次世代に負債を残さないために。テンダーさんの『ダイナミックラボ』。

次世代に負債を残さないために。テンダーさんの『ダイナミックラボ』。

鹿児島県南さつま市にある『ダイナミックラボ』。運営するのは、一般社団法人『その辺のもので生きる』だ。なんだかおもしろそうな雰囲気が漂うネーミングだが、次世代が安全安心な環境で暮らせるように、自身を養う技術を伝える、真剣な姿がそこにあった。

高度な道具が使える、開かれたラボ。

 ファブラボとは、コンピューターで制御できる工作機械やさまざまな道具が備わる、誰でも高度な道具を気軽に使える開かれた市民工房のことだ。しかし、ここ『ダイナミックラボ』は、都会のビルの一室に3Dプリンターやレーザーカッターが置かれた、これまでに目にしてきたファブラボとは様子が異なっていた。鹿児島空港から車で1時間の自然あふれる場所にあり、2013年3月に廃校となった小学校を改装。丸ごとラボにして、2017年5月にオープンした。「日本のファブラボの多くは卓上でのものづくりですが、ここは鉄工がメイン。鉄を使わないと大きいものはつくりづらいので」と『その辺のもので生きる』代表理事のテンダー(小崎悠太)さんが説明してくれた。

 ファブラボは元々、アメリカのマサチューセッツ工科大学教授による取り組みで、困っている人ほど高度な技術が必要という思想から、インドの農村地区やアメリカ・ボストンの低所得者地域などで2002年から始まった。『ダイナミックラボ』はその思想に基づき、世界の解決すべき課題に目を向けて、廃材や廃物の利用、自然技術の伝承、生態系が豊かになることを目的に運営。また、自然技術の体験ワークショップなども行っている。

 1階には、鉄工部屋、デジファブ(デジタルファブリケーション)部屋、国際会議場、図書室&カフェ、プラスチック部屋、元放送室のDJ室がある。鉄工部屋には、高精度の加工に必要な器具類がそろい、基準面となる「定盤」、高さを測定する「ハイトゲージ」、固定具の「マスブロック」のほか、鉄工の必需品が所せましと並ぶ。また、隣のデジファブ室には3Dプリンターや、分厚い板を自由に切れる自作した巨大なレーザーカッターもある。

 「ラボにある機材の9割がもらったものです。使わなくなった機械を寄付してくれたり、私が遠方に出かけるついでに引き取ってきたりしました。この鉄工部屋で買ったのは、インパクトドライバーと丸鋸くらいです」とテンダーさんは部屋を見渡した。『ダイナミックラボ』の建物も機材や道具類も、使われなくなったものが生かされている。

鉄工部屋の様子。『ダイナミックラボ』の機材の9割はもらいもので、賛同者から送料も先方持ちで寄付してもらえることも。

経験が重なり合い、ファブラボに行き着いた。

 テンダーさんがファブラボを設立したのには、20代で経験した3つの出来事が大きく関係している。1つは、核燃料の再処理事業への反対運動が起こっていた地域に1年間移り住んだこと。そこで、人の信念を変えることは難しいが、信念を変え得る「モノ」をつくることはできるのでは、と思うようになった。また、国際交流を行う船旅で世界を巡り、明日をどう生きるかという状況に立たされている国や地域では、環境や政治が切実なことだと理解できた。そして、お金に左右されない人生を歩みたいという思いから自然を生き抜くための先住民技術をアメリカで学んだ。しかし、生態系が貧弱になってしまった日本でその技術に頼って生きていくことは困難だと、体験から悟ったという。

 その後、このような自然環境に導いてしまった要因の一つである政治を変える必要があると思い、選挙にて候補者の戦略などのコピーライトやデザインを行うように。そして2016年、テンダーさんに転機が訪れた。鹿児島市内に講演に来ていたITエバンジェリストに今一番ホットな話題を尋ねたところ、“ファブラボ”という答えが返ってきたのだった。「自然を壊さない北米先住民の技術を用いて、これまでと変わらずに環境活動をして、そこに行政も関わることができて、ここでの活動が最新事例として扱われる。これまでの自身の経験や気づきの集合地点がファブラボだと思い、産・学・官の連携が取れるので戦略的にこれを選びました」。

テンダーさんこと小崎悠太さん。かつてバーテンダーをしていたことに由来するという。

問題の質を変える「プレシャス・プラスチック」。

 テンダーさんは近年、「プレシャス・プラスチック」の活動に力を注いできた。これは、使われなくなって廃棄されたプラスチック(以下廃プラ)を破砕してから溶解し、新たなプラスチック製品に蘇らせるオランダ発のプロジェクトだ。プラスチックを破砕するためのシュレッダーや溶解させたプラスチックを成形する機械(射出成形機)などのつくり方、設計図、データなどの情報が無償で一般公開されているオープンソースの取り組みで、世界中で誰もが自由に利用できる。

