2016年にアメリカ・サンフランシスコで誕生したシューズ&アパレルブランド『Allbirds(オールバーズ)』。“サスティナビリティ(持続可能性)”をキーワードに、自然由来の素材と快適な履き心地、ミニマルなデザインにこだわった、これまでにないシューズを開発し、多くの人々の共感を呼んでいる。2020年には、東京渋谷区・原宿に日本初の直営店舗をオープンし、さらに東京千代田区・丸の内、大阪府大阪市と店舗を増やしている。2023年1月、来日した創業者のひとり、ティム・ブラウンさんに、ブランドの特徴や環境への思いをうかがった。
サッカーのウェアやシューズへの違和感から始まった開発。
「選手時代、多くのスポンサーからウェアやシューズを提供してもらいました。ただ、多くのシューズがプラスチック製品であること、そしてどれもロゴがたくさんあるなど派手なデザインが多く、なにか別の視点からのデザインアプローチがあるのではないかと感じていました」。
サッカー選手のかたわら、見た目のデザインだけでなく素材からシューズのあり方を見直そうと考えたブラウンさん。最初に着目したのがニュージーランド産のウール「メリノウール」だった。ニュージーランドにとってウールは主要産業だが、安価で購入できる合成繊維の市場に押されてもいて、イノベーションが必要だと感じていた。そこで、ウールをアッパー(シューズの甲の部分)に使ったシューズの試作を重ね、ビジネスとして展開しようとしたときに出会ったのが、サンフランシスコ在住の投資家でありバイオテクノロジーのエンジニア、ジョーイ・ズウィリンジャーさんだった。この二人の出会いから、サスティナビリティを根幹に置いた、環境への負荷をできるだけ減らし、しかも商品としてすぐれたシューズを手がける『Allbirds』が2016年に誕生した。
技術をシェアし、環境負荷の削減を加速。
「私たちが開発した技術をオープンにして、多くの会社が活用するようになれば、製造コストは下がりますし、環境への負荷も減っていきます。そして、天然由来の素材のすぐれた点を多くの人と共有することにもつながります」とブラウンさんは語る。実際、ブラジルのグリーンエネルギー企業の『ブラスケム社』と共同開発したソールは、今では100以上のブランドで利用されているという。また、企業としてカーボンフットプリントを削減する努力も重ねている。
カーボンフットプリントとは、製品の原材料調達から製造・輸送・廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの量を二酸化炭素(CO₂)に換算した数値のこと。2020年4月から『Allbirds』が発表したすべての製品の目立つ場所に、製品ごとの数値をロゴマークのように表示している。
2020年には前年比で全製品の平均カーボンフットプリントの12パーセント減を達成。『アディダス』と素材の技術をコラボし、カーボンフットプリントがこれまでに最も少ないスニーカーを発売している。また、同社が独自に開発した計測方法をオープンにして、他社も利用できるようにしている。そこには、カーボンフットプリントを食品のカロリー表示のように広げていきたいというブラウンさんの思いがある。
「カロリーは、食品を選ぶときのひとつの指標になっています。カーボンフットプリントも製品に明記することで、『どちらにしようか悩んだとき、それならカーボンフットプリントが小さいほうを選ぼう』と、消費者の考え方を変えてくれます。その行動が地球環境への負荷を減らすことにつながると思います」
※ニュージーランドのメリノウールのうち、動物愛護や地球環境の保全、品質、トレーサビリティ、社会的な責任のすべてにおいて基準を満たしているウールに付けられる認証。
日本の伝統技術や文化ともコラボ。
「日本とニュージーランドは、自然観やデザイン哲学に共通点が多いと思っています。日本の伝統工芸の技術やデザインにはすばらしいものがあります」
そんな日本の技術へのリスペクトから生まれたのが2021年に発表した藍染のシューズだ。徳島県でサスティナブルな藍染を行っている職人・渡邉健太さんとコラボし、「Wool Runner – Watanabe’s Japanese indigo」として数量限定で発売した。
「藍染との出合いで、『Allbirds』のシューズに新しい視点を持ち込むことができました。これはまだ始まりです。これから日本独自のさまざまな技術や文化とコラボしていきたいと思っています。詳細ですか? それはまだ秘密ですが、なにかあればSNSで発信しますよ」とブラウンさんは茶目っ気たっぷりに笑った。
「今は、地球環境がこのまま悪化していくのか、それともよい環境を取り戻すことができるのか、その選択が迫られる大切な時代だと思います。買い物にもより透明性が求められますし、自分が使うものが果たして地球環境に悪影響を与えていないのか、立ち止まって考える必要があると思います。サスティナビリティについて語ろうぜ!と友人を飲みに誘ってもワクワクしないですよね?でも自然とサステナビリティが会話に出てくる、そんな社会になってほしいと思っています」と熱く語るブラウンさん。「そのために『Allbirds』は、サスティナブルであり、かつ魅力的な製品を作ることが使命だと考えています」