子どもたちが海について学べる場の提供などを行っている田口康大さん。教育者の目線から、海のサスティナビリティや未来を考えるときに必要な、海を学ぶための5冊を紹介してもらいました。
特に力を入れている活動が二つあります。一つが、海洋教育です。現在、日本の学校では海洋教育がほとんど行われていません。そこで、地域で海洋教育のプロジェクトをしたり、学校のカリキュラム内で海を学ぶためにどういう授業をつくったらいいかサポートしたりしています。
もう一つが「海洋デザイン教育プロジェクト」。海に対してデザインで何ができるか考え、子どもたちと一緒に課題を解決するデザインをしています。海に関心を持ってもらうためのワークショップや、デザインをどう使うかを高校生以上に伝える活動など、内容は多岐にわたります。
目指しているゴールの一つは、海と自分との目に見えないつながりを感じられる想像力を持てるようになることです。日本の学校教育は戦後10年ほどして、系統性を重視する「系統主義」になり、海でいえば「漁業」「港」など、一つずつ学んでパーツを積み上げていく学習になりました。今、学校や社会で海を総体的に学ぶ機会がないのです。そうした教育を受けた人は、分化されたものは知っていても、連関への想像力が弱い傾向にあります。
そうした考えからおすすめしたい一冊が、仕掛け絵本の『オセアノ号、海へ!』。海の断面図を描き、海上と海中の両方を表現しています。実際に海へ行くと、海面を見ていることがほとんどだと思いますが、この本では多様な視点から海を味わうことができます。海のおもしろさや美しさだけではなく、海中生物や海底のゴミなどのリアルも描かれているので、そこから話を広げて子どもたちに海の現状を伝えてくれます。
海を総体として学ぶ入り口として勧めたい一冊が『海は生きている』です。児童書ですが大人にとっても学びが多い内容で、海がどことどうつながっているのかを伝えています。例えば雨がどこからくるのか、海岸林がなぜ大事なのかなど、普通に暮らしているだけでは分かりにくい自然現象や歴史、文化について触れています。これまで人は海を恐れるだけではなく、努力によって知恵を出して海と共存し、恵みを享受してきました。この本では、そんな海と暮らす人の営みも教えてくれます。
今回紹介する5冊で、海への理解を深め、さまざまな海とのつながりを感じてもらえたらと思います。
記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。