一緒にごはんを食べ、話を聞き、考える。
今回紹介するリトルプレスは、食をとおして人・社会・文化を考えるリトルプレス『大人ごはん Vol.3』。
前号で紹介をしたリトルプレス『歩きながら、考える』に続くようなタイトル、「食べながら、考える」としてもいいような記事が掲載されている。
ごはんを含め、料理の本といえば、おいしそうな写真と作り方の本を想像することが多い。『451ブックス』にも、見ているだけでも楽しく、おいしい料理の本が並んでいる。
また、テキストが中心の食のエッセイを集めた料理の本などもあるが、テーマや著者の個性が、おいしい料理を思い起こさせるものが多い。
『大人ごはん』では、編集長の室谷明津子さんが、さまざまな場所に出向き、人に会い、一緒にごはんを食べて、話を聞き、そこから食にまつわることが広がり、さまざまなことを知ることができる。そして、考えさせてくれる。
特集の最初は「『一人の時間』を考える」。
写真家で文筆家の植本一子さんと東京・新宿の『ベルク』を訪れ、ワインやレバーハーブパテ、ヴァイスブルスト(ソーセージ)を食べながら、「一人」でいること、「家族」といることの違いについて聞く。
『女ひとりの夜つまみ』という本を書かれたツレヅレハナコさんのご自宅にも伺い、一人飲みのコツ、一人飲みの店選びのコツ、おすすめのおつまみレシピのコツなどを聞きながら、一人で飲むことについて考える。
2番目の特集は「小豆島で農村歌舞伎を観てきました」。
実際に室谷さんが小豆島を訪れ、約300年前、江戸時代中期から受け継がれている島人の農村歌舞伎を観る。
観劇中の弁当としても作られる「わりごう弁当」(オカモチ風の入れ物に、長方形の真ん中を斜めに割った形の木箱の弁当が多く入っている)を島の保存会の女性たちが作る現場を取材したり(食べたり)、歌舞伎に関わる島人たちに話を聞き、弁当から、地域に受け継がれる芸能などへ話が広がっていく。
特集以外の記事も、アフロ・ブラジル料理や、トウモロコシにまつわる料理の歴史や文化、日本に住む外国人(チェコ共和国)、ヘベレケな話など、写真と共にテキストが盛りだくさんな112ページ。『大人ごはん』を通じて、暮らしや、食や地域の歴史、世界が見えてくる。
こうやって「食べること」に向き合えば、「考えること」へとつながる。日々の暮らしの中でも「知ること」と「考える」ことを大切にしていきたい。
『大人ごはん Vol.3』編集長から一言
食を通して、いろいろな人の「日常」を覗き見したい。そんな好奇心から始まった雑誌が超・スローペースながらも続いているのは、取材に訪れた先々に物語があるからだと思います。写真は、まだ背表紙がなかった創刊号と2号。これからも自分たちが楽しめるものを作り続けたいです。
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今月のおすすめリトルプレス
『大人ごはん Vol.3』
食を通して人・社会・文化を考えるリトルプレス。
編集長:室谷明津子
編集スタッフ:マスダユキ
デザイン:佐藤正明、写真:長野陽一
発行:Incline
2019年6月発行、210×148ミリ(112ページ)、1100円