「Web3.0(ブロックチェーン)」は、インターネット上で価値のやり取りを可能にする技術です。これまでさまざまな制約から人・モノ・カネを活用できなかった場所で事業を興す武器になると考えられています。今回、この記事では「地方創生×NFT」の現状と課題と可能性について考察します。NFT市場が生まれてから数年が経ち、幾つかのユースケースが生まれてきたなかで、少しずつ見えてきたことを振り返りつつ、その未来を考察します。
NFT活用事例10選
「山古志DAO」のように、住んではいないがその地域を応援したい世界中の人に向けてデジタル住民票をNFTで発行します。ex)山古志DAO、地元パスポート
2.観光
観光地の来場証明NFTの配布や、実際にその地域を訪れた人に対して限定NFTを配布するなど、関係構築や集客に繋げます。また、旅行券をNFTとして販売する事例もあります。ex)スマホ de おみやげ
3.PR
より認知を高めたいことをNFTを使ってマーケティングします。たとえば、山梨県がNFTプロジェクトの「NeoTokyoPunkus」とコラボしてPR施策を実施し、非常に話題になりました。ex)山梨県 × NTP
4.ふるさと納税
ふるさと納税制度の返礼品としてNFTを送ります。有名なイラストレーターに描いてもらった「アートNFT」や有名プロジェクトとの「コラボNFT」などを設定することで、「NFTが欲しいから寄付してみようかな?」という興味関心を呼び込みます。ex)あるやうむ 北海道余市町
5.食
「夕張メロンNFT」のように、地域の特産品(実際の食品)の引換券になるNFTを販売します。ex)夕張メロンNFT
6.農業
地方の農業における課題解決のためにNFTを活用します。たとえば、「MetagriDAO」と呼ばれる農家とパートナーが相互に支援する仕組みの実現を目指すDAOが存在しています。
7.ゲーム
その地域を関連した「GameFi」※1も存在します。たとえば、岩手県遠野市を舞台とした「Game of the Lotus 遠野幻蓮譚」は実際の遠野を探索しながらゲームを楽しむことができる「GameFi」です。
※1 「ゲーミファイ」。ゲームとファイナンスをつなげた言葉。ゲーム以外の場面でも価値がある仮想通貨やNFTが獲得でき、現実世界のお金を稼ぐことができるゲームのこと。
8.伝統工芸品
地方にある伝統工芸品の文化を守り世界に広げることを目的として、NFTを活用する事例もあります。たとえば、「未来着物NFTプロジェクト」は着物を題材としたNFTを発行し、そのホルダーと一緒に着物の保全やメタバース上での着物開発などを行なっています。
9.ゆるキャラ
地方のゆるキャラをNFTとして販売する取り組みです。「ゆるキャラグランプリ公式トレーディングカード」をNFTとして発行する実証実験がスタートしています。ex)ゆるキャラグランプリ オリジナルトレカ
10.通貨
その地域でしか利用できない地域通貨をNFTとして発行する取り組みです。たとえば、有馬温泉(神戸市)や飯坂温泉(福島市)で「ルーラNFT」と呼ばれるその地域のカフェなどで利用できるNFTが発行されています。ex)ルーラNFT
NFTプロジェクト、4つの成功要因
1.運営チームのNFTリテラシーが高い
間違いなく必要な要素がこちら。プロジェクトに関わる自治体職員のリテラシーが高いことはもちろんですが、その上で「web3企業」※2と提携し、一緒にNFTを設計していくことがおすすめです。「ミントサイト」※3の設計や開発、コミュニティの運営方法や人脈など、NFT界隈の雰囲気を実際に体感した人でないと理解が難しい部分も存在します。そして、だからと言って丸投げするのはNGで、そもそも自治体担当者のリテラシーが高くなければ、どの企業に依頼すればいいかもわからないでしょう。
※2 Web3に取り組む企業のこと。『DMM.com』や『gumi』など。
※3アーティストやブランドをはじめとする「コンテンツホルダー」が、独自のNFTショップを手軽に開設するための企業向けサービス。
2.地域全体を巻き込んでいる
「1.」 に少し似ていますが、たとえば観光地のNFTや地域通貨など、自治体職員だけが意識が高いのでは意味がありません。地域住民にもNFTを説明し、しっかり巻き込む必要があります。「NFT施策がおもしろい!」と感じて観光地に赴いたのに、観光地のスタッフがまったくNFTのことを知らずに受け取れない状況になったら、2度と来てもらえなくなります。
