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特集 | サラヤ×ソトコト~対談企画~

大阪公立大学現代システム科学域准教授 黒田桂菜× 広報宣伝統括部長『サラヤ』廣岡竜也 対談「環境にやさしい」が価値に。社会が変わった10年。

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手肌にやさしく環境負荷に配慮した商品を手がける『サラヤ』の廣岡竜也さんと、大阪公立大学現代システム科学域准教授・黒田桂菜さんが、消費者の行動や意識の変容について意見を交わしました。

目次

社会や消費者のマインドが シフトしていった時期。

黒田桂菜さん(以下、黒田)「海陸一体型循環型社会」の構築に向けた研究をしています。海と共生する人間活動のあり方を追究し、循環を生み出すという壮大なテーマです。以前は、数学や物理学などを応用する工学的な視点で研究を進めていましたが、思い描く循環型社会の実現には、「人の意識や行動の変容」が必要だと強く感じています。

廣岡竜也さん(以下、廣岡) その点では、「ヤシノミ洗剤」の社会からの受け入れられ方に変化を感じます。転換期は2010年に名古屋で開かれた国連の「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」だと、私は考えます。

黒田 その翌年に起きた東日本大震災も含めて、この時期に日本の社会は大きく変わりました。宮城県内に2年間暮らしたことがあるのですが、親しみのある風景が一瞬にして崩れてしまった。地球や環境というものが、自分との対比の中でクリアになりました。

廣岡 それまでも日本では「エコ」「ロハス」といったキーワードはありましたが、消費のファーストチョイスではなかった。ですが、この時期から、だんだんと社会や消費者のマインドがシフトしていったように感じています。

身近な場所で買えるように なった『サラヤ』商品。

廣岡 「ヤシノミ洗剤」は、コンセプトを50年前から変えていませんが、年々売上が伸びています。手肌と地球にやさしいことを第一に考えているため洗浄成分の濃度は高くありません。そのため、洗い物を水に浸けておいたり、ギトギトの油は古い新聞で拭き取っていただくなど、一手間要する商品であるにもかかわらず、です。

黒田 手間とも思える行為を要求する。そしてコンセプトも当時のまま。変えなかったのはなぜですか? 私自身は、研究テーマを、メタンハイドレートをはじめとした海の資源や、植物プランクトンの分布に関する研究をしていましたが、続けるなかで、現在取り組んでいる海陸一体型循環型社会のテーマに出合い、人の営みに近い研究にシフトしていきました。なので、”変えなかった”という選択の背景が知りたいです。

廣岡 『サラヤ』の思想を象徴している商品だからです。洗浄成分濃度を高くすれば、油汚れはよく落ちますが、その分、手は荒れますし、大量の界面活性剤が環境に排出されます。元々、石油系合成洗剤による環境汚染に対するアンチテーゼとして誕生した商品なので、できるだけ洗剤は使い過ぎないように、洗い方や油の捨て方に配慮してほしいという考え方が背景にあります。ただ、最近は「環境にいいらしい」という理由で「ヤシノミ洗剤」を使ってみたけど、「洗浄力が少しもの足りない」と”ギャップ”を感じる消費者もいるのが課題でした。

黒田 難しいところですね……。

廣岡 課題解決に取り組んでいく中で、手肌にも環境にもやさしく、油汚れもよく落ちる、そんな洗剤をつくることができました。それが「ヤシノミ洗剤プレミアムパワー」。濃縮型の洗剤なので使用量を減らすことができます。『セブン-イレブン』でも、販売されるようになりました。

黒田 以前は、『サラヤ』の商品をスーパーやドラッグストアなどの売り場で目にする機会はそう多くなかった気がします。それがコンビニエンスストアでも買えるようになったのは、社会の大きな変化を感じます。

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誕生以来、50年間変わらない「ヤシノミ洗剤」。
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手肌と環境へのやさしさと洗浄力を兼ね備えた「ヤシノミ洗剤プレミアムパワー」。

