今回は長野県諏訪市に本社を構える電機メーカー、セイコーエプソン株式会社代表取締役社長の小川恭範さんを小学3年生のひなた記者がインタビュー。
「SDGsってなんだろう?わからないから聞いてみよう」。ソトコトNEWSこども記者が持続可能な開発目標(SDGs)に取り組む先進的な企業や団体、個人を突撃取材。社会課題解決に向けたアクションやプロダクトについて聞いてきました。そんな子ども目線でSDGsを考える『こども記者が突撃取材!おしえてみんなのSDGs』が始まります。
おしえて小川社長!セイコーエプソンはどんな会社?
小川社長 セイコーエプソンは主にプリンターやプロジェクターを作っている会社です。プリンターは家にあるかな?身近な所で言えば学校の職員室や会社で見つけられるでしょう。プリンターは紙などに文字やイラスト、写真を印刷する機械。プロジェクターは映像をスクリーンなどに投影する機械だね。他にも小型のロボットや時計も作っています。もともとは時計を作る会社からスタートしましたが、今はプリンターやプロジェクターが作っている商品の7割ぐらいを占めています。日本だけではなく世界中に向けて商品を販売しています。
どうして再生可能エネルギーを使うのがいいことなの?
小川社長 ものを作るときにはエネルギーが必要です。わかりやすく言えば“電気”だね。天井の灯りやテレビを見る時などにも電気を使っているよね。そしてプリンターなどを作るときにも工場の空調や照明、機械を動かすためにたくさんの電気が必要なんだ。それらの電気を国内のセイコーエプソンの工場やオフィスでは100%、再生可能エネルギーでまかなっています。
ひなた記者 再生可能エネルギーとはどんなエネルギーですか?再生可能エネルギーを使うのはなぜですか?
小川社長 再生可能エネルギーとは、何度でも繰り返して使えるエネルギーのこと。例えば水力や太陽光など自然の力を使って電気を作る発電方法です。
これまでは石炭や石油を燃やして電気を作る火力発電を使ってきました。でも火力発電はたくさんの二酸化炭素が出るという問題があります。二酸化炭素は地球温暖化の原因のひとつ。このままでは地球が熱くなり人も動物も暮らせなくなってしまいます。だから、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーへ切り替えようと決めました。
昨年11月に日本国内で使う電気はすべて再生可能エネルギーへ。今後は世界中にある工場やオフィスで使う電気を、少しずつ地球にやさしいエネルギーへと変えていきます。
ひなた記者 みんな再生可能エネルギーを使えばもっと良いのに。それは難しいことなのかな?
小川社長 そうだね、増えていくと良いよね。でも、まだ再生可能エネルギーはこれまでの火力発電に比べてお金が多くかかってしまう。全ての会社が再生可能エネルギーに切り替えられるわけではないんだ。それでも未来の地球環境のことを考えて動こうとセイコーエプソンは決めました。
紙をその場でリサイクル できるの?エプソンの新しい技術を教えて!
小川社長 たくさんの紙に印刷するプリンターを作る会社としては、やっぱり紙のリサイクルは大切な問題。紙は木から出来ているのは知っているかな?紙を作るためにはたくさんの木を伐採しなくてはならない。切り続ければいつか森がなくなってしまうよね。森にはたくさんの生物が住んでいるし、木は二酸化炭素を吸収して酸素を作ってくれる大切な存在。使い終わった紙をもう一度使える紙に戻すことができれば木を切らなくて済むよね。
セイコーエプソンでは『PaperLab(ペーパーラボ)』という使い終わった紙を再生して蘇らせる機械を作りました。再生紙というのは、ひなた記者も知ってるかな?学校でも使っていたりするよね。リサイクルされた紙だから木の伐採にはつながらないけれども、意外と課題もあったり。例えば回収して工場に運ぶ間にトラックから二酸化炭素が出るよね。さらに再生工場では大量の水や電気を使う。
もっと地球に優しいサスティナブルな紙のリサイクルはできないか…、サスティナブルとは人も社会も地球環境も持続可能な発展のことです。その思いをカタチにしたのが『PaperLab』です。
ひなた記者 『PaperLab』はどんなすごいことができるのですか?
小川社長 横幅約3メートル、高さ約2メートル、奥行き約1.5メートルほどの大きさの製紙機、紙を作る機械です。大きさ的には軽自動車ぐらいかな。この機械に使い終わった紙を入れると、きれいな紙になって戻ってくる。書き心地はどうですか?
ひなた記者 きれいな紙、つるつるしてて書きやすいです。どうやって作っているのか教えてください。
小川社長 この『PaperLab』は機械の中で古い紙を細かい繊維にまで分解してから、特殊な技術で再び繊維を結びつけて紙として蘇らせることができます。この特殊な技術のことを「ドライファイバーテクノロジー」と名付けました。ドライとは「乾いた」、ファイバーは「繊維」という意味だよ。
紙を作る工程で水は使わない、機械の中に再生工場があるから運ぶためのトラックも必要ないよね。この機械があれば、使い終わった紙をすぐにまた使える紙として再利用できる。機械の中の湿度を調整するために多少の水は使うけれど、一般的な紙を作るときに使う水の量と比べると100分の1にまで節水できます。水も木も大切な地球の資源。きれいな自然を守ること、新しい技術でより優れたものを作ること、紙と関わりの深いセイコーエプソンだからこそつくる責任、つかう責任を大切にしたいと考えているよ。
『PaperLab』は大切な情報を扱う役場や銀行などの会社が使ってくれているけど、新しい紙を買うことと比べると、まだまだ値段が高くて…。もっと多くの人に使ってもらえるような形に変えていかなくては!と考えています。捨てられるはずだったものを、新しくより良いものにすることを「アップサイクル」と呼びます。これからは紙を使う人がアップサイクルした紙を選ぶ時代が来ると良いですね。
地球にやさしいモノづくりを目指して。私たちにもできることはありますか?
小川社長 地球に優しいものを作っていきたい。例えば二酸化炭素を吸収する植物のような素材を使って、何か新しいものができないかといろいろと研究しています。楽しみにしていてください。
ひなた記者 最後に私たち子どもにもできるSDGs活動を教えてください。
小川社長 やっぱり物を大切にすることが一番。無駄遣いしないことを心がけてほしいですね。意識が変わればきっと社会は変わっていくと信じています。
紙がどうやってできているのかを知って驚きました。たくさんの木と水、電気を使うことで自然がなくなっていってしまうと思うと悲しいです。もっと『PaperLab』のような機械が増えてほしいし、タイヤを着けて運ぶことができればもっとたくさんの人に『PaperLab』のすごさを知ってもらえるような気がしました。学校や公園などたくさん人が集まるところで、古い紙を新しい紙に変えたらきっとみんな驚くと思います。小川社長やセイコーエプソンの皆さんが未来のことをたくさん考えてくれていてとても嬉しかったです。
小川恭範(おがわやすのり)
東北大学大学院工学研究科を卒業後、セイコーエプソン入社。研究開発本部、プロジェクター関連に従事。同社初のビジネスプロジェクターを開発。2017年執行役員。2018年に技術開発本部長。その後、取締役常務執行役員を経て2020年に現職。愛知県出身。