創業以来100年にわたって電力量計の製造・販売を行う『大崎電気工業』。 代表取締役社長の渡辺光康さんと、『ソトコト』編集長の指出一正が、これからのエネルギーの賢い使い方やスマートメーターの可能性、SDGs(持続可能な開発目標)達成に必要なものについて語り合いました。
「電気メーター」をつくる会社が、新たな可能性を模索中。
指出一正(以下、指出) 大崎電気工業は電力量計、いわゆる「電気メーター」を古くから製造・販売されている会社で、僕たちの生活を陰で支えてくれています。若い読者のためにも、もう少し御社の業務内容を教えていただけますか?
渡辺光康(以下、渡辺) おっしゃるとおり、弊社は電力量計という一般家庭の住宅、あるいはビルや工場などに設置して電気の使用量を測るメーターを製造・販売している会社です。以前は、機械の中で金属製の円盤がぐるぐると回るアナログ式のメーターで、検針員が巡回して使用量や料金などのデータを確認していました。その後、ここ数年間で電力量計はデジタル式のスマートメーターに置き換わり、データは自動検針され、直接電力会社へ送られるようになったため、検針員が巡回する姿は見られなくなってきています。ブレーカーの機能もスマートメーターの中に搭載されているので、「40A」などと記されたアンペアブレーカーも不要です。また、スマートメーターは電気だけでなく、水道やガスの使用量も自動で一元管理することができます。
指出 電力量計がスマートメーターに変わったことで、さまざまなメリットが生まれているのですね。使用電力を自動的に抑制、制御できるエネルギーマネジメントシステムも進歩してきています。
渡辺 ビルや大型店舗の電力使用の無駄を省くなど、エネルギーマネジメントシステムによってエネルギーを「見える化」しながら、スマートメーターのさらなる可能性を追求しています。創業以来100年以上、エネルギーを測ることに専念してきた真面目で無骨な会社が、どうすればメーターというハードなものを、暮らしというソフトなものと結びつけ、地球環境にも優しい心持ちで向き合うことができるようになれるのか。それを今懸命に、そして楽しく模索している最中です。
省エネとは違う、優雅で地球環境にもやさしい電気の使い方を。
指出 2011年の東日本大震災以降、僕の家では使える電力量を抑えるアンペアダウンを実践しています。ただ、1階で妻が電子レンジを使い、2階で僕がエアコンをつけるとブレーカーがガタンと落ちたりしたこともありました。省エネの方法の一つとしてアンペアダウンも有効かと思うのですが、一般家庭ではどんな省エネを実践できるのでしょうか?
渡辺 各ご家庭で環境に対する意識が高まっているのは、非常にうれしいことです。一方、ご家庭で出来る省エネに限度もあるかと思います。例えば小まめに電気のオン・オフを行っても、省エネの効果が見えづらく、持続的な省エネ活動につながりにくいかもしれません。また、アンペアダウンも一般のご家庭で出来る対策ではありますが、家電を同時に使ったらブレーカーが落ちてしまうなど、省エネ活動がストレスの原因になってしまっては元も子もないですよね。
そこで、AIによる電力消費の自動制御など、最先端のテクノロジーを駆使することで、ご家族が電気をつけたり消したり忙しく立ち回ることなく、自然体でもエコな生活ができる。そのような、もっと優雅な電気の使い方を、地球環境にもやさしい形でできないものかと思案しています。
指出 どんな使い方があるでしょうか?
渡辺 ピーク時の電力使用量を賄うために、多くの発電所は夜間も稼働し続けています。一度切ると再起動させるのが大変ですから。ただ、夜間に発電した電気は余ってしまうので、無駄にならないようにできるだけ使いたいところ。例えば、オフピーク時に洗濯乾燥機を回したり、冷暖房をしたり、蓄電池がある家庭は、電気を貯めておいてピーク時に使ったり。そんなふうに電気を有効活用することで、ピーク時の発電量を減らすとともに、環境負荷を抑えることもできます。
指出 エネルギーの使い方に工夫が見られる地域はありますか?
