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サスティナビリティ

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特集 | 第4回「ソトコトSDGsアワード2024」

これからの都市とリゾートを「ネイチャーポジティブ」にアップデート。生物多様性の回復に全力投球する東急不動産ホールディングスの試み

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地球上の生き物の多様性が失われていくスピードに歯止めをかけ、「生物多様性の損失」から「生物多様性の回復」へ反転させる「ネイチャーポジティブ」の考え方が世界的に広がっています。創業当時から自然との調和を考えた開発を行ってきた『東急不動産ホールディングス株式会社』(以下、東急不動産ホールディングス、または当社)は、ネイチャーポジティブの観点から自社の事業を評価し、未来につなげる試みをスタートさせています。

目次

世界中で取り組みが進むネイチャーポジティブ

世界全体で生物多様性の保全に取り組むために、1992年、国連で「生物多様性条約」が採択されました。以後、およそ2年に一度開催される「生物多様性条約締約国会議(COP)」で、具体的な目標や取り組みが決められてきましたが、その努力を上回る勢いで生物多様性が失われ続けています。

この危機的な状況に対し、2022年にカナダ・モントリーオールで開かれた「COP15」で採択された国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、2030年までに「ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を止め反転させ、自然を回復軌道に乗せること)」を達成させるためのミッションと具体的なターゲットが定められました。

目標とする生物多様性の回復軌道を示した成長曲線グラフ。(出典:WWF

ネイチャーポジティブの達成には、国や自治体、企業、NGOなど、社会のさまざまな担い手による取り組みが必要です。COP15で定められたターゲットには、企業が生物多様性への依存度やインパクト、リスクや機会を把握・開示することも盛り込まれています。この動きにいち早く対応し、自らの事業が与える生物多様性への影響を調査・分析し、開示したのが、東急不動産ホールディングスです。

生物多様性の観点で事業を評価。ネイチャーポジティブにコミットする東急不動産ホールディングス

東急不動産ホールディングスの中核会社である東急不動産は、1953年に都市開発・リゾート開発を行う会社として設立されました。

「当社は、創業当時から、自然と調和するまちづくりを念頭に事業を行ってきました。人や社会の基盤となるのは環境です。自然と共生・調和し、持続的に発展するために、サステナブルな環境づくりはデベロッパーとしての使命と考えています」と、今回、自社のサステナビリティ、生物多様性の取り組みとTNFDレポート※1(国内不動産業で初めての策定)の公開について詳しく教えてくれたのは、東急不動産ホールディングス グループサステナビリティ推進部部長の松本恵さんです。

※1 自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures, または TNFD)とは、2021 年に発足した自 然関連の依存・インパクト、リスクと機会を適切に評価し、開示することを要請する国際的なタスクフォース。気候変動における TCFD(気候 関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures))と連動したフレームワークを提示している。 TNFDの提言に基づいて企業が作成するレポートのことを指す。

<今回お話をうかがったのは?>

『東急不動産ホールディングス株式会社』
グループサステナビリティ推進部 部長・松本 恵さん。

松本 恵さん 東急不動産では1998年に環境ビジョンを策定し、「都市と自然をつなぐ。ひとと未来をつなぐ。」というスローガンの下、事業に取り組んできました。生物多様性への認識が社内で高まったのは、2010年に愛知県名古屋市でCOP10に参加したのが大きなきっかけです。開発事業を行うデベロッパーとして、自然資本への事業の影響について認識が必要であると改めて実感しました。

企業が対応すべき環境課題として重要であるということで、当社ではCOP10の翌年の2011年に「生物多様性方針」を策定しました。事業のなかで、都市部の開発では緑化を取り入れ、地方のリゾート開発では森林保全など自然資本を増やしてきたものの、当時は生物多様性の具体的な影響を測ることが難しく、定量的なデータ分析をしたことはありませんでした。

その後、2020年に「TNFD」が発足し、生物多様性関連のリスクや機会、依存やインパクトについて情報開示するための世界共通の枠組が構築されました。この枠組みを使えば、事業が与える生物多様性への影響や、逆に生物多様性から受ける恩恵を具体的に可視化・分析することができます。これはすぐに取り組むべきだと考え、2023年8月にTNFDレポートを発行しました。

2012年から広域渋谷圏での生き物調査をスタート。早期からの取り組みの積み重ねが、迅速なネイチャーポジティブの可視化・分析、TNFDレポート開示にも役立っている。

TNFDレポートの分析のなかで、当社の全事業について自然資本への依存とインパクトを調べたところ、開発事業の全てにおいて陸域の生態系へのインパクトが大きく、木材や水などの自然資源、また自然による癒しや景観などに依存していることが分かりました。

次に、当社の事業地について、それぞれ生物多様性の重要性と十全性を分析しました。事業活動が影響を及ぼす可能性のある「優先地域」として、都市部の「広域渋谷圏」※2と長野県の「東急リゾートタウン蓼科」の2か所を特定し、詳細な調査・分析を実施することにしたのです。

※2 東急グループの渋谷まちづくり戦略において定めた渋谷駅から半径 2.5km 圏のエリアのことで、本レポートでは、当社グループとして広域渋谷圏を優先地域と定めています。

緑地を増やす都市開発で、広域渋谷圏の生物多様性を回復する

(出典:東急不動産ホールディングス「TNFDレポート」)

