『吉本興業』では、SDGsプロジェクトチームとして、主に羽根田さんを含め6名のメンバーで活動しています。企業が「SDGs」に取り組むということについて、『吉本興業』SDGsプロジェクトリーダー/羽根田みやびさん(吉本興業コーポレート・コミュニケーション本部本部長)にお伺いしました。
濃淡の差があっても
共有することから始まる。
『吉本興業』(以下吉本)と『国際連合』。お笑いと和平というその異色の組み合わせに、誰もが目を疑うに違いない。現在、SDGsを発信する取り組みとして、吉本ではお笑いの舞台や映画祭などで17の目標を盛り込んだネタの披露や、芸人が出演するPR動画の制作とさまざまに展開している。
約3年前、法務省が行う犯罪や非行からの立ち直り支援「社会を明るくする運動」に、吉本が協力したことがこれらの取り組みのきっかけだった。「(所属芸人の)鉄拳が啓発のためにパラパラ漫画を制作し、言葉を介さずに『思い』を伝えることができました。そこで、未来のある社会をつくるには吉本の笑いが一役買えるのではないかと考え、SDGsの取り組みを全社をあげてスタートしました」と同社コーポレート・コミュニケーション本部の羽根田みやびさんは当時を振り返る。
それまでの吉本は国際協力とは無縁、ましてやSDGsなんて聞いたこともない……という状況だったが、笑いが原動力となってさらなる効果を生むことができるかもしれないと、「SDGs×吉本興業」のチャレンジがスタート。まずは社員全員に伝えるための勉強会を2017年1月に東京の劇場で行い、中継や動画配信を通じて約1000人がその内容を共有した。「社員、所属芸人合わせて数千人いるなかで自分の意見や情報を内面に留めていると、相互に意見を取り込むこともない。SDGsについて聞かれても自信のなさから『知らない』と答えるのではなく、まずは自分の言葉で共有すること。そこから物事は始まるのではないかと思い、社内でも意識して取り組んでいます」と羽根田さん。これは共有に重きを置く目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」にも通ずる姿勢でもある。
まずは知ってもらうことから
もう一歩先の段階へ。
笑いとSDGsを組み合わせることに不謹慎と思う人もいるかもしれない。「笑い自体は問題解決には直結しない」と羽根田さんが言うように、まずはお茶の間にSDGsの話題を届け、それを見たお客さんが自分にできることを考えることが吉本の役割と考える。SDGsを前面に出したイベントを行うと、これに興味がある人しか集まらない。しかし、吉本が得意とするエンターテインメント力で発信すれば、これまでとは違った人たちをターゲットにできる強みがある。
これまでに吉本は、自社が主催する漫才コンクールをもじった「SDGs-1グランプリ」を実施。これは、17の目標のうちの3つをネタに盛り込んで即興で披露し、その中で誰が一番メッセージを伝えられたかを競うイベントで、笑いながらSDGsを知り、理解することにつながっているという。また、芸人が声の出演をするアニメーションや、動画を制作し、吉本の全国12の劇場で毎日放映。年間約300万人の来場者にSDGsの取り組みを知ってもらうことができている。さらに、17の目標のなかの「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさを守ろう」をテーマにした新喜劇の上演、17の目標を自分たちの身近なことに置き換えたタレントのスタンプを集めるスタンプラリーの実施など、コンテンツは多岐にわたっている。
今後は、SDGsのPR活動から一歩先に進めて、北海道で始まったまちの魅力を最大限に引き出すプロジェクト「下川町株式会社」のように地域の課題を自分ごととして解決に導くことにもチャレンジしていくという。吉本ではSDGsの取り組みに関わる以前から、47都道府県すべてに芸人と社員を派遣する「あなたの街に住みますプロジェクト」や、被災地に芸人が赴き、寄席や対話で復興を支援する「よしもとあおぞら花月」など、地域振興・復興に力を入れてきた背景がある。「SDGsは2030年にむけた開発目標ですが、笑いや笑顔はその後の未来にもつなげていきたい」と羽根田さん。吉本の取り組みはこの先も進化を続けていく。