新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。
保育×齋藤美和さん
今回の特集で「保育」というジャンルがつくられたことに感激したという齋藤美和さん。保育士として、また保育園の園長として大切にしていることを軸に、保育や保育者のことが分かるような本をセレクトしてくれました。
私は、自分が保育士、さらに保育園の園長になるとはまったく思っていませんでした。結婚を機に保育の現場に立つことになり、この道で成長していくために、さまざまな本を手に取りました。
新米園長として救われたのは、ある保育園の園長先生が書いた本『大人だってわかってもらえて安心したい 発達する保育園 大人編』。保育の喜びや悩みなどが率直に綴られ、葛藤しながらも保育を実践している様子が分かって「園長先生でも揺れて、悩んでいいんだ!」と安堵したのです。本書で先人の経験に励まされ、悩みなども素直に受け止められて「新米の園長の時間を楽しもう」とすら思えました。
保護者や保育者にオススメしたいのが『集団っていいな 一人ひとりのみんなが育ち合う社会を創る』です。子どもたちが群れになり、集団のなかで育つっていいなと思います。いつも誰かの目のもとにいたら、子どもは窮屈なのではないかと思うからです。ピントを合わせたら、時にずらさないと、子どもだってきついでしょう。個である「私」も大事ですが、「みんなのなかの私」も大事なのです。本書では、一人ひとりにスポットを当てながら集団にも目を向け、居心地のいい集団づくりについて事例を紹介しています。
保育者もそうです。保育は一人ではできません。保育集団として力を合わせた、強度のあるしなやかな保育を意識しています。保育士と定期的にミーティングをして、個の力をお互いに理解しチームをつくっています。
また、児童相談所の内部のことがよく分かる貴重な本『ジソウのお仕事 50の物語で考える子ども虐待と児童相談所』も子どもたちの現状を知るのに役立ちます。虐待など実際に起きたことを物語ととらえて書かれていて、関わる人が葛藤している様子が伝わってきます。そうしたセンシティブな部分が日々の保育のなかにあり、保育士はそれを見て感じながら、子どもにとってどうしたらいいのかを常に考えています。
こうした保育の観点を保育者や保護者だけがもつのではなく、いろいろな業種の人に知っていただきたいです。例えば、宿をつくったりレストランを開いたりするときに、「保育士にも意見を聞いてみよう」となったらいいなと夫とも話しています。保育のプロだけで育てると、プロがいないと生きていけない状態になってしまいます。保育の現場になるべく多くの人が出入りして、子どもたちの物語の登場人物が多くなったらいいなと考えています。
齋藤さんおすすめの5冊
●ジソウのお仕事─50の物語で考える子ども虐待と児童相談所(青山さくら著、川松 亮著、フェミックス刊)
ジソウ(児童相談所)で働く人たちがどのような思いで日常の仕事をしているのか、またその葛藤を知ることができる一冊。児童福祉司の著者の体験から綴られた50の物語と、子ども虐待と児童相談所の解説で構成されています。
●ひとなる ─ちがう・かかわる・かわる(大田 堯著、山本昌知著、藤原書店刊)
尊敬する保育学の大田堯先生の著書。「やらせる・させるは、やらせだ」という考え方や、子どもを大事にする哲学について書かれています。子どもに「やらせる・させる」のではなく、共に育つ「共育」という感覚を教えてもらいました。
●はぐくむ生活(津守房江著、婦人之友社刊)
日々のささいなことを含め、自らの、そして大勢の子育て中のお母さんの姿とその記録に、ていねいに向き合った1冊。津守房江さんの優しくしなやかな目線は、私自身の保育観に大きな影響を与えてくれました。
●集団っていいな─一人ひとりのみんなが育ち合う社会を創る(今井和子編、島本一男編、ミネルヴァ書房刊)
子どもの主体性、人間関係、社会性などをキーワードに、集団の質や子どもたちが育ち合う集団について考えた一冊。人とつながり、集団になって人と感動を共にしながら生きていくよさが描かれています。こういう日本の保育本も好きです。
●大人だってわかってもらえて安心したい─発達する保育園 大人編(平松知子著、ひとなる書房刊)
子ども、親、保育者のみんなが幸せになる園づくりを目指し、新人だらけの職員集団と新米園長が、泣いたり笑ったりしながら歩んだ記録の本。合言葉は、「人とのつながりを決してあきらめない」。園長としてとても励まされた一冊です。