近年、温暖化などの環境問題への意識の高まりや、コスト上昇などに伴って「電気の使い方」に注目が集まっています。より柔軟な、そして地球にやさしい電気の運用が社会的に求められるようになり、電気を使うという行為にもサスティナブルな観点が求められるようになりました。家庭やオフィスの電力使用量を計測する「スマートメーター」の製造、販売を手がける「大崎電気工業株式会社(以下、大崎電気)」では、この社会ニーズの変化、高まりに合わせて、約1年間をかけて社員の方にSDGs研修を行ってきました。今回、研修を受けた大崎電気の社員の方に集まっていただき、研修についてのお話を座談会形式でうかがいました(所属は取材当時のものです)。
今回の座談会に参加していただいたのは以下の5名。
池田一真さん:入社6年目。経理部。入社以来、財務・経理関係の業務を幅広く担当。現在は主に月次決算や単体決算業務に携わっている。
斎藤和昭さん:入社34年目。品質保証部。製品に関するお客様への申請業務に従事しており、現在は第2世代スマートメーターの申請に向けた業務を担当している。今回はオンラインで参加
小林貴幸さん:入社27年目。技術管理G(元ハンドボール部所属)。技術開発本部の事業計画、収支予想における日程調整から関係資料報告までの一貫した業務を担当し、その他として開発者の業務効率向上を常に考え、開発環境の整備を行っている。
國分昭男さん:入社8年目。営業開発課。電気の商材を扱う電材商社への営業と、通信事業社向けに盤製品や直流システム製品の営業も行っている。
吉田幸洋さん:入社9年目。GXソリューション部。ホームセンターや家電量販店などの省エネを目的とした「エネルギーマネジメントシステム」を販売する営業。また、企業のエネルギー報告支援や電力量計販売なども行っている。
部門によって異なっていたSDGsへの認識のリアル
ソトコト まずはじめにお聞きしたいのですが、今回の研修を受ける前からSDGsやサスティナビリティにどれくらいの興味、関心がありましたか。リアルな部分として、正直なところをおうかがいできればと思います。
吉田幸洋さん(以下、吉田) GXソリューション部にいることもあって、CO2の排出量などを管理する機会のある仕事ですので、言葉についてはもちろん知っていました。ですが、個人的に何かコミットをしたり、積極的に活動をしたりというと、正直自信がありません(苦笑)。
池田一真さん(以下、池田) 経理部で有価証券報告書の開示にも携わっており、そこにサスティナビリティの開示も含まれているため、大崎電気の活動のなかにそういったものが組み込まれてきていたことは知っていました。しかしやはり、個人での興味関心というと、それほど強くはなかったと思います。
斎藤和昭さん(以下、斎藤) 品質保証部にいて、大崎電気は環境ISO(製品の品質に関する国際的な規格)を取得していることもあり、持続性のある、サスティナブルなものづくりが世界的な潮流になっていることは知っていた、というくらいですね。
小林貴幸さん(以下、小林) 技術管理グループにいるのですが、もしかしたらこのなかで一番詳しくないかもしれません(笑)。
國分昭男さん(以下、國分) 営業開発課に所属しており、営業部門ではeco検定の受験が奨励されていて、一昨年受験した際に多少勉強したかな、というくらいでした。
ソトコト 各部門によってSDGsなどへの認識は結構異なっていたんですね。外部から見ると大崎電気さんはかなりSDGsに積極的に取り組まれている印象だったので、働いている方の方があまり意識がなかったということに少し驚きました。
吉田 個々の取り組みについては、各部門のなかで独立して進んでいる印象があり、そのためにほかの部門には結構サラッとしか伝わってない部分があるかもしれませんね。たとえば埼玉事業所でGXに取り組み、1つの建屋で、消費電力量を最大でひと月あたり約40%削減したという実績があるのですが、恐らく本社に勤務されているとご存じでない方もいるのではないかなと。
小林 僕は埼玉事業所に勤めているのに恥ずかしながら、つい最近まで知りませんでした。
吉田 埼玉事業所のなかでも、さらにエネルギー専門部会というグループがあって、そこでの活動となっていましたからね。
ソトコト せっかくいい活動をしているのに、それがあまり知られていないというのはもったいない気もしてきますね。では続いて、SDGs研修を受けて気づいたことや得られた感想などを聞かせてください。
斎藤 研修を受けて、言葉でしか知らなかったSDGsというものが、多少なりとも感覚としてとらえられるようになったと思っています。会社での仕事もそうですが、自分のなかで意識せずにやっていたことが、実はサスティナブルな活動につながっていたことを知る機会になったかなと。
吉田 さっき國分さんが言っていたeco検定、私も受験したのですが、その際に勉強したことが研修でも出てきて、点として持っていた単純な知識が、他の情報とつながることで、自分のなかに根付いたという感覚はあるかもしれません。
小林 そうですね。私は本当に詳しくなかったので、たとえば「環境」という言葉一つ取っても、自分の想像していた領域だけでなく、そこからはるかに広く、自然や社会などさまざまな意味での「環境」が存在するんだといったことを知るきっかけになりました。
