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福井県立若狭高等学校海洋科学科教諭|小坂康之さんが選ぶ、SDGsと地球環境に触れる本5冊

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水産高校として長い歴史がある福井県立若狭高等学校の海洋科学科で教鞭をとり、アマモの定植活動や海のプラスチックごみ回収活動など環境教育に取り組む小坂康之さん。物事を深く探究する楽しさを生徒や子どもに伝えるために読んでほしいと薦める本です。

小坂康之さんが選ぶ、SDGsと地球環境に触れる本5冊

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(左上から時計回りに)2.『学校を変える力 ─イースト・ハーレムの小さな挑戦』/1.『子どもたちがつくる町 ─大阪・西成の子育て支援』/3.『コミュニティ・オブ・プラクティス』/4.『学校を改革する ─学びの共同体の構想と実践』/5.『自立論 ─子どものやる気を引き出す親になる』 
 日雇い労働者のまち、大阪・西成区で子育て支援を行っている5人の方々に、著者である大阪大学教授の村上靖彦さんが現象学的手法でインタビュー調査を行い、内容を分析されたのが『子どもたちがつくる町』です。現象学は哲学の一つで、目の前にあるものをどうやって認識するかを追究する学問。目の前にあるもの、つまり、子どもたちの存在を周りの大人たちがどう認識しているのかを、村上さんが丹念な聞き取りによって明らかにします。『こどもの里』『わかくさ保育園』『にしなり☆こども食堂』などの代表者が子どもたちとどう接しているかがありのままに表現されていますし、村上さんの見取り方も素敵です。「見取り」とは教育用語で、子どもたちの表情や言葉をよく観察し、その子を知ろうとする姿勢のこと。村上さんの見取り方は現象学のプロの視線で、隠れた部分を明らかにするとてもていねいな見取りです。

 見取りは、環境教育や環境活動においても重要です。僕も生徒と海にアマモを植えたり、海のゴミを拾ったりしていますが、そもそも地球環境を汚したのは大人です。その大人の考えを生徒に押し付けたり、こう考えてほしいという方向に誘導したりするのではなく、生徒は何をどう捉え、考えているのか、大人が見取り、受け止める姿勢が大事なのです。上から目線や押しつけでは、環境問題に関するリアルな解決方法やおもしろい発想は生まれないでしょう。この本は「まちづくり」がテーマですが、それは「環境づくり」にも通じるものだと思います。

 『学校を変える力』には、アメリカ・ニューヨーク州のハーレムにある荒れた公立中学校を改革し、地域や州全体の教育も変えていった著者のデボラ・マイヤーさんの活動が記録されています。マイヤーさんが大切にしているのは、民主主義教育。弱者や少数意見を大事にしながら、AorBの多数決ではなく、AとBを融合させてCを生み出す、という民主主義的な取り組みの記録がアーカイブされています。

 また、「教育に大事なのは見取りだ」と言いましたが、主体性を導き出すために問いを立てることも重要です。僕も、環境や水産などの専門的な知識から問いを立て、生徒を深い学びにいざなうように努めています。その問いに対する答えを考えるなかで、環境のことをより深く認識したり、現状を把握したりしていきます。マイヤーさんもとてもいい問いを立てるので、生徒たちは探究するおもしろさや学びの本質に気づき、学校や地域で自ら課題を見つけ、解決していったのです。

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小坂康之(こさか・やすゆき)●福井県立若狭高等学校海洋科学科教諭。楽しいから学ぶんだ! をモットーに海の教育、探究的な学習に取り組む。今までに地域と連携した海の再生活動や地域食材を利用した商品開発など指導。福井県優秀教職員、授業名人。
photographs by Yuichi Maruya text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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