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サスティナビリティ

特集 | 未来をつくる本

サスティナブル・ブックガイド デジタルテクノロジー×松島倫明さん

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 新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。

目次

デジタルテクノロジー×松島倫明さん

『WIRED』日本版の編集長として、テックカルチャーを牽引する松島さん。これまでにはない規模で情報化が進む現代に必要な、テクノロジー観を刷新し、サスティナブルな環境を維持するための5冊を選んでもらいました。

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左/限界費用ゼロ社会 ─〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭(ジェレミー・リフキン著、柴田裕之訳、NHK出版刊 )。右/テクニウム─テクノロジーはどこへ向かうのか?(ケヴィン・ケリー著、服部 桂訳、みすず書房刊)

 世界がコロナ禍に見舞われたのは悲劇ですが、バーチャルな世界とフィジカルな世界の棲み分けについて、人類が一度立ち止まって内省する機会でもありました。

 生きるためには資源が必要です。しかしバーチャルな世界の可能性を多くの人が知ったことで、物理的な資源を浪費しないサスティナブルな生き方がこれまで以上に見出されることになりました。外出を控え、オンライン上でのコミュニケーションを増やした結果、空気汚染が軽減されたことなどがひとつの例でしょう。

 コロナ禍に限らず災害全般に対応するというのは、人間と自然との共存方法を探ることでもあります。現代社会においては、人間と自然、さらにはテクノロジーも含めてひとつの生命圏として考え、お互いがインタラクティブに影響し合って進化していくという視座が必要になります。選書でもそれを意識しました。

 まずおすすめしたいのは、『限界費用ゼロ社会』。限界費用とは簡単にいえば、ある生産量からもう少しだけ生産を増やすのに必要な費用のことです。著者のジェレミー・リフキンは、デジタルテクノロジーによってコミュニケーション、エネルギー、輸送のあり方が更新され、それぞれの限界費用がゼロになる社会を築けると説いています。それにより第三次産業革命が起き、資源の使用量を抑え、環境に負荷のかからないサスティナブルな文明社会が実現できるという内容です。

 単なる懐古的な自然回帰ではなく、世界的な情報化が進む現代に沿う形で自然と共存していくという点では、『テクニウム —テクノロジーはどこへ向かうのか?』も参考になります。テクノロジーを生物界のひとつとして捉え、動植物とともに進化していくという、脱人間中心主義的で新しい世界観を提示してくれます。

 さらに、フィジカルの代替物に留まらないバーチャルもあるのではないか。そんなことを考えるときに参考にできるのが、『複製技術時代の芸術』です。80年以上前の古典で、技術が発達して音楽などが複製される時代に、果たしてそれは本当に芸術たりえるのかと問う本です。地球規模で物理世界が複製される時代に、芸術性、真実性とは何かを考えるヒントになりますし、バーチャルの価値を人類がどう位置付けていくかが結果的に環境を守るのにもつながるという意味でも重要な一冊です。

松島さんおすすめの5冊

●限界費用ゼロ社会 ─〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭(ジェレミー・リフキン著、柴田裕之訳、NHK出版刊 )
デジタル革命の本質は複製コスト(=限界費用)がほぼゼロになることであり、産業革命の条件であるコミュニケーション、エネルギー、輸送の限界費用がゼロになることで到来する真の共有型経済社会を展望します。

●テクニウム─テクノロジーはどこへ向かうのか?(ケヴィン・ケリー著、服部 桂訳、みすず書房刊)
『WIRED』創刊エグゼクティブエディターが「テクノロジーは生命のように進化する」という見地から著した本です。生命を「自己生成する情報システム」と定義することで、テクノロジーをも生物圏のなかに組み入れた視座を提示しています。

●コルヌトピア(津久井五月著、早川書房刊)
2084年、コンピューターの計算資源として植物のメカニズムを活用し、森林に囲まれた東京23区で、技術者の主人公が遭遇する事件を描いています。人間と自然のインタラクティブな共生の形を描いた、若い書き手による新しい未来観をもつSF小説です。

●宇宙、肉体、悪魔─理性的精神の敵について(J・D・バナール著、鎮目恭夫訳、みすず書房刊)
イギリスの生物物理学者・バナールが1929年に発表した古典的名著です。環境、肉体、精神という制約から人類がいかに飛躍しうるかを、単なる技術予想ではなく、人類の想像力そのものの可能性を壮大なスケールで示していることに今でも驚きます。

●複製技術時代の芸術(ヴァルター・ベンヤミン著、佐々木基一編、晶文社刊)
ドイツの思想家である著者が、1936年に発表した評論です。芸術が複製され、大衆消費が進む時代にあって、優れた芸術作品に対して人が経験する感覚を「アウラ」と名づけ、その定義を軸に展開する芸術論は、現代をも読み解けるものです。

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左/コルヌトピア(津久井五月著、早川書房刊)。中/宇宙、肉体、悪魔─理性的精神の敵について(J・D・バナール著、鎮目恭夫訳、みすず書房刊)。右/複製技術時代の芸術(ヴァルター・ベンヤミン著、佐々木基一編、晶文社刊)

 

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