渡辺 北海道のような北国では、冬の間、雪を溶かすための夜間電力を安価で提供しているように、電力自由化の時代は、風土やニーズに合わせたその地域ならではの電気の使い方が提案され、実施されていくと思います。
指出 電気の使い方の工夫に加え、今後はどのような電力を使うのかも重要になってきます。太陽光や風力発電などさまざまなエネルギーをうまくミックスし、環境に考慮したエネルギー社会の実現が急がれますが、大崎電気ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。
渡辺 電力会社や自治体がVPP(バーチャルパワープラント)の実証実験を行うなど、エネルギーミックスへの取り組みは着実に進んでいるものの、自然エネルギーの安定供給を実現するには多くの課題があります。やはり、誰がいつ、どれだけ電力を消費するのかを見える化し予測すること、さらには無駄な電力消費をなくすこと、これらを細かい単位で管理することが必要になってきます。すなわち大崎電気が得意とする“計測”と“制御”が大いに役立つ時代がやってくると思います。
カーシェアリングのEVを、災害時のバックアップ電源に。
指出 電気の使い方という点では、スマートメーターの可能性はもっと広がりそうに思います。
渡辺 そうですね。例えば、東京都内でマイカーを手放した高齢のご夫婦がいたとします。ご自宅の空いた駐車スペースをカーシェアリング企業にEV用駐車場として貸し、カーシェアリング企業が充電設備を用意します。通常であればオーナーにはカーシェアリング企業から駐車場代が支払われるのですが、代わりにオーナーは、災害時のバックアップ電源としてEVを使える形でカーシェアリング企業と契約を結びます。大地震など災害が発生して停電したとき、オーナーが優先的にバッテリーを使えるという契約です。蓄電池は高価なので家庭で備えるのは難しいですが、EVのバッテリーなら代用できます。また、運転ができる家族が遊びに来たときに、EVが空いていれば使用できるといいですよね。オーナーとしては災害時の非常電源を備えられ、かつEVも利用できるのでウィンウィンに。このように、カーシェアリング企業と弊社が連携し、駐車場にはスマートメーターが設置されるという、社会ニーズに合った新しい発想が必要だと思います。
指出 高齢者が免許を返上し、駐車スペースはあっても車は運転しないというのはリアルな社会状況です。それを前向きに捉える渡辺社長のお考えは、まさにローカル・イノベーションですね。ビジネスコンテストに応募すれば、大賞を獲得しそうな素晴らしいアイデアだと思いました。共有することで楽しみが生まれるシェアリング・エコノミーであると同時に、シェアリング・エネルギーを具現化するアイデアです。エネルギーマネジメントだけでなく、今あるもののスマート化によって暮らしそのものを豊かにするという可能性は考えられそうですか?
渡辺 当社は、既存の鍵に後から設置できるスマートロック「オペロ」という、次世代のキーシステムを販売しています。今はまだ鍵の施錠・解錠の機能のみですが、今後はIoTや、あるいはAIの要素を付加することで、スマートロックを介して家のなかでの暮らしをもっと豊かにするサービス提供が可能となるでしょう。地球環境にやさしい暮らしを実現するための提案も「オペロ」が行い、SDGs(持続可能な開発目標)を暮らしに根付かせることもできるようになるかもしれません。地球環境を守るために、最初から満点を取ろうとするのではなく、一つでもいいから自分の得意分野を実践することが重要です。それが、SDGsに参画するときに必要な姿勢だと思います。
SDGs目標達成に必要なのは、未来をつくる豊かでユニークな発想。
指出 日本は「地域循環共生圏」という考え方を掲げ、地域でのSDGsの実践(ローカルSDGs)を目指しています。若い人たちも関心を示し、未来は誰かがつくるものではなく、自分たちでもつくれるんだと行動を始めています。それはSDGsの効果だと思います。渡辺社長は30年後、どんな未来になっていてほしいとお考えですか?
渡辺 30年後も、環境に優しい国、エネルギーで豊かな暮らしを実現している国として評価されていると良いですね。
エネルギーに関する課題は山積ですが、30年後の2050年までにどれくらい解決できているのか? 環境問題やSDGsについて、欧米と肩を並べて対話ができ、日本ならではのアイデアや解決策を示せる国になっているかどうか? なっているためには、豊かな発想力を持つことが必要だと思います。
2020年でしたか、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」を330個のルービック・キューブで表現した作品が、なんと約5780万円で落札されたそうです。ルービック・キューブを並べてあんな絵を描こうだなんて、作品そのものよりもその発想がすごい。人と違う発想で、人と違う仕事ができ、自信を持って人に示せるのは素晴らしいことです。弊社もそんな人材を育て、社会に貢献できる新しい事業を起こしていきたいです。業態さえ思い切りシフトさせて、「大崎は変わった」「フィロソフィさえ変わった」と評価されるような会社になりたいですね。SDGsの目標達成にも、ルービック・キューブのようなユニークな発想が求められるでしょう。
指出 未来をつくろうとする若い人たちの豊かな発想や、突拍子もないアイデアを受け入れる包容力のある社会であってほしいと願っています。今日はありがとうございました。
渡辺 こちらこそ、楽しかったです。ありがとうございました。