商品は変わっていないのに、 価値が変容した。

黒田 私の研究は海と陸の循環のあり方を研究し、それを社会に実装する手助けをすることです。そのためには、まずは人の意識をいかにして海に向けるか。例えばここ大阪の海といえば大阪湾。水質は以前に比べよくはなりましたが、まだまだ改善の余地がある。その大きなものの一つが「生活排水」なんです。これに対して、『サラヤ』が寄与するものは大きいんじゃないかなって。

廣岡 『サラヤ』の商品開発のベースはまさにそこです。「自分の家の排水溝は海の入り口」という考え方ですね。「少しでも環境負荷の少ないものを」という発想から植物油であるヤシ油やパーム油を使っています。

黒田 そのパーム油がどのようにつくられているかまで考え、原産地であるマレーシア・ボルネオ島で熱帯雨林保全や動物の保護活動まで行っていると知って驚きました。

廣岡 植物油を使うということが、単純に「環境にやさしいと言えない」という事実を知ったからです。我々の排水は微生物が分解して水と二酸化炭素に変えてくれますが、二酸化炭素が出るということは、これを吸収しないといけない。でも、植物油をつくるために熱帯雨林を切り開いていたら意味がありませんよね。

黒田 循環という目に見えない仕組みを、人の手が支えている。循環って、パーツが点在していても、その間をつないでいくものがなかったら、途絶えてしまうと思うのです。それをつなぐのは人間の役割なんじゃないか。循環のベクトルを強く太くするためには、人間を研究することにヒントがあると考え、私も研究しています。その上で、『サラヤ』の事例は興味深いですね。商品自体は変わっていないのに、人の価値観が変容したように感じます。

廣岡 『サラヤ』はメーカーですが、商品を通じて、いかに思想を表現し発信するか、を大切にしています。商品にはメーカーの個性が出るんです。例えばカロリーゼロの甘味料はたくさんありますが、成分構成に各メーカーの思想が表れます。『サラヤ』では化学合成の人工甘味料は使用せず、羅漢果という植物から抽出した天然の甘味成分のみを使用しています。ちなみに日本で最初のカロリーゼロの甘味料も当社。洗剤の詰め替えパックも、天然酵母由来の天然界面活性剤も日本初。すべて、人にも環境にもやさしいという思想が開発の原点で、そこを大切にしています。

黒田 そして商品を選ぶのは消費者。どの思想に共感して商品を買うか。今後はさらに「環境に対する価値」というものが、重視される社会になるでしょう。その中で、価値をどう伝えていくか。自身の研究や活動の参考になりました。

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黒田桂菜
くろだ・かな●大阪府立大学大学院工学研究科航空宇宙海洋系専攻修了。博士(工学)。2018年から大阪府立大学現代システム科学域准教授。2022年4月より現職。SDGsにも深く関わる身近で興味深いテーマである、海藻や魚などの海産バイオマスについて研究。海藻を用いた地(海)産地消エネルギーの開発と漁業・魚食の活性化を通して海の環境再生に取り組む。
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廣岡竜也
ひろおか・たつや●『サラヤ』広報宣伝統括部統括部長。『サラヤ』の社会貢献活動のほか、「ヤシノミ洗剤」「ラカントS」などのブランドを手がける。
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黒田さんが関わるプロジェクトで制作した海と食に関するパンフレット。「食べるという体験によって、自分ごととして捉えてくれる人が多いと感じています」。
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ボルネオ島・サバ州の農園。「ヤシノミ洗剤」をはじめ、パーム油を使った商品の売り上げの1パーセントば、ボルネオ保全トラスト(BCT)を通じてボルネオ島の環境保全に使われている。
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「ラカントS」。古くから漢方として親しまれてきたウリ科の果実・羅漢果の高純度エキスと、天然の甘味成分・エリスリトールからつくられた、植物由来でカロリーゼロの自然派甘味料。
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羅漢果の断面。甘味成分を取り出したあとの残渣を、『サラヤ』では肥料にして畑に返すという取り組みも。
photographs & text by Yuki Inui

記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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