「農泊」という言葉をご存知でしょうか。農林水産省が推奨する旅のスタイルでもあるそれは、「農山漁村に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験などを楽しむ“農山漁村滞在型旅行”」のこと。地域資源を観光コンテンツとして活用し、国内外の観光客を農山漁村に呼び込み、関係人口創出などにも繋がるものです。今回、特に関東エリアの“農泊”に着目。実際に現地に赴き、その魅力を探ってきました。
もともとはヨーロッパから始まった旅のスタイルだった
農泊を、「農村エリアにおける交流、地域資源体験を含めた旅」と捉えると、実は海外のほうが歴史は古く、1960年代ころから、主にヨーロッパのイタリア、ドイツ、オーストリアなどで取り組みが始まっていました。当時は、農村部での休暇旅行というイメージで、アグリツーリズムやグリーンツーリズム、ルーラルツーリズムなどと呼ばれ、1970年代に入ると、農家の副業としての農家民宿が一般化していったとも言われています。


日本での農泊の萌芽は、九州から
日本には1980年代後半あたりから、一部でその動きを取り入れる潮流がありました。有名なのは大分県宇佐市安心院。日本の農泊発祥地とも言われ、教育型観光旅行(修学旅行の受け入れ)先として、農家に泊まるというスタイルが始まっていきました。
ちなみに後述になりますが、日本でいち早く農泊の世界、都市と農村交流をメインのテーマとして扱う雑誌『九州のムラ』が立ち上がったのもこのころ。ただ、まだ日本では、その存在すら知らない事業者、消費者がほとんどでもありました。



持続可能な農泊は、世界の旅のトレンドでもある
時は流れ、現在。旅のカタチは、地方、地域に向かっていると感じます。地域の人たちとの心の交流、風土が育む素材から生み出される滋味の数々、非日常ではなく地域の日常にある美しい風景など。農泊の世界にもともとあった、これらの世界観が、今改めて見直されています。
加えて、海外を含めたツーリズムの潮流もあるでしょう。オーバーツーリズムからの脱却を図るためだけでなく、昨今、話題になることの多いサステナブル・ツーリズムがまずはあります。持続可能な旅の観点において、受け入れ地域を軸に、旅行者、観光関係事業者それぞれが、環境や文化を守り、尊重し合い、経済性をも担保できる、この旅の在り方にも、農泊はマッチしていると考えます。
さらに一歩進んで、コミュニティ・ベースド・ツアーと呼ばれる、〝旅をすることでその地域をよくする〟という、新しいツーリズムのカタチにも農泊は相性がいいのです。地域の課題に対して、地元の人たち、旅行者が共に答えを見つけていくコミュニティ・ベースド・ツアーは、関係人口の創出はもちろん、移住・定住にも波及してくという利点も。
農泊には、実に多様な可能性があると言えるのです。

関東の農泊のポテンシャルとは?
農林水産省の農山漁村振興交付金による農泊推進の支援に採択され、農泊に取り組んでいる地域は、全国に656。主観としてですが、これまでは東北、九州が一歩先んじていた感がありました。ただ、実施エリア数を見ると、関東は最も多い135。実は、全国屈指の農泊エリアになっていたことがわかりました(令和5年度調査)。
今回、そんな関東エリアの農泊の中から、独自調査により10エリアを選定し、取材。実際に旅してきました。現地を訪ねたのは2人。1人は雑誌『九州のムラ』元編集長・養父信夫さん。日本の農泊の黎明期から現場を見てきた先駆者の視点で、関東の農泊を解説します。もう1人はフォトジャーナリストの乾祐綺さん。本誌でも活動する乾さんは、現在、日本とポルトガルの二地域で暮らし、海外のツーリズム事情にも精通。2人のやりとりから、関東の農泊のポテンシャルの高さを感じてもらえたらうれしいです。
関東のムラに行ってきました 10
01 関東のムラに行ってきました。茨城県「かすみがうらFC」編

02 関東のムラに行ってきました。栃木県「吉田村VILLAGE」編

03 関東のムラに行ってきました。千葉県「椿HOUSE」編

04 関東のムラに行ってきました。静岡県「かわねグリーンツーリズム」編

05 関東のムラに行ってきました。長野県「アファンの森財団ホースロッジ」編

06 関東のムラに行ってきました。長野県「一般社団法人信州いいやま観光局」編

07 関東のムラに行ってきました。千葉県「岩井ファーム」編

08 関東のムラに行ってきました。山梨県「もしもしの家」編

09 関東のムラに行ってきました。東京都「NPOくにたち農園の会」

関東のムラに行ってきました。群馬県「一般社団法人みなかみ町体験旅行」

関東のムラに行ってきた人:養父信夫さん
『九州のムラ』元編集長。地域に生きる人々の暮らしを中心に取材を重ね、“ムラ”と“マチ”を繋げる。講演や地域づくりのアドバイザーなど、グリーンツーリズムやスローフード運動の啓蒙活動も積極的に行っている。“ムラガール” の名付け親。近年は活動の幅をさらに広げ『NipponノMURA』を発刊し、全国各地の〝農泊〟推進に尽力する。https://9mura.net/about
関東のムラに行ってきた人:乾祐綺さん
欧州(ポルトガル)と日本2拠点で活動するフォトジャーナリスト。編集者、クリエイティブディレクター、プロジェクトダイレクターとしてもの取り組みも。長年、日本のローカル&ルーラルエリアの取材などを多く手がけてきた。近年は日本と関わりの最も長い欧州の国であるポルトガルと日本とをつなぐ複数のプロジェクトを多数進行中。@315yuki
Nippon ノ MURA 公式note
令和6年度農山漁村振興交付金(農山漁村発イノベーション対策(農山漁村発イノベーション推進事業(農泊推進型)のうち広域ネットワーク推進事業「関東農政局農泊推進プロモーション」))