 2016年、このプロジェクトの動画を見たテンダーさんは、プラスチックが今起こしている根本的な問題の質を変えることができるかもしれないと思い、感銘を受けたという。その後すぐに公開されている図面を地元の鉄工所に持ち込み、破砕機と六角タイルの金型を発注。金属加工を得意とする義父から技術を学びつつ射出成形機を自作して、廃プラからのものづくりを始めた。

 まちや海岸で拾ったプラスチックごみでつくったタイルをイベントに持っていくと、飛ぶように売れた。まちや海がきれいになって、商品ができて収益にもなると分かり、テンダーさんは研究を続けることに。そして、建材製造に必要な押し出し機を自作して廃プラから角材をつくり、また家庭用アイロンを使い、ペットボトルキャップからアクセサリーをつくる方法も開発。ついには、捨てられたアルミ缶やアルミサッシを溶かして金型をつくるまでになった。2020年には海岸清掃で拾ったアルミ缶から金型をつくり、拾ったプラごみを破砕してその金型に流してバングルをつくることに成功。海岸清掃から収益につなげるモデルに着手できたのだった。

廃プラからつくられたタイル。

価値を変える仕組みをつくる。

 「プレシャス・プラスチック」についての研究を深めていく間に、国内外の団体や個人に対して技術提供や製作協力を行うなど活動の幅が広がった。そして海外の実践者と連携を取るほうが学びが多いという理由から、2019年に『プレシャス・プラスチック・ジャパン』を設立。より本質的なプラスチックの理解と利用の視座を共有する活動を行っている。

「これまで、私にとってのプラスチックという言葉は、『大量生産』『チープ』『使い捨て』の代名詞でした。ところが、プラスチックの研究を進めるうちに、その語源はギリシヤ語の『プラスティコス』であり、可塑性がある、自由に再成型できるという意味だと知りました。自由に再成型できる素材であれば、そもそも捨てる必要すらありません」とテンダーさん。

 価値が見出されなくなったものは捨てられてごみとなるが、アルミから金型を作り、廃プラから新たなプラスチック製品をつくれば、これらは“価値を見出されなくなったもの”ではなくなる。ごみ問題を誰も不幸にせずに解決するには、人々が望んで目の前のごみを拾いたくなったり、そもそも捨てたくないと思えるシステムをつくることではないか。テンダーさんはそう考える一方で、市場にあふれているプラスチック製品を新たにつくり出したところで、構図は何も変わらないことにも気づいた。「世界には今、何が足りていないのか」と問うことが、「プレシャス・プラスチック」の次の段階だろうと、テンダーさんは思っているという。

廃プラを破砕したペレット。カラフルさに思わず心が動く。

次世代に向けて教育にも力を入れる。

 限りある時間の使い方を考え、今後は子どもへの伝承に力を注ぎたい気持ちが強くなったというテンダーさん。これまでに、鹿児島県や東京都の理科教職員の研修、鹿児島県の高校で「サバイバル理科」の授業を行ってきた。公教育には経験と知識が結びつく授業が足りていないと思い、火起こしの授業では火起こしを通じて熱力学、摩擦、分子構造、熱崩壊のほか、素材のことや体の使い方までも学ぶという内容にした。

 さらにテンダーさんは今年2月から、多様な背景を持つ人々や多様な価値の存在に寛容な社会をつくることを目指して事業を行う財団『国際文化フォーラム』と、世界中の中学・高校生に向けたオンライン講座「その辺のもので生きる」の企画講師を担当している。アルミ缶を使って金属加工や鋳造について学んだり、3D設計と3Dプリントのやり方を覚えたり。また、雨水タンク、コンポストトイレ、廃プラ製品づくりなどをとおして、技術や構造だけでなく、関連する社会の課題なども併せて学べる内容に。テンダーさんがこれまでにたくさんのものを修理し、廃棄物から機械や道具をつくっていく中で分かったこと、自身ができるようになったことなどを伝える講座になっている。

 子どもたちへの伝承に注力する以外にも、世界の水資源の問題に伴って、雨水を貯める文化をオープンソースでシェアできるよう、現在は雨水システムを研究して本を執筆しているというテンダーさん。世界を変え得るモノを淡々と追及していく。

テンダーさんがオンライン授業などを行う国際会議場。世界中の中学・高校生に向けて雨水システムを伝えるなど、教育にも力を入れる。

photographs by Yuki Inui text by Mari Kubota

記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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