九州の玄関口に位置する北九州市、青い空と海が広がる沿岸部には風を受けて白い風車がゆったりと回る。自然エネルギーを基にした地域産業の盛り上げを通して、環境にも優しい社会へと貢献する。優しい気持ちは未来を担う子どもたちにも広がっている。持続可能な社会を実現するためには何が大切か、学校を飛び出し地元企業や行政とともに真の豊かさにあふれた「SDGs未来都市・北九州市」の実現に向けてアプローチを続けています。そんな行政・市民・企業がつながりあう福岡県北九州市の取り組みがソトコトSDGsアワードを受賞しました。関係者の皆様からSDGsへの熱い想いなどについてお聞きしました。
世界の課題は地域の課題、地域が変われば世界が変わる。そう、子供たちに伝えたい
事実、市は、国内で最初の「SDGs未来都市」に選定され、経済協力開発機構(OECD)によるアジア初の「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」の選定も受けました。市民の潜在意識の中に根付く“持続可能なまちの実現”に向けた取り組みが街中にあふれています。
北九州市小倉北区の中心部にある「魚町銀天街」では、エコルーフの設置や空き家・空き店舗のリノベーション、フェアトレード商品の販売などを広める活動を続け、18年には日本初の「SDGs商店街」を宣言。様々な活動が評価され、翌年「ジャパンSDGsアワード」で最高賞である内閣総理大臣賞を受賞しました。
上田さんは「市民の方々の活動が評価されるのはうれしい。SDGsは自分たちでもできるんだと自信を高めて頂けたと思います」と笑顔で活動を振り返ってくれました。
市職員らも庁舎を飛び出し、出張講座などを通して自分たちにできる活動は何かを子どもたちに伝えています。『どうしたら目の前の海をきれいにできるかな』『女性が活躍できる社会づくりには何が必要か』『北九州の力を使って海外へどう貢献できるだろう』。2030年に社会の中核を担う“未来人財”を創出・育成するため、充実した副教材の作成や、探究学習の推進など、SDGsへの理解促進にまい進する日々です。
「実は世界の問題は日本の問題、日本の問題はこの地域の問題、そしてこの地域の問題は一人ひとりの問題だと思います」と上田さん。解決に向けて問題を自分ごととする意識が芽吹くことを目標に掲げています。「北九州が変われば日本も変わる、日本が変われば世界が変わる。子どもたちにはいつもそう伝えています」。
北九州市だからできる挑戦を。未来を照らすエネルギーで地域を明るく
力説するのはエネルギー産業拠点化推進室係長の伊東信二さん。Port MOJIの開港から 約130年の歴史を有する港湾の街、官営八幡製鐵所の稼働から120年経つものづくりの街、そしてかつて国内最悪と呼ばれた公害問題を、市民・企業・行政が一体となり、環境再生を果たした環境の街として、この事業にかける意義があると感じています。
その中で、まず2022年度後半には、港湾区域の洋上風力発電設備の建設がはじまります。市の公募で選定された事業者が海上約110メートルの高さに長さ約90メートルの3枚羽根を備えた風力発電機を計25基設置して、最大22万キロワットを発電するビッグプロジェクトです。
これを呼び水として、北九州市では今後日本全国に拡大が予定されている洋上風力発電の導入促進を支える関連産業の総合拠点形成を進めています。
伊東さんは「本市で洋上風力発電を行うことが最終目的ではありません。風車の建設やメンテナンス、海陸物流など数多くの関連産業の創出を期待しています。北九州に行けば風力発電を実施するにあたりすべてが揃う。そのサービスを絶え間なく提供し続けられる環境を整えることで、我々も持続的に成長していきたい。」と話し、期待に胸を高鳴らせていました。
市では動画制作や一般市民・高校生等若年層向けのイベントを通して洋上風力への関心を高める試みも行っています。「地元で胸を張れる仕事を」その想いこそが人材育成や経済発展、そして持続可能な社会へとつながっていきます。
副業人材活用で新たな視点と出会いを創出
市は、副業を容認する企業に務めるIT人材を活用して、市内企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進、交流を生むとともに関係人口の創出に向けた試みを9月から開始しました。
大英産業は、マンションや戸建て購入を考える顧客リストのデータベース作成を依頼。鎮西さんは「自分たちではできないことや、気づいていない部分を外からの目で見つけて改善してくれます。DXによって生産性が上がるだけでなく、技術者の方々と話し合う中で学ぶことが多く、社員のモチベーションも上がっています。」と新たな試みに確かな手応えを感じていました。
「パートナーシップを活かしたDXにより、働きがいとともに経済成長が望めます。それはまさにSDGsの目指すところでもあります。」
市の試みに関わる企画調整局地方創成推進室次長の明石卓也さんもさらなる施策の拡大に期待をよせています。
次世代へとつなぐSDGsのバトン。未来への想いが原動力
建設現場で出た木材ゴミを大工がカットし、地元の障害福祉サービス事業所『桑の実工房』の利用者が研磨してカタチを整え、幼稚園児がベテラン大工の手ほどきを受けながら椅子作りに励んでいます。活動を通して年間約300トンの木材ゴミの利活用を進めるとともに、障害者雇用、高齢の大工と子どもたちの世代間交流や仕事体験など、幅広く出会いや学びの場を創出しています。
「最初は職人の方々も戸惑っている感じでしたが、先生役として子どもたちと接しているうちに、いつもは見せないような笑顔に。仕事への誇りを感じてもらうと同時に、ものづくりの楽しさを伝えたいという想いがあふれるようになってきました」。そう話すのは、プロジェクトを提案した、子会社の㈱大英工務店取締役部長の鮎川貴大さん。
大英産業も参画する『北九州SDGsクラブ』は、市と企業、各種団体が連携して地域課題の解決に向けてプロジェクトを立ち上げています。
商店街ぐるみでの活動や市職員による出前講座、未来の明かりを灯す風力発電、副業人材の活用によるDXと関係人口の創出、そして世代や業種を越えたつながりから生み出される多種多様なアイディア。さらなる成長と進化を見せるSDGs未来都市・北九州市から目が離せません。