国土交通省入省後、不動産大手デベロッパーへ出向するなど、行政と民間の両方の立場を経験。「プレイスメイキングは都市経営の課題解決の手法の一つ」と捉える山田大輔さんが、事業のプロセス、チームビルディング、個人の素養の観点から、都市経営を考える本を選びました。
本質は、都市経営だと私は考えます。市民利益(QOL=生活の質、経済、安全、環境)を創出し、持続的な都市経営を実現するための手法の一つとしてプレイスメイキングがあると思います。そんなマインドでプロジェクトを実践するときの参考になるのが、『公民連携事業ケーススタディブック2019 vol.03』。vol.01、vol.02に加えて5都市のプロジェクトメンバーによる座談会が収録され、地域のキーマンとどんなふうにつながったか、ブレイクスルーのきっかけは何かなど、公民連携事業のプロセスが詳しく語られています。プレイスメイキングに限りませんが、34の事例も紹介されています。共通しているのは、プロジェクトの目的を中長期的な視点を持って都市経営課題の解決に置いていること。プレイスメイキングはそのためのツールという位置づけです。
私は国土交通省から神戸市に出向し、都市計画課課長を務めました。新型コロナの緊急事態宣言が発令され外出自粛となったとき、多くの住宅団地で「買い物難民」が発生しました。その対応策として、ランチを販売するキッチンカーを3台稼働。住民からも飲食事業者からも好評でしたが、中長期的な目的が実は別にあったのです。もともと、この住宅団地には都市計画の規制がかかっていて、空き家があっても活用が限られ、店舗を出せないでいたのです。今後、人口減で空き家が増えた場合、そこに店舗や住民が集まる場を設けられれば生活は便利になり、QOLも向上します。そのための住民のニーズを知る実証実験として庁内の合意形成を図りました。この動きは全市的な用途規制の緩和への方針転換につながるきっかけとなりました。
このプロジェクトは1週間で準備しました。数名で役割分担し、一気に進めました。このチームビルディングの重要性を説くのが、『君に友だちはいらない』。夢を語り合うだけの友達ではなく、課題を共有し、リスクを取り合える仲間が必要だと述べています。ビジョンを打ち上げる人、脇を支える参謀役、黙々と仕事をこなす人、ムードメーカー、あえて物事をひっくり返して再考を促すトリックスターなど、黒澤明監督の映画『七人の侍』になぞらえながらチームに必要な人材を考えます。厳しめに書いてある部分もありますが、重要な指摘も多いのでご一読を。
記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。