MENU

サスティナビリティ

特集 | かっこいい農業 これからの日本らしい農業のあり方 !

鳥取大学地域学部准教授|大元鈴子さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊

  • URLをコピーしました!
兵庫県豊岡市の「コウノトリの舞」など、地域限定でつくられた認証制度を「ローカル認証」と名付け、その価値の普及に努めている大元鈴子さんが、「ローカル認証」の考え方にリンクするテーマで書かれた本を紹介します。

鳥取大学地域学部准教授|大元鈴子さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊

 (65564)

(左上から時計回りに)1.『エビと日本人Ⅱ ─暮らしのなかのグローバル化』/2.『Who Really Feeds the World? ─The Failures of Agribusiness and the Promise of Agroecology』/3.『モノの越境と地球環境問題 ─グローバル化時代の〈知産知消〉』/4.『ほどよい量をつくる ─しごとのわ』/5.『Slow Food Nation ─Why Our Food Should Be Good, Clean, and Fair』 
 日本人はエビが大好きです。ただ、そのエビを誰が、どこで、どのように生産しているかを詳しく知っている人は少ないと思います。『エビと日本人』は、1980年代のインドネシアにおけるエビ養殖について書いていますが、生産地におけるエビ養殖に関連するさまざまな惨状を、エビを食べる我々がいかに知らずにいるかを初めて教えてくれた本でした。その20年後に出版されたのが、『エビと日本人Ⅱ』。エビの養殖池をつくるためのマングローブの伐採は、環境破壊だとして問題視されていましたが、2004年に発生したスマトラ島沖大地震で甚大な津波被害を受けたインドネシア・スマトラ島のアチェでは、防波堤の役割を果たすマングローブがエビ養殖のために伐採されていたことから、津波で多くの人命が奪われた可能性が指摘されています。つまり、私たちは、津波被害を拡大させた直接の原因を、エビフライやエビチリとして食べていたことになります。

 このように、因果関係が見えにくくなっている食の生産と流通を見えやすくするためのツールとして認証制度を役立てることができます。「ローカル認証」は、食と地域の課題の関連を見えるようにする仕組みです。例えば、兵庫県豊岡市の「コウノトリの舞」認証も、地域限定の「ローカル認証」です。減農薬や無農薬で米をつくることで、田んぼにカエルやドジョウなどの生き物が戻り、それを日本では一度絶滅したコウノトリが捕食するという地域の生態系を復活させました。農家は米と同時に、コウノトリの餌場をつくるという「共生関係」を築いたのです。「コウノトリの舞」認証は、この根拠を伴ったストーリーが流通の中で消えることなく消費者まで届くことを可能にしています。それは「地産地消」ならぬ、豊岡市という地域と生産者のことを知って買う「知産知消」と言えるでしょう。

 また、ヴァンダナ・シヴァの『Who Really Feeds the World?』には、「フード・サヴェレンティ(食の主権)」という言葉が何度も出てきます。人々は、健康的で文化的なものを食べる権利を持つと同時に、生産者は、自分の土地にあったつくりたいものをつくる権利を持ちます。ほんとうに世界を養っているのは誰かという問いに、それは、大量の化学肥料や農薬の投入を必要とする工業化した農業ではなく、自然の摂理に沿って、ていねいにタネを継いできた小規模農家なのだ、ということを再認識させてくれる良書です。

 (65568)

おおもと・れいこ●カナダのウォータールー大学大学院環境学研究科地理学専攻博士課程修了、地理学博士。食生産における環境保全についての実務と研究に携わる。主著に『ローカル認証―地域が創る流通の仕組み』(清水弘文堂書房刊)などがある。
photographs by Yuichi Maruya text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2022年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね
  • URLをコピーしました!

関連記事