3.利便性がある
新しい取り組みというだけで利用してくれる人も一定数いますが、NFTを活用することで利便性が向上している必要があります。「夕張メロンNFT」は引換券をNFTにして発行することで、交換する前に要らなくなった場合や受け取りが難しくなった場合でも転売できるようになっています。大切なのは「NFTを活用すること」ではなく、「NFTを活用してよりよいサービスを提供すること」です。
4.世界に目を向けている
NFTは世界が市場です。日本人だけでなく海外で暮らす人も視野に入れたNFTを実施すべきです。いろいろな事情や相性でまず日本人相手に始めることは構いませんが、最初から日本人だけに向けてやるようでは視野が狭くなってしまいます。
どれも基本的なことですが、地方創生のNFTをきちんと運営していくには最低限必要な要素です。
「地方創生×NFT」の課題と今後の展望
「地方創生×NFT」の課題
1. 関係者のリテラシー問題
成功事例の分析の際にも挙げましたが、プロジェクトを担う自治体職員を含め、運営チーム全員の「NFTリテラシー」の向上が必須です。これは担当者だけが勉強すればいいものではなく、組織として決裁していくためには、全員が一丸となって学ぶ必要があります。自治体の取り組みに協力してくれる住民や実店舗への説明も必要でしょう。NFTが世界的に盛り上がってきているといえ、まだまだ知らない人が多い領域で、新しいことを勉強するハードルが高いのも事実です。地方でNFTを活用するにはまずはここをクリアする必要があります。
2. ユースケースの少なさ問題
これは課題でもあり、仕方ない部分でもありますが、世界的に見ても成功事例が多くありません。「NFTをどう活用すればよいか」については、手探りしながら進める必要があります。ユースケースの少なさが原因で、プロジェクト化に向けたオフィシャルな動きができないといったジレンマがあります。
3. 技術的に未成熟問題
これはブロックチェーン側の問題です。高いガス代※3やウォレットの問題など、ブロックチェーンという技術自体が成長途中なので、最適なUXを実現するサービスが提供できないという課題があります。本気で自治体住民に導入しようとしても、スケーラビリティ(機器やソフトウェア、システムの拡張性)の問題やガス代の高騰で、むしろ逆効果になってしまうこともあり得ます。どのチェーンを選択するかも大切ですが、全体的に発展途上なのは違いないので、ブロックチェーン技術の進歩も待つ必要があります。
※3 ブロックチェーン上で取引する際に発生するネットワーク手数料のこと
「地方創生×NFT」の展望
筆者は地方出身者で、現在そこには住んでいません。同時に「故郷のために何かできることはないか?」といつも考えています。もし自分の故郷がNFTを活用したデジタル住民票などを販売することがあれば、間違いなく購入するでしょう。そして、筆者と同じように考える人は非常に多いと思っています。上京後も故郷のニュースが報じられればチェックし、故郷がテレビに映れば喜びますし、今までは現地に行く以外の支援方法が多くありませんでした。NFTを活用すればそうした人たちに対してアプローチができ、住む場所が違っても具体的な支援が容易になります。故郷ではないけど、その地域に関心を寄せる国内外の人を呼び込むことも可能です。
これからブロックチェーン自体の技術的な発展が進んで国民のリテラシーが向上すれば、多くの自治体で成功事例が生まれてNFTの活用は加速するでしょう。
mitsui
web3リサーチャー、株式会社demmpa代表取締役、CCx3ファウンダー。2015年に個人事業主として開業。教育、シェアハウスやコワーキングスペース運営などの不動産、コミュニティ運営などの事業を経て、2020年に株式会社demmpaを創業。その後、複数のwebサービスの開発・運営。現在はweb3リサーチャーとして複数法人からリサーチ案件を受けつつ、web3関連の新規事業立案、マーケティング、開発支援も行なっている。カーボンクレジットをブロックチェーン上で売買するReFiプロジェクト「CCx3」を立ち上げる。