えていく可能性をはらんでいる。

 まずは自分のワードローブを見直してみることから始めようか。

今年3月28日に行われた「すみだ公園日曜ヤッチャバwith EARTH MALL」では展示を通してメンディングをPR。

photographs by Mao Yamamoto text by Reiko Hisashima

記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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