内容がおもしろいのはもちろん、プレイする人たちもご機嫌になれるゲームをつくり続ける米光一成さん。ゲームを楽しむことと、人がその場を「居心地がいい」と感じることには多くの共通点があるといいます。その理由や背景を考察できる5冊を選んでもらいました。
『サードプレイス』は、第一の場所である家、第二の場所の職場、それに続く第三の場所、肩書を気にせず気軽にゆるく集えるカフェや居酒屋などのサードプレイスの機能について語った本です。これを読むと、ゲームはまさに純粋にその瞬間を楽しむためだけにプレイする、場所を限定しないサードプレイスなのだとわかります。ゲームでは外の不平等を持ち込むことはないし、終わった後の結果も持ち出しません。第一、第二の場所で、ふだん一緒にいる人の意外な素顔を見られることが息抜きになることもあるでしょう。
つくり手側としてウェルビーイングを意識できた本は、『アファンタジア』です。イギリスのエンジニアであったアラン・ケンドルが本書の中で定義した「アファンタジア」というのは、心的イメージを持てない人のこと。私もその傾向があるのですが、そういった人たちのインタビュー集です。さまざまな身体的、能力的資質や特徴を持つ人たちが、同じルールを共有する難しさに向き合うことは、ゲームを制作するにあたっては避けて通れません。そういった特徴のことを知ろうとするのは、より深く人やものを理解するのに役に立つと、この本を読むと感じます。また、私がゲームのルールや構造に興味を持つのは、映像的なものを補完するためなのかもしれないとも感じました。一般的にはマイナスと見なされがちな特徴ではありますが、環境によってはプラスに作用することもあるのです。
そんな私の特徴にも関係するのかもしれませんが、ゲームのつくり手として学ぶところが多く、プレイヤー目線でも楽しめる本に、『日本の路線図』があります。路線という複雑極まりない構造を簡潔にわかりやすく表現しようとするのは、絵柄や数字で情報を示す際の参考になりました。社会の中でただただ実用として使っているものでさえ、見方や示し方によってはいろんな楽しみ方ができるという実感もできました。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。