ことば

連載 | リトルプレスから始まる旅 | 96 ことば さがす 尾道

それぞれが見つける風景、ことば。


 今回紹介するリトルプレスは、東京在住の安達茉莉子さんが、広島県尾道市について語ることばを探し、記憶を書き留めたイラストエッセイ集『ことば さがす 尾道』。


 昨年末、岡山県玉野市の宇野港と香川県高松市の高松港を結ぶ航路として利用されてきた「宇高航路」が、109年の歴史に幕を閉じた。


 穏やかな瀬戸内海を航行しながらの船上のひとときはなくなり、今は記憶の中にだけある風景。


 岡山市から、JRで1時間ほどの距離の尾道市も瀬戸内海に面した小さな街。目の前にある向島との間には、渡船(フェリー)が本数は減らしつつも、今でも市民の足として運航されている。


 尾道の最初の記憶は、僕が広島の大学生だった30年ほど前、岡山から広島へ向かう途中に立ち寄った時のもの。子どもの頃にも旅行で訪れたことがあるはずなのに、この時の記憶が上書きされている。


 尾道水道を見下ろす千光寺公園へ上る。当時からある展望台は、夕刻近くで人影はまばら。寂れた観光地を感じながら、屋上へ上る。


 見渡せるのは、尾道の街と、数百メートル先にある向島、その間の海峡、尾道水道。


尾道、向島、 瀬戸内海。
尾道、向島、瀬戸内海。

 日が暮れるに従って青く染まる景色に、住宅や造船所、工場や車の光が橙色に光り、尾道水道を色とりどりに染める。


 その間を渡船が行き交い、人の行き来と瀬戸内の自然が混ざり合って、尾道にしかない風景と色をつくり出していた。


ことば さがす 尾道


 もちろん、これは僕が感じた尾道の印象。尾道は坂の街、お寺があり、猫がいて、ラーメンがあって、大林宣彦監督の映画の舞台。人それぞれに趣を変える特別な街だと思う。


 安達茉莉子さんは、イラスト地図の制作を頼まれたことから、尾道を訪れるようになった。何度かの訪問は、合わせて1か月ほど。尾道に魅せられ、夢中で歩き回り、いろいろな人と出会い、彼女が過ごした時間を、一冊にまとめたのが『ことば さがす 尾道』。


ことば さがす 尾道


 「尾道は手をつないで歩くには最高のまちじゃ」と聞き、しまなみの眺めをで、宝土寺の境内で小さな女の子の声を聞く。


 景色や人と触れながら集めたことばを橙色で綴り、熊のような旅人が尾道で過ごした時間を青緑色のイラストで写しとる。


 尾道を訪れた人には、それぞれに出会いがあり、さまざまな魅力を感じ、いろいろな過ごし方がある。安達さんがつくった小さな本の中に、彼女の見つけた、尾道の特別な魅力と出会うことができた。


『ことば さがす 尾道』著者から一言 


『ことば さがす 尾道』著者から一言


 尾道で出会った両親から「美しい場所」と聞いていた尾道。イラスト地図制作のために訪れて以来感じている、言葉にできない魅力を言葉にしたいと思いました。旅の間の出会いで旅自体が変わるように、この本もまた、読む人にとってひとつの出会いとなればうれしいです。


今月のおすすめリトルプレス


ことば さがす 尾道


『ことば さがす 尾道』


 尾道で生まれたイラストエッセイ集。


著:安達茉莉子
発行:MARIOBOOKS 
2019年10月発行
127×127ミリ(24ページ)、1210円

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