ブロックチェーンを活用して環境問題や社会問題を解決しようとする取り組み「ReFi(Regenerative Finance)」。最近、非常に注目を集めている概念であり、とくに「地方創生」と「ReFi」の相性の良さには要注目です。
この連載企画は、国と地域を問わずローカルでの活動にWeