ワクワクするまちをつくる『ハートビートプラン』で、都市デザインの仕事をしている泉英明さん。プロジェクトの過程で最も大事にしているのは、地域の合意形成を得るための「社会実験」だ。「イベントのなかでも、社会実験は重要なツール」と考える泉さんの選書です。
(左から)1. NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント ─小さくて大きい政府のつくり方 / 2. ストリートファイト ─人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い
私が地域再生を進めるうえで大事にしているのは、地域住民や事業者と「ビジョンを共有」し、「合意形成」を図ることです。地域のビジョンを据え、それを実現するための検証項目を設定し、社会実験を行って、その結果や検証データを基に住民や業界の理解を得て実践するというプロセスです。それがどれほど重要か、『ストリートファイト』を読めばわかるでしょう。
著者のジャネット・サディク=カーンは、ニューヨーク市の交通局長としてタイムズスクエアをはじめ、市の道路空間を変えた女性で、車に占領された道路を人や自転車のために取り戻す一大プロジェクトを推進しました。彼女が大事にし、かつ苦労したのが関係者の合意形成で、各立場で異なる意見や、困難な合意形成の過程がまさに「ストリートファイト」、闘いとして描かれています。
彼女が合意を得るために行ったのが社会実験でした。一定期間、車道を歩行者天国にしたり、広場を設けたりしながら、通常時と社会実験時の違い、その詳細なデータを計測し、市民や業界に有効性を示しました。この話を読んでうらやましいと思うことは、検証データの取り方です。ニューヨークでは納税データも活用できるので、店舗の社会実験前と後の売り上げの推移を納税データから把握することができますが、日本では部門を超えてデータの共有はできません。私は大阪市で「なんば駅周辺まちづくりプロジェクト」という道路の広場化事業に携わっていますが、社会実験のデータの取得はほぼ調査員の手作業で行いました。デジタル化されていたらもっとスムーズに進められたでしょう。
そういう意味で、『NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント』も必読の書です。多様な人々が、多様な使い方をできる場が求められている今、個別のニーズを拾いながら全体解をつくる考え方は当然、行政も持つべきです。プレイスメイキングは公共空間を利用して行われることも多いので、行政の古いOSをバージョンアップすることは、DXも含め、喫緊の課題です。バージョンアップすることができれば、公共空間の広場化による地域への多面的な波及効果も理解されやすくなると思います。
私の選書のカテゴリーは「イベント」ですが、そのなかでもビジョンを定めて検討するのが社会実験の特徴的な側面です。そのプロセスやあり方に、指針を与えてくれそうな5冊を今回はセレクトしてみました。
著者のジャネット・サディク=カーンは、ニューヨーク市の交通局長としてタイムズスクエアをはじめ、市の道路空間を変えた女性で、車に占領された道路を人や自転車のために取り戻す一大プロジェクトを推進しました。彼女が大事にし、かつ苦労したのが関係者の合意形成で、各立場で異なる意見や、困難な合意形成の過程がまさに「ストリートファイト」、闘いとして描かれています。
彼女が合意を得るために行ったのが社会実験でした。一定期間、車道を歩行者天国にしたり、広場を設けたりしながら、通常時と社会実験時の違い、その詳細なデータを計測し、市民や業界に有効性を示しました。この話を読んでうらやましいと思うことは、検証データの取り方です。ニューヨークでは納税データも活用できるので、店舗の社会実験前と後の売り上げの推移を納税データから把握することができますが、日本では部門を超えてデータの共有はできません。私は大阪市で「なんば駅周辺まちづくりプロジェクト」という道路の広場化事業に携わっていますが、社会実験のデータの取得はほぼ調査員の手作業で行いました。デジタル化されていたらもっとスムーズに進められたでしょう。
そういう意味で、『NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント』も必読の書です。多様な人々が、多様な使い方をできる場が求められている今、個別のニーズを拾いながら全体解をつくる考え方は当然、行政も持つべきです。プレイスメイキングは公共空間を利用して行われることも多いので、行政の古いOSをバージョンアップすることは、DXも含め、喫緊の課題です。バージョンアップすることができれば、公共空間の広場化による地域への多面的な波及効果も理解されやすくなると思います。
私の選書のカテゴリーは「イベント」ですが、そのなかでもビジョンを定めて検討するのが社会実験の特徴的な側面です。そのプロセスやあり方に、指針を与えてくれそうな5冊を今回はセレクトしてみました。
いずみ・ひであき●1971年東京都生まれ。『ハートビートプラン』代表取締役。宮城県気仙沼市での「気仙沼まちなかエリア未来プロジェクト」など日本各地で地域再生プロジェクトを実施。共編著に『都市を変える水辺アクション実践ガイド』(学芸出版社)。
photographs by Hiroshi Takaoka & Yuichi Maruya text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。