池田 そうそう、「環境」を形成するのは自然だけではなく、たとえば人や、人がつくったものも含めて「環境」なんだなという発見はありましたね。環境を守るといってもただ数字の目標を定めてゴミを減らせばいいわけではなくて、それをすることによってまた新たな負荷が発生したりもするわけなので、それを含めて持続可能かどうかなどを判断してアクションを起こしていくことが重要なんだなと。
小林 1対1ではなく、いろいろな観点でのアクションを並行して進めていくことが、これまでの環境保護やエコなどとは違うところなんだなという発見がありましたね。
國分 自分の認識では、日本は恵まれている国なので、SDGsに定められているゴールなどはあらかた達成しているものだと思っていましたが、実際は17あるゴールのうち3つほどしか達成できていないという現実を知って驚いたことを覚えています。小林さんの「環境」についての気づきもそうだと思いますが、自分の見てきたものが狭く、限定されている世界の一部だったんだなという発見がありました。
SDGs研修を経て、それぞれが見出した大崎電気の課題と取り組むべき施策とは
ソトコト SDGs研修の受講後、皆さんから大崎電気が今後取り組むべき課題と、それを解決するアイデアを出されたと聞いています。皆さんがどういった課題を感じ、それを解決するためにどのような行動が必要と考えたかお聞かせいただきながら、他の方の課題やその解決策へのコメントをいただけますか。
小林 僕は食べることが好きで「飢餓をゼロに」というゴールに着目しました。日々生活しているなかで自分に身近な「食」と、それに付随するフードロスの削減を課題としました。「大崎」をアルファベットで書くとOSAKIとなりますが、これを反対から読むとIKASOになります。
ソトコト OSAKI→IKASOはいいキャッチコピーになりそうですね。
小林 社内で春にはお花見をやっておりますが、そのような交流の場でフードロスを意識できるような機会を設けてはどうかなと。たとえば家で余った食材を持ち込むなどすることでフードロスを削減し、また同時にフードロスについて考える時間となるんじゃないかなと思いました。
池田 もしくは逆に余った食材でつくった料理を提供し、それを持って帰ってもらえるような形にしてもいいかもしれませんね。私は、各部署ごとの支出のなかでクリーンエネルギーを用いたものとそうでないものを分割し、またそれを「見える化」してフィードバックを行うことで、エネルギーの使用に関する問題意識の共有と、一種の社内での競争ができるのではないかと思いました。その結果に応じたインセンティブを用意できれば主体的に会社としてGXなどを通じて社会貢献ができるようになるのではないかなと、研修を経て思いました。
小林 確かに、会社として取り組みを進めるなかでインセンティブや一種の競争意識、一丸となって取り組みやすい体制づくりがあるといいですね。それこそ新たな部署を立ち上げて、SDGsに関する取り組みの旗振り役をやってもらうとか。
國分 「見える化」はわかりやすい指針として私も必要だなと感じます。自分は課題として脱炭素社会に向けたカーボンフットプリントの重要性に着目したのですが、たとえばスマートメーターや検針装置などの自社製品にしっかりと数値を明記して、大崎電気の取り組みをより周知していくことが大事なのではないかと思いました。今はまだ国内ではカーボンフットプリントについての理解が十分に広まっているとは言えないかもしれませんが、今後社会や企業がそこに目を向けるようになったときに、先行してカーボンフットプリントの重要性を説いておくことで大崎電気の取り組みにもあらためて注目してもらえるのではないかと。
斎藤 社内外へのアピールという点では、大崎電気のハンドボールチームである「OSAKI OSOL」の選手に協力してもらうのもいいんじゃないかなと感じます。たとえばわかりやすい施策として、試合で選手が点を決めるたびに植樹を行うとかはキャッチーでいいですよね。私は、今後第2世代への切り替えが始まる、使用済みのスマートメーターの再利用について考えました。たとえばこれを発展途上国のインフラ整備に使えないかといったようなことですね。ですが、こういった取り組みはその意義が一般の方にはなかなか伝わらないので、その代わりにパッと見て「面白そうなことをやっているな」とすぐに伝わる取り組みが必要だろうなとも思っています。
國分 選手のユニフォームにカーボンフットプリントの数値を書いたっていいですよね。
斎藤 「あれは何だろう?」って思ってもらえるかもしれないですからね。
吉田 私は、社内での体制づくりや社内外を問わずの「見える化」とは少し違うお話になるのですが、EMS(エネルギーマネジメントシステム)を進化させることが大切だなと研修を通じて感じました。具体的にはエネルギーリソース施設と連動したEMSをつくる必要があるのではないかと。
小林 エネルギーリソースというと、やはり蓄電池とかってことですか。
吉田 はい。今はまだ高性能な蓄電池はコストがかかるのですが、たとえば太陽光パネルがそうであったように、かつては高額だったものが技術革新や価格競争を経て手の届きやすいものになっていく流れはあると思います。ガソリンを使わないEVや、性能のいい蓄電池も今後少しずつ時間をかけて低コスト化が進むのではないかと。
