新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。
まちづくり×大宮 透さん
長野県・小布施町の地方創生主任研究員として、まちづくりや関係人口創出の取り組みに力を入れてきた大宮透さん。全国の若者会議の先駆けとなった「小布施若者会議」を立ち上げるなど、数多くのソーシャルプロジェクトに携わってきた経験を踏まえての、紹介。
都市計画を学ぶために大学院に進む予定だった2011年の春、東日本大震災が起こり、入学式が5月に延びたため、4月ごろから先生と一緒に岩手県の沿岸地域で活動を始めました。そこで復興プロジェクトの立ち上げや地域での話し合いの場づくりをお手伝いする機会をいただきました。仕事をした経験もない大学院生が被災地の集会所などで、住民の意見が割れ、対立している会議のファシリテーターを務めたりもしました。「りくカフェ」という住民の集いの場をつくるプロジェクトには立ち上げから参加し、さまざまなステークホルダーを巻き込んだ事業のマネージメントを経験させていただきました。
被災者の皆さんは家族や知人を亡くされ、複雑な思いを抱きながらも、地域をどのように立て直していくかを懸命に考えておられました。だからこそ、考えの異なる住民同士が対立する場面にもよく出合いました。多様な意見が混在し、ある種の”紛争状態“にあるような場から、どのように参加者の前向きなエネルギーを引き出し、具体的なアクションにつなげていくのか。被災地に通う中で、これが自分にとっての一つの大きなテーマになっていったような気がしています。
当時ファシリテーションや対話に関する入門書をいくつか読みはじめていましたが、本気で勉強するには至りませんでした。ただ、その後に長野県・小布施町のまちづくりに関わるようになってから本格的に場づくりを学ぶ必要性を感じ、出合ったのが『社会変革のシナリオプランニング』という本でした。著者のアダム・カヘンは紛争解決の世界的権威で、紛争地域の組織のリーダー同士を同じ場に招き、「ありたい未来」を一緒に描くワークショップを開催しています。これを読むと、地域の人と人をつなぎ、課題を解決するまちづくりも、紛争解決にとてもよく似ていると感じます。
『グローバル・グリーン・ニューディール』もおすすめです。今後、化石燃料をベースとする社会や産業がどうなっていくのか、そんななか環境にやさしいまちはどうやってつくっていけばいいのかを考えるうえで参考になるはずです。ヨーロッパや中国の事例が多いのでそのまま展開はできませんが、規模の大小を問わず、日本の自治体関係者は、ぜひ読むべき一冊だと思います。
大宮さんおすすめの5冊
●社会変革のシナリオ・プランニング─対立を乗り越え、ともに難題を解決する(アダム・カヘン著、東出顕子訳、英治出版刊)
紛争解決のワークショップのファシリテーションを行う著者。多様な価値観を持ち、対立する人々が本音でつながり、創発的なプロセスのなかでともに変化を生み出す。まちづくりにも共通するヒントがちりばめられています。
●グローバル・グリーン・ニューディール(ジェレミー・リフキン著、幾島幸子訳、NHK出版刊)
ドイツや中国で次世代の産業や都市政策を提言している著者が提案する「未来」が詰まった一冊。気候変動が影響を及ぼすなか、ヨーロッパを中心に進むグリーン・ニューディールと、実現に向けたプランが示されています。
●都市計画の世界史(日端康雄著、講談社刊)
長い歴史のなかで、人が集う「都市」はどのようにしてつくられてきたのか。古代文明から現代の都市計画にいたるまで、一気通貫で学べます。そして、コロナ後の世界の都市のあり方を考えるうえでのベースをかたちづくれるのではと思います。
●小布施 まちづくりの奇跡(川向正人著、新潮社刊)
僕が移住した小布施町は人口約1万1000人の田舎町。いかにして年間100万人以上の観光客を集める町になったのか。民間と行政が協働し、40年以上かけて進めてきた景観まちづくりの取り組みと、まちの人たちの考えをていねいにまとめています。
●未来を変えた島の学校─隠岐島前発ふるさと再興への挑戦(山内道雄著、岩本悠著、田中輝美著、岩波書店刊)
「高校魅力化プロジェクト」で知られる島根県・海士町の隠岐島前高校。新しい学びが生まれる場として多くの生徒を集め、それが地域の活力にもつながっています。学校を核としたまちづくりのモデルは、自分の地域でも取り組んでみたくなります。