場所や空間だけではなく、可能性が引き出される人と人との関係性を「場」と定義し、兵庫県尼崎市を拠点に自身でも場づくりを実践する藤本遼さん。「居心地のよい場」とはなんなのか、そしてどのようにつくられるのか。そのヒントが得られる5冊を選んでもらった。
藤本 遼さんが選んだ、地域を編集する本5冊
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場づくりの仕事をしていると、商業施設や不動産会社の方から相談を受けることがあります。新しい施設に地域の人が関わりやすくするにはどうすればよいか、など。ほかにも最近、『ここにある』が主催する講座にお医者さんが来てくれました。話を聞くと、薬を処方しても患者さんの病院の外での過ごし方が充実しなければ、心身の健康は改善しにくいそうです。患者さんが生きがいを感じるような、「居心地のよい場」が地域に必要だということでした。
「物質的な場」はあっても、「人の拠りどころになるような場」はどうして少ないのか。『あそびの生まれる場所』には、その理由が社会的背景から書かれています。サブタイトルにある「お客様」がキーワードです。僕が場づくりで大事にしているのは、つくり手を増やすこと。受動的な「お客様」から脱却し、自らが少しでも能動的に働きかければ、まちや自分の暮らしが変わるんだと体感する人が増えたらいいなと思っています。サービスを提供する側、受ける側と、立場を固定すると、関係性は深まらないし、自分たちで働きかけていく力も失われてしまう。そのことに気づかされた一冊です。
加藤哲夫さんの『市民のネットワーキング』は、僕が一番好きな本で、特に「他者と出会うことなしに、主体である自分は起動しない。社会を生き抜くための主体は、他者によって呼び覚まされる」という言葉に、心をつかまれました。僕が考える「場」というのは、単に人が集まっている「場所」を指すのではなく、お互いに影響を受け合い、力を生かし合うことで、それぞれの可能性が広がっているという「状態」のこと。コントロールできない気まぐれなものだからこそ、想像しなかった景色が見えることもあるのだと思います。
1ページ目から引き込まれたのが、『「助けて」と言える国へ』です。著者のひとりである奥田知志さんは、2011年以降によく使われるようになった“絆”という言葉を受けて、「絆は傷を含んでいる」と言います。彼は社会から孤立している人への支援活動を30年以上続けるなか、何度も裏切られて傷を負うのですが、それでも関係を切らないんですよね。「地域から迷惑を引いたら何が残るんですか」という名言も。場づくりにおいても、最初は批評的だったけどだんだん関係性が変わり、自分ごとになっていく人もいるので、人との線を切らずにゆるく保ち続けるのは大切です。いつか奥田さんの境地までいきたいですね。