さまざまな取り組みの背景を映像にする「プロジェクトフィルム」を製作している伊納達也さん。その手法のひとつとして用いることも多い、ドキュメンタリーに関するものから、ものづくり全般に対する姿勢を教えてくれるものまで、いまも大切にしている本をセレクト。
伊納達也さんが選ぶ、映像×ローカルデザインのアイデア本5冊


企業やNPOなどが取り組んでいるプロジェクトの背景、または過程を見せていく映像を、僕らは「プロジェクトフィルム」と呼んでいます。映画のメイキング映像をイメージするとわかりやすいかもしれません。物事の表に出ているところは誰でも想像しやすいと思うのですが、実際には見えていない裏側の部分にも数多くのドラマがある。そこにおもしろさを感じています。僕がつくっているプロジェクトフィルムはひとつのジャンルで、ドキュメンタリーの手法をとることもあれば、イラストやアニメーションを用いて製作することもあります。今回は特にドキュメンタリーをすでに撮っている方や、これから撮りたいという方にお薦めしたい本を選びました。
少し前までドキュメンタリーは、歴史的にリアリティを重視し、演出をせずにジャーナリスティックにつくるのが主流でした。しかし今は、ドキュメンタリーでも少し演出を加えて格好よくしたり、物語の構成をドラマチックにしたりするのが世界的な潮流になってきています。そうしたドキュメンタリーをもっとおもしろく見せるための工夫がされた創作的な映像を「クリエイティブノンフィクション」と名づけ、実際にどうつくっていくのかを教えてくれるのが『ドキュメンタリー・ストーリーテリング』です。僕自身、ドキュメンタリーを撮るなかで少し悩んだ時期があったのですが、リアルの世界をクリエイティブに見せていくことを追究していっていいんだと、この本を読んで確信がもてました。ドキュメンタリーのつくり方って日本では誰かに教わるのが難しいのですが、この本には一連の流れがまとめてあるのでドキュメンタリーをつくるなら一番勉強になると思います。
『CREATIVE SUPERPOWERS』は、クリエイティブ・ディレクター、建築家、帽子デザイナーなど世界中のさまざまな分野で活躍している方たちが、「ものを表現するために必要な能力や考え方」について書いた一冊。僕は唯一の日本人の執筆者であるクリエイティブ・ディレクターの原野守弘さんの「侵犯せよ」という章がとくに印象に残っています。映像に限らず、何か表現に携わっている人や、関わっている人が読むと刺激になると思います。
映像製作の仕事を始めたばかりのころから、リアルの世界を格好よく、おもしろく表現することが僕のテーマ。その方法をこれからも模索しながら映像をつくっていきたいと思っています。

text by Reiko Hisashima, Fumi Itose, Kentaro Matsui, Sumika Hayakawa, Ikumi Tsubone, Etsuko Ishii & Daisaku Mochizuki
記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。