ロボットやAI(人工知能)が農作業をサポートすることで、空き時間が生まれる。農業ロボットが普及すればするほど、人間ならではの能力や役割が求められるので、その空き時間に自分を磨こうと提案する齋藤さん。そのヒントとなる本を紹介。
『AGRIST』代表/『こゆ財団』代表理事|齋藤潤一さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊

『これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。』は、『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー(SSIR)日本版』の創刊に先立って出版された本で、SSIRに発表された論文を一冊にまとめたものです。『SSIR日本版』は、「主語を『わたし』に戻す。」をテーマにしています。それは、「社会のために」というよりも、「わたしが実現したい社会」を目指して活動する若者が増えている今の風潮を表しているものだと言えるでしょう。
僕が代表を務めている『AGRIST』は、農業課題をAIやロボットで解決する事業を行っています。人口約1万6500人の宮崎県・新富町に拠点を置き、農家との勉強会を4年間続けたなかで、収穫の担い手不足という大きな課題があることに気づかされ、その解決のために農業ロボットの開発を始めました。
僕は農業を愛してやまないという人間ではありません。でも、新富町の農家と語り合ううちに、「この人たちの役に立ちたい」という思いが湧き上がり、僕の自己表現として農業ロボットの開発に打ち込んできたのです。ほかのメンバーも多様な背景を持っていますが、みんな「自分のために」というモチベーションで仕事に従事しています。主語は、あくまでも「わたし」。その結果、農業という一つの社会が変わっていけばと考えています。
社会課題が細分化され、農業もスマートフォンの数だけ、あり方や関わり方が存在する時代です。一人ひとりがそれぞれの方法で農業に関わり、その結果、社会を変えることになるという、そんな観点で編集された『これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。』は、未来を考える農業者にぜひ読んでほしい本です。
農業のあり方や関わり方を探求することは、自分を知ることにもつながります。今、都市部では農家ではなく、農業ビジネスに携わりたいという若者が増えています。IT分野での能力を生かしてスマート農業に挑戦したり、新しい流通の方法を編み出したり。あるいは、デザイナーとして農業をデザインし直したり。それは、『Be Yourself』の副題にある「自分らしく輝いて人生を変える」ことになるし、そのためには自分がどういう人間か、自分を知ることから始めるのが重要になります。
主語がどんどん「わたし」に戻っていく今、農家としての自分を知り、自分らしく生き、働く。それが自分のウェルビーイングとなり、持続可能な社会の実現にもつながっていくのだと思います。

photographs by Yuichi Maruya text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2022年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。