生産コストを徹底的に絞り、たくさんつくることで価格を下げ、気軽にモノを買いましょうと働きかける。大量生産・大量消費はそのように成り立っている。
もちろん洋服も例外ではない。バブル経済が崩壊し、経済が停滞した1990年代半ば以降、売り上げを伸ばしたファストファッションブランドは、世界の至るところでアパレル業界の王座に君臨している。値段のわりにリーズナブルな、いわゆるコストパフォーマンスの高い服の恩恵を、わたしたちは大なり小なり受けている。
だけどその服は、誰が、どこで、そしてどんな労働環境の下でつくっているのか。マイケル・ウィンターボトム監督の『グリード ファストファッション帝国の真実』は、人気ブランド「TOP SHOP」を擁しながら、2020年に経営破綻したイギリスの“ファストファッション王”フィリップ・グリーンをモデルに、搾取と虚栄に満ちた業界の裏側を描いてゆく。
舞台はギリシャのミコノス島。アパレル業界に一大帝国を築いたものの、怪しい金融取引、脱税、労働搾取などの疑惑でイギリス当局の追及を受けているリチャード・マクリディは、起死回生の場として、日本でいう還暦を祝う自身の一大パーティを計画する。
大物セレブを招いた一大イベント開催まで、あと数日。だが、古代ローマ帝国をモチーフにした円形闘技場の建設作業は思うように進まず、ショーのために連れて来たライオンはまるで覇気を見せない。彼らやゲストが滞在するホテルの眼下のビーチで、シリア難民がキャンプをしているのを目にしたリチャードは、自分の私有地でもないのに「景観が台なしだ、追い払え」と、その暴君ぶりを見せつける。
リチャードはいかにして成り上がったのか。映画はカウントダウンで進められるパーティの準備の合間に、彼の伝記執筆のために雇われたライターのニックが、関係者への取材を通じて知った「不都合な真実」を織り込んでゆく。
在庫を容赦なく買い叩く。安い人件費に目をつけ、生産拠点を途上国に移す。競合相手が増えれば工場に働きかけ、縫製者への不当な日当をさらに値切る。新店舗をデザインするプランナーに対する罵詈雑言。センスのかけらもないチョイス。マジックとしか思えない企業売買で得た巨額の富と不良債権の処理の仕方……。
招待した大物セレブにドタキャンされると、その穴埋めに秘書がそっくりさんを手配し、パーティには全員が古代ギリシャスタイルの衣装で参加する。クールだと思っていたファッション業界は、ミニマリストの目には、どこか悪趣味に映る。舞台裏を見てなお、この状況をスルーするか否かは、それぞれが考えるべきだろう。
整い過ぎて、逆に不自然な真っ白い歯と、陽に焼けた肌。スティーヴ・クーガンが、高圧的ながら憎み切れないキャラクターを万全の装いで演じている。
『グリード ファストファッション帝国の真実』
6月18日(金)より、TOHOシネマズシャンテにてロードショー、全国順次公開。
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