岐阜県からカンボジア・トンレサップ湖へ。
「リサイクル・レボリューション」を掲げ、いらないもの、未利用なものに価値を見つけて、持続可能に循環させている岐阜県の企業『サンウエスパ』。
カンボジアでは水草のホテイアオイを資源化し、地域にいい循環を生み出そうとしています。
厄介者のホテイアオイを、バイオエタノールに。
カンボジアにある東南アジア最大の湖・トンレサップ湖。約100万人の水上生活者が暮らすというこの湖には、外来植物のホテイアオイという水草が、湖面の多くの場所で繁茂している。空間的な制限がない場合、7か月で200万倍になるといわれるほどの繁殖力をもつホテイアオイは、ボートの行く手を阻んだり、エンジンにからまったりと、漁や水上交通の妨げになるほか、水鳥や魚などの生態系にも影響を及ぼすと問題になっている。
このホテイアオイからバイオエタノールをつくり、資源を地域で循環させていくための事業を構想する企業がある。岐阜県岐阜市に本社がある、再生資源卸売業の『サンウエスパ』だ。同社が描く未来はこうだ。水上生活者にホテイアオイの回収を委託して雇用を生み、そこで製造されたバイオエタノールを彼らの足であるボートのエネルギーとする。また、日本で不用になった農機具をカンボジアへ輸出してバイオエタノールを利用して動かし、さらにはバイオエタノール製造で出た残渣を堆肥化させて作物をつくるというビジョンだ。
それにしても、岐阜県の再生資源卸売業者が、どのような経緯で、カンボジアでのエネルギー事業を進めようとしているのだろう?
循環型の未来を目指し、
エネルギーを生み出す、再生資源卸売業へ。
『サンウエスパ』は古紙をはじめとする資源回収を主力事業とする、社員約50人の企業だ。企業や行政からの古紙回収のほか、アルミ缶などの資源回収、家庭からの古紙や古着などを24時間いつでも持ち込みできるスポット「エコファミリー」を東海地区72か所に設置。効率化のためのIoTも導入して、リサイクルの新しい入口をつくっている。
本社を訪ねると、代表取締役・原有匡さんの社長室には、「リサイクル・レボリューション」という同社のビジョンが掲げられ、壁一面のホワイトボードには、びっしりと今後の構想が描かれていた。
原さんは3代目の社長に当たる。大叔父にあたる創業者から「会社を継いでほしい」と頼まれたが、当初、古紙業界に未来はあるのかと考え、一度は断ったという経緯がある。
2011年の入社後、「どうすればおもしろくなるのか」「どうすればモチベーションが上がるか」を考えながらリサイクルを学ぶと、目を向けるべきは「海外」ではないかという考えに行き着いた。
「“いらないもの”を“必要とする人”のところへと運ぶのがリサイクル。だとしたら、日本で必要とされなくなったものを、今、必要としているところへ運べばいい。それは途上国なのではないか」と、原さんは考えた。そして12年頃から東南アジア、とりわけまだ日本の大企業が進出していなかったカンボジアへと通うようになった。
さらには、ホテイアオイの価値を最大化させるためにはどうしたらいいかを考え、行き着いた答えが「酒を造って、売ること」だった。ホテイアオイを原料にクラフトジンを造って販売すれば、付加価値が100倍になる。
原さんは考える。「リサイクルの本質は『価値』にある。価値があるかぎり、ものは形や場所を替えながら再生し続けます。でも、価値がなくなれば、たちまち循環の連鎖は切れて、ゴミとなる。だから私たちの使命は、『価値』を永らえさせることなんです」。
その考えの根底には「相利共生」の思いがある。「一方だけが得をしても共生はできません。たとえば紙。僕らにとっては商品であって、飯の種でも、捨てる人にとってはゴミ。でも、それだとリサイクルは成り立たないから、利益を還元していかないといけないのです。資源とゴミの違いはそこに『価値』があるかどうかなんです」。