徳島県・神山町の物産を扱う『かまパン&ストア』と、つながりのある全国の生産者の商品を販売する東京都・銀座の『かまパン&フレンズ〈ナチュラル物産館〉』。この2か所で「販売」に関わってきた弓削今日子さんに、地域の物を販売する直売所のヒントになる本を選んでもらった。
弓削今日子さんが選ぶ、道の駅をつくる本5冊

食に関わる販売の仕事をするなかで、店で売っている野菜のびん詰めの野菜の育て方も加工する方法も知らないことに気づき、より現場に近いところへ、と『フードハブ・プロジェクト』が運営する徳島県・神山町の『かまパン&ストア』で働き始めました。“地産地食”を掲げる、いわば直売所の『かまパン&ストア』では、基本的に地域の人たちに神山町の食を届けるという視点で商品を選び、販売しています。たとえば、ヨモギやビーツのパンは、地元で育てた素材を生かしてパンにしたらどうだろうという発想からでした。「材料があるからつくる」という、食べたいものをつくるために材料を買う東京生まれの私にはない発想で、商品をつくってきました。
そんな神山町の食について学べるのが『神山の味』です。昭和50年代に、神山町の主婦たちの『生活改善グループ』がまとめたレシピ集を復刻したもので、私たちの「バイブル」だと思っています。郷土料理のレシピは、鮎を川で釣ってくる、あるいは畑の大根を切って干す、そんなところから書いてあり、風土と食のつながりがとてもよくわかります。地域の方々がつないできた「神山の味」を、販売を通して、町内外の人に伝えていくことは、直売所の役割だと思っています。
「この商品のつくり手を知ってほしい」。2つの店での経験で、私がいちばん思うことです。この考え方に近いと感じたのが『おいしいものには理由がある』です。著者の樋口直哉さんが、さまざまな食材や調味料の背後にあるストーリーを紹介しているのですが、つくり手としっかりと関係を築き、取材し、まとめています。つくり手に寄り添っていることがきちんと伝わる内容で、私が商品を通して伝えたいことと同じだと感じます。オーガニックやグルテンフリーという情報も大切ですが、たとえば生産者から届く「冬、水道が凍ってとても難儀していますが、地元の人はびくともしていません」とか、「さとうきび畑を子どもたちが走り回っています」というささやかな日常をお客さまに伝えたい。それによってお客さまとの会話も弾みますし、生産者自身についても知ってもらえます。それができるのが直売所ではないでしょうか。
私たちの仕事は、つくり手とお客さまを“つなぐ”こと。いいことも悪いこともひたすら話しまくって、お互いの声を届け合うことで、商品を通したよりよい関係を築けると思います。

photographs by Yuichi Maruya text by Reiko Hisashima
記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。