松本 恵さん 「広域渋谷圏」(前述)のエリア内では、当社は39の物件の開発・運営を手掛けており、それらの土地利用・建物緑化が与えた自然へのインパクトを、『株式会社シンク・ネイチャー』(以下、シンク・ネイチャー)※3の協力のもとビッグデータ解析を行いました。その結果、減少傾向にあった緑地面積が2012年以降にプラスに転じ、当社の開発・運営物件では緑地面積の割合が回復していることがわかりました。緑地面積の確保や、植栽樹種での在来種選定など、緑化の量と質の確保に向けた取り組みの成果が表れ、ネイチャーポジティブの貢献が数値的にも示されました。

※3 琉球大学理学部の久保田康裕教授を中心としたネイチャー・データサイエンティストの研究者スタートアップ。最先端のデータ解析を通して、生物多様性・生態系サービスのサステナビリティに関するソリューションを提案している。

当社のネイチャーポジティブのきっかけであるプロジェクトは、2012年開業の「東急プラザ表参道(オモカド)」(東京都渋谷区神宮前)です。屋上テラス「おもはらの森」の植栽の樹種は、近隣の明治神宮や代々木公園、表参道のケヤキ並木の緑地の生態系とつながるように計画されたものです。

オモカド以後、当社の施設では緑の量と質を確保した緑化に取り組み、「渋谷フクラス」「Forestgate Daikanyama 代官山TENOHA棟」「東急プラザ原宿(ハラカド)」など、緑に彩られた商業施設やオフィスを開発・運営しています。

緑豊かな屋上テラスを備えた東急プラザ原宿「ハラカド」。

オモカドでは2012年から鳥類や昆虫類の専門家の協力を得て生き物調査を実施しており、年間を通じて現地での生き物の種類や数を確認しています。これまでの調査によれば、鳥類22種、昆虫類158種が観測されました。屋上テラスには複数の巣箱を設置しており、今年は誘致種であるシジュウカラの営巣が確認されました。

生き物調査で生息が確認された(左上から時計回り)にアオスジアゲハ、シジュウカラ、ナナホシテントウ、ツグミ、スズメ、ハクセキレイ。

森林保全と開発を両立するリゾート「東急リゾートタウン蓼科」

『東急リゾートタウン蓼科』周辺に群生するカラマツの紅葉(通称「カラマツゴールド」)。

松本 恵さん TNFDレポートで優先地域と定め、渋谷に続いて調査・分析したのが「東急リゾートタウン蓼科」(以下、蓼科)です。長野県茅野市の広大なエリアにホテルや別荘、ゴルフ場、スキー場などのアクティビティ施設が点在し、エリアの約75パーセントが森林という豊かな自然環境の大型複合リゾートです。

リゾート事業は、恵まれた自然環境や景観という価値があってこそ成り立つもの。開発・運営による負の影響をどれだけ抑え、プラスのインパクトをどのくらい増やせるかが問われます。蓼科では自然資本の保全に努め、森林資源の適切な管理や水資源への影響の低減などに取り組んでいます。

リゾート開発とともにネイチャーポジティブへ向けて適切に管理されている蓼科の山林。外来種の除草や森の間伐など、管理は細部にまで及ぶ。

TNFDレポートでは、シンク・ネイチャーのビッグデータ解析を活用し、蓼科の森林面積の経年変化を分析しました。一時はホテルや別荘地の開発で森林が伐採され、緑地が減少した時期もありましたが、東急不動産は2018年に森林経営計画を策定するなどして、全体の推移としては森林の緑被率が回復傾向にあり、現在は高い水準となっていることが分かりました。

(出典:東急不動産ホールディングス「TNFDレポート」)

適切に管理された森林には多くの生き物が生息することは知られています。周囲の自然を育み、共生する開発を行えば、生物多様性にポジティブなインパクトを与えられることが今回の分析でわかりました。

「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」に包括的に取り組む

松本 恵さん これまで生物多様性とTNFDレポートについてお話してきましたが、東急不動産ホールディングスでは、環境課題として「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」の3つを掲げています。そして、この3つの環境課題は相互に関連があり、包括的な取り組みが必要だと考えています。

例えば、「脱炭素社会」と「生物多様性」の課題解決においては、農地で太陽光発電を行うソーラーシェアリング事業を進めています。農業と発電を両立させることで、再生可能エネルギーの供給でCO2排出削減に寄与すると共に、ソーラーパネルの下で育つ農作物は地域の生態系保全に寄与することも期待できます。

また、「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」については、「フォレストゲート代官山 TENOHA棟」で包括的な取り組みを進めています。「フォレストゲート代官山 TENOHA棟」は、2023年に東京都渋谷区代官山にオープン。屋上緑地で栽培したハーブや野菜を施設内のサーキュラーカフェで利用、店舗で利用規格外の花を販売したり、照明等に再エネを利用するなど、緑にあふれた心地よい空間で環境課題を身近に感じて頂ける施設です。

生物多様性が注目を集めており、さまざまな環境課題への認識が高まっているなか、まちづくりにも対応する観点を取り入れることが不可欠です。一般に生活する方々にハードルが高いと思われがちな環境課題への対応を、緑の心地よさ癒しといった多様な効用やプラスアルファの価値を加えて、環境課題の理解と共に、地域や施設への愛着につなげるまちづくりを東急不動産ホールディングスでは続けています。

東急不動産ホールディングスのTNFDレポートは、こちらでご覧いただけます。

text by Reiko Hisashima

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