とかく環境のことが議論されがちなSDGs。でも、議論すべきテーマはそれだけではありません。今回は女性の地位やジェンダーニュートラルなどにフォーカス。まずはその第一回目です。
オランダは男女平等?
桑原果林(以下、果林) まあ戦争を経験していることや、農家的な質素な食のスタイルも影響しているような感じもありますね。
桑原真理子(以下、真理子) 農家的な食スタイル、安くて早くて、でも栄養満点みたいな。私たちのおばあちゃんの世代は、主婦になるための学校に通っていたんです。
乾 そうなんですね。なんか意外な感じも。ちなみにそこではなにを習うんですか?
果林 ジャガイモやニンジン、タマネギを煮込んだものとソーセージ、みたいな、質素な料理を習ったり、アイロンのかけ方を学んだり。
乾 オランダでも一昔前は主婦が一般的だったんですね。男女平等的なイメージで、女性も昔から働いているイメージを勝手に抱いていました。
果林 昔は、女性は仕事を辞めなきゃいけなかったみたい。おばあちゃん世代は、旦那さんに許可を得ないと、家電とかも買えなかったらしいです。直訳ですけど、「無能法」という法律が1956年に施行されるまで続いたそうです。
乾 昔の日本みたい……。
真理子 それはヒッピーの時代、1960年代に大きく変わりました。女性の権利運動も含め、権力に対する疑問が若者の間で生まれ、政治家、教師、牧師、親たちなどに逆らうような運動が多く起こりました。オランダは権利をみんなで勝ち取ったっていう歴史があります。
果林 あとはなんでも言い合える、話し合える環境や、フラットな関係、透明性のある政治と社会のシステムが、そういうのを助けているのかもしれないとも思いますね。オランダでは子どものころからディベートやディスカッションの練習を何回もします。そういう経験がないと、なかなか自分の意見を筋立てて説明するのは難しいです。
真理子 こっちでは、家族の中でも、パパやママではなく親は子どもに名前で呼ばせる家庭も少なくないし。家庭の中でも対等の一人の人、一員としてみなされています。
乾 そうなんですね。オランダ人のお母さん、日本人のお父さんという桑原家の場合は?
果林 うちは全然違う! 父は「子どもは黙っていろ!」でした(笑)。
真理子 「稼がないやつは、なにも言う権利ない!」って(笑)。
乾 マジで!? 怖すぎる!(笑)。そして個として尊重されていない……。
真理子 なんでそこまで言われなきゃいけないの! って思っていました(笑)でも、逆にそんな父だったからこそ、私は早く経済的に自立しようと思いましたね。
乾 ポジティブ!(笑) なんだか一昔前の日本の典型的なお父さんのイメージ。お父さんとお母さんは仲はいいんですか?
真理子 すごくいいんじゃないかしら。でも、全然オランダらしい家庭じゃないよね。
果林 父は「ありがとう」とか「ごめん」って照れちゃって家族には言えない。外ではすごく礼儀正しくて社交的なんですけど(笑)。「いいお父さんよね」って、よく言われてました。
真理子 いつだって家族優先で、仕事から誰よりも早く帰って買い物や晩ご飯の支度をしてくれたり、言葉より行動で愛を示してくれるけど、言葉は中学の体育教師みたいに聞こえるよね(笑)
乾 いいお父さんでよかったです(笑)。
ジェンダーニュートラルを考える。
真理子 難しいところですね。きちんと言葉にしないと、やっぱりお互いを理解できない部分もあるとも思いますね。
果林 日本人の曖昧さが自然信仰からきているのかどうかは私にはわからない……。けど、自然に神が宿っているという考えかたは共感できるし、好き。こっちの偶像崇拝はやっぱりちょっと理解できない。私にすると現実的ではないですね。
乾 「いろいろな神さまにいる=神さまがいろいろなところで見てくれている」という考え方の一方で、「見てなかったらいいかな」とマナーの悪いことをする人も多い気も。毎日ビーチクリーンする友人がいるんですが、海岸近くの駐車場へのポイ捨てはなくならないって嘆いています。
果林 人目は気にするけど、人目がなかったら……。
真理子 だから日本にはあらゆるところに目を描いたポスターがあるんですね(笑)。
果林 いやあ、でもオランダほうがマナーないかなあ(笑)。
真理子 日本の人って、自分の身分がばれてないところだと無礼な態度をとったりすることが多いのかも。お店の人に威圧的な態度を取ったりとか。痴漢行為も許せない。いうまでもないですが犯罪です。日本にいるときは痴漢のニュスがたくさんあって、オランダに来ていかに異常であるかつくづく実感しています。
乾 痴漢は日本だけ?
果林 日本は多いかな。こっちにもいますけど、少ないと思います。当時の私の年齢のせいもあるかもしれませんけど、痴漢に遭遇した回数は日本で5,6回くらい、オランダでは過去10年で1回のみです。制服や満員電車の影響も大いにありそうです。
真理子 オランダではぎゅうぎゅう詰めの場面ないですし。今、フランスではトラムで通学していますけど混んでいても痴漢はないですね。
果林 むやみやたらに身体を触らない、ということが、オランダをはじめヨーロッパ北西部では共通の意識としてあるようにも感じます。
乾 身体をむやみに触らない……ハグとか握手とか、結構するような気も。
果林 挨拶は別。国や人にもよるんでしょうけど、ちょっとしたボディタッチも実際は日本よりも少ないですね。あとはなんだろうなあ、私も日本にいたときにありましたけど、バイト中におじさんにお尻を触られたり。こっちだったら絶対にありえない!
真理子 オランダの女性なら言うからね。「触んな!」って。私はたぶん今でもあの日本の独特な電車の密室の中で痴漢されても「触んな!」て言えないかも。
果林 オランダの女の子は全然言えるし。痴漢なんかしたらコテンパンにされますね(笑)。
真理子 痴漢ではないけど例えば横暴なドライバーに対して、「ふざけんなー」って普通に立ち向かいますからね。すばらしいです。
真理子 以前、テレビのお仕事でオランダの女性ホッケーチームを取材することがあったのですが、そのときに日本人の男性ディレクターのお土産が、ピンクのウサギのイラストが入ったハンカチだったんです。お土産という配慮はすばらしい日本らしい気遣いなのですが、彼女たちはピンクのウサギちゃんのようなかわいらしくか弱いイメージではなく、強靭な精神と体力を持つアスリートたち。彼女たちはそうは思わなかったかもしれませんが、私は大きなギャップを感じました。
そして、心遣いがステキな一方で、「女性=ピンクのウサギ」という固定観念に、日本のジェンダーギャップの大きさを感じます。
乾 なるほどです。プレゼントのセンスについてのツッコミは置いておいて、やはりさまざまな場面でジェンダーギャップを考える必要がありそうですね。
ちなみに、小さい子にプレゼントをあげる場合も配慮をしますか? 日本だと今までは男の子には青い服、女の子にはピンクみたいな感じがありましたが……。
果林 一番わかりやすいのは、子どもが生まれたとき。赤ちゃんを見に来たお客さんと一緒に、ビスケットの上にカラフルな砂糖でコーティングしたアニスシードをかけて食べるのですが、それが今までは男の子だと青、女の子はピンクみたいなところがありましたが、ジェンダーニュートラルという言葉が一般的になるとともに、色もあえて混ぜて出したり、青やピンク以外の色が買えたりするようになっていますね。
乾 すごい、赤ちゃんのころから! 徹底していますね。さすがオランダという感じです。
果林 上の世代は女の子だったらピンクを選ぶかもしれないですけど、若い世代は多くの人が色を気にしますね。
真理子 私もジェンダーニュートラルなプレゼントを心がけています。色もなるべくニュートラルな色を選ぶかな。おもちゃ業界も今では性別に囚われない販売手法をとっています。
果林 子どもを保育園やデイケアに預けているときに、アニメなどの影響で男の子もプリンセスドレスみたいな衣装を着たがるみたいなのですが、オランダでは保育士もそのへんはまったく気にせずに着せています。男の子だからダメ! とかはないし、私が迎えに行ったら息子が着ていたりは普通にありますし。
本人が好きで、ずっとドレス着ている子もいますし、いいですよね、そういうのは。親にもよりますけど、ジェンダーニュートラルという言葉をみんな使うようになっているように感じます。
乾 ジェンダーニュートラルって言葉は、かなり以前から使っていましたか?
果林 最近、どんどんと浸透してきていると思います。ニュースでも聞きますし。あと最近ミュージアムなどにも男女兼用トイレが増えてきた。日本でよくあるみたいに障がい者用とかおむつ替え用トイレと兼用でなく、すべてのトイレが男女兼用。もともと、そういうことに寛容な国ではあったんでしょうけど、ソーシャルメディアの影響もあって、トランスジェンダーをはじめ、マイノリティの声がだんだんと強くなっているのを感じますね。
一方で、つい最近も、オランダの学生寮でレインボーの旗が寮内にかかっていたのが全部燃やされて火事になったという事件もあったり。
乾 レインボーは性的マイノリティと言われる、いわゆるLGBTQの象徴的なカラー。でも、意外ですね。オランダではそういう排他的な行動が無さそうなイメージを持っていました。
果林 そうですね。でも、完全に平和になることはないんだろうなって思っています……。
乾 ジェンダーニュートラルについて、もっと話しましょう。
桑原果林 くわはら・かりん
コーディネーター、翻訳者、通訳者。日本で日蘭バイリンガルとして育ち、2010年渡蘭。レインワードアカデミー美術大学文化遺産学科でミュゼオロジーを学び、在学中に姉・真理子と共に通訳・翻訳事務所So Communicationsをアムステルダムにて設立。メディア・教育・介護・農業・デザイン&アートなど多岐にわたる翻訳・通訳・コーディネート業務を行い、日本とオランダの交流のサポートにつとめる。
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桑原真理子 くわはら・まりこ
アーティスト。東京都生まれ。 父が日本人、母がオランダ人。19歳の時にオランダへ渡る。2011年、ヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)、グラフィックデザイン科卒業。過疎地域で出会った人々との対話を元に、ドキュメンタリー形式の出版物、映像作品を制作している。
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乾祐綺 いぬい・ゆき
編集者、フォトジャーナリスト。写真家でもあった祖父の影響から、幼少期より写真を始める。海、環境、暮らしなどを主なテーマに、日本各地はもちろん、海外への取材を続ける。未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』、ANA機内誌『翼の王国』誌上などで、写真と記事を掲載。日本と海外、それぞれのソーシャルグッドな文化や活動を双方向で伝えることをテーマに活動する株式会社ニッポン工房代表。