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特集 | かっこいい農業 これからの日本らしい農業のあり方 !

土の研究者|藤井一至さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊

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スコップを片手に日本各地、さらには世界の国々を飛び回り、土の成り立ちから土と農業、生態系との関わりを調べている藤井さんが、「土って何だろう?」という疑問にさまざまな角度から答える本を紹介。

藤井一至さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊

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(左上から時計回りに)1.『土をつくる生きものたち ─雑木林の絵本』/2.『栽培植物と農耕の起源』/3.『土の科学 ─いのちを育むパワーの秘密』/4.『日本の米』/5.『土になる』 
『栽培植物と農耕の起源』の発売は1966年ですが、今読んでも新しく感じる名著です。
 著者は世界の農耕文化は4つあると説いています。地中海で発生した地中海農耕文化、アフリカやインドで発生したサバンナ農耕文化、中南米で発生した新大陸農耕文化、東南アジアで発生した根栽農耕文化。私たちが食べているジャガイモは中南米に起源を持つ野菜だし、バナナは東南アジアから日本に伝わったように、農耕文化は発生地から世界へ伝播し、交ざり合いながら各地で新たな食文化を形成してきたのです。

 私はこの本を読み、農耕文化の背景にある土の存在を感じ取りました。土は大きく分けて世界に12種類あり、そのうちの3種類が日本にあるのですが、そこで育つ植物は土と密接に関係しています。

 今、日本でも世界中の種が手に入ります。土にまき、水や肥料、農薬があればたいていの植物は育ちますが、家庭菜園を行っていると育ちやすい植物と育ちにくい植物があることにも気づきます。おそらく気候と土の違いに原因があるのですが、グローバル化によってそうした環境の違いに鈍感になっているようにも思います。

 また、世界に4つの農耕文化が存在したという指摘は歴史的な意義としても重要です。農耕文化はヨーロッパが唯一の起源で、そこから世界中に広がったという考えが主流でしたが、そうではなく、世界各地で独立的に生まれ、交じり合いながら伝播したという説を立て、ヨーロッパの文明史観と対立構造を取ったところにも価値を見いだせます。

『土をつくる生きものたち』は、生き物が土とどんなつながりを持ちながら生きているかが書かれた絵本です。土の成り立ちや物質循環も説かれ、絵本とは思えない“網羅性”を持っています。モグラやカブトムシ、コガネムシ、ダニ、ゴキブリといった生き物が土の中でどんな役割を持って生きているのか。あるいは、落ち葉が分解していく様子とか、私たちが知らない世界が描かれています。

 それは、生き物が好きな有機農家の方々にも届くテーマだと思います。畑で野菜の根を食い荒らす虫がいたとき、この本を読めば、その虫が何かを推察することもできるでしょうし、大地の土はホームセンターで買ってくる培養土とは違うもので、生き物たちによってつくられ、壊されていく循環があり、その中で“お裾分け”として作物をもらうのが農業だという理解も深まるでしょう。子どもも大人も楽しめる一冊です。

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ふじい・かずみち●『森林研究・整備機構森林総合研究所』主任研究員。1981年富山県生まれ。京都大学農学研究科博士課程修了。カナダ極北の永久凍土からインドネシアの熱帯雨林まで、スコップ片手に各地を飛び回る。第7回河合隼雄学芸賞受賞。
photographs by Yuichi Maruya text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2022年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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