池田 今はコスト的に気軽に導入するのは難しいですが、今後は蓄電池を使ってより柔軟に電力を運用する時代が来るという予想がまずあるわけですね。
吉田 はい、そういった時代が訪れることを見越して準備、計画しておくことが大切なのではないかと感じました。これは昔からそうですが、私たちの製品づくりは社会の要請に沿ったものが多いので、今後どのようなニーズが生まれることが考えられるのか、社会の過渡期にあたって情報収集を進めるフェーズなのではないかなと。
斎藤 ちょうどスマートメーターも世代交代の時期ですからね。
SDGsを自分ごとへ。研修を経てこれから個人で取り組みたいこと
ソトコト 最後になりますが、今回の研修を受けての率直な感想や、今後自分でやってみたいことなどを教えてください。
池田 研修を受ける前は、SDGsというものをある意味「0か100か」でとらえていたところがあったと思います。やるか、やらないかというか。ただ、研修を経て、そうではなく、1人1人が完璧にやる必要はなくて、自分のなかで配慮できる部分で貢献する、それを集めて大きな力にしていくというのが重要なのだなと思いました。個人的な話になるのですが、紙のストローってありますよね。私、あれ嫌いなんです(笑)。
ソトコト よくわかります。私もファストフード店などで紙ストローだとガッカリしてしまいますね。
池田 だから、そこは譲りたくないんですよね。プラスチックのストローで飲みたいと思います。でも、代わりにたとえば服飾品などは新しいものでなくても構わないんです。そこは全然譲ることができる。さまざまなゴールが設定されている分、こういうふうに自分が貢献できるところから取り組める、意識を変えていけるというのがSDGsなのかもしれないと思いました。
小林 服飾品というところで、ちょっと被るかもしれないんですが、大崎電気で取り組みたいこととしてフードロスの削減につながるような何かをしたいと思いました。衣食住で考えると、その次は「衣」についても取り組みができればいいなと思います。今日、話のなかで「OSAKI OSOL」のことがでてきましたが、たとえば選手のユニフォームやチームのTシャツなどを販売するイベントを開いて、そこで同時に古着のバザーや交換会をやるとか。
ソトコト 選手とファンだけでなく、大崎電気の社員の方もそこに加わってのイベントということですね。それは、大人だけでなく子どもも参加できる催しになりそうですね。
吉田 子供が、といえばちょっと個人的な話になるのですが、つい先日、子どもが生まれたんです。
全員 えっ、そうなんですか? おめでとうございます。
吉田 そのことと、今回のSDGs研修を受けてみて感じたのは、これまで自分は少なくとも自分が生きていくあと数十年のことだけを考えていたんだなということです。世界的に見れば産業革命後の1900年前後から、日本で言えば戦後の高度経済成長期にあまり未来のことを考えずに経済活動をしてしまいました。今は、言ってみればその恩恵を受けつつも「ツケ」を払っているような状態なんだと思います。だから「昔の人たちは何をやっていたんだ」という気持ちもあるんです。ただ、今回さまざまな経験を経て、自分たちが下の世代にそう言われないようにしなくてはいけないなと思うようになりました。
斎藤 私も「先のこと」を考えるきっかけになったというのが今回のSDGs研修を受けて感じた大きなポイントですね。ただちょっと、すぐに自分の行動を変えたりすることはできないかなと思っていて。たとえば自分の車を見て「次に買い換えるときはEVにしようかな」とか、少しだけ意識が変わったなという気はしています。自分の普段の思考のなかにSDGsの要素が少し加わったというか。
國分 私も、本当にありきたりなことになってしまいますが、コンビニをよく利用するんです。これまではプラスチックのスプーンやフォークを毎回もらっていましたが、今後はそれを控えて、家に食器を用意しておくようにしようと、そのくらいのことを思いましたね。本当に小さなことでちょっと恥ずかしいですが(笑)。
ソトコト そんなすぐに行動を変容させられる人って、多くはないですよね。急に180度方針転換するのではなく、15度とか20度でいいから、何かをするときに意識する、考えるようになれば、今回の研修の意義は大いにあったのではないかと思います。
おわりに
GXや多様な働き方の支援などを進め、現代の社会ニーズに合わせて変わろうとしている大崎電気。その取り組みの一環であるSDGs研修について、研修に参加者された皆さんにお話をうかがった。
研修の前は正直SDGsや現在の地球が抱えるさまざまな問題についてあまり知らなかった、関心を持てていなかったというのは、実は多くの人が持つ感覚なのかもしれないと感じました。そしてそれが研修を経て、参加者がそれぞれしっかり課題意識を持ち、大崎電気や社会の課題を認識し、それを解決するユニークなアイデアをどんどん出していたことが印象的でした。
そして、研修の感想のなかでも出てきましたが、今回研修を受けたからと言ってすぐに行動を変容させることは多くの人にとって現実的ではないとも感じました。ただ、すぐには変わらずとも、少しずつ変わっていく。それこそがまさにサスティナブルな変化であり、その意識を持った大崎電気がこれからどう変わって、そして新しい社会貢献を成し遂げていくのか、それを見るのが楽しみになりました。