煙の先で生まれる物語。
今回紹介するリトルプレスは『SEVEN CIGARETTE STORY』。
縦9.5センチ×横7センチ×厚さ1.5センチの筒状の箱の上部が銀紙で封をされ、煙草のケースを模している。
ケースには、1枚の紙を折りたたんで中が6ページになった小さな本7冊が収められ、それぞれに煙草をテーマにしたショートストーリーが、イラストと短い文章で語られる。
その一つ。
夜、一人の男性が暗闇で火を灯す。煙草を咥えた辺りが照らされる。手で支えた煙草から白い煙が流れる。
夜の道、煙草を咥えたまま歩き、そこだけ照らされた街灯の下、心のなかで呟く。
「さて、今日も」
男性の体に街のビルディングの影と灯りが映る。
「この灯りだけで、夜を越えようか…」
もう一つ。
夜の街、電線や工事現場を背景に、煙草を咥えながら歩く男性。
「真夜中に飛び立つ飛行機は、どこへ向かっているんだろう?」
滑走路の信号灯を下にして、飛び立っていく飛行機を背景に男性のシルエット。
「僕の逃避行が、僕の知らないところで始まっている」
街灯の向こうに見える飛行機のシルエットを背景に煙草を吸う男性。上下が逆になった構図。
「そんな気がして、また、今日も眠れずにいる」
7つのストーリーは、作者の五月病さんが、夜、一人で散歩をしながら拾い集めた言葉を元につくられた。
煙草を吸いたくなるような漫画を目指して、選ばれた言葉と、モノクロの世界が広がっている。
夜の街と人との間に、煙草でしかつくれない時間をひととき生み出し、豊かな表情を垣間見せる。
そこには、文化といえるものが確かに存在して、モノクロの画面が明るく照らされ、煙草が、人生に彩りを与えてくれることがわかる。
このリトルプレスを紹介する僕は、煙草を吸わない。煙草の煙を不快にしか感じず、健康を損ねてまで吸う理由も理解できない。社会すべてが禁煙になればいいとさえ思う。
文化はそういうものかもしれない。無駄だったり、人を不快にするもの、もしかすると、害や毒、脅威を感じさせるものかもしれない。
正しさだけでは、煙草は排除するしかない。信条や宗教や伝統も、正しさだけを追求すれば、存在し続けることはきっとできないだろう。
異なる価値観を認めるとはどういうことなのか。『SEVEN CIGARETTE STORY』をきっかけに考えてみるのも悪くない。
『SEVEN CIGARETTE STORY』著者から一言
「夜と煙草」をテーマにした小さなお話を7本集めました。季節の中や夜の中に無数にある言葉を拾い集めて漫画を描いています。煙草は私にとって一人の時間をより豊かにしてくれるアイテムです。さまざまに形を変えていく煙と思考に、曖昧に名前をつけるようなことをずっと続けています。
今月のおすすめリトルプレス
『SEVEN CIGARETTE STORY』
夜、一人で散歩して集めた、煙草を吸いたくなる漫画集。
著・編集・デザイン:五月病
発行:五月病
2014年5月発行、95×70ミリ(42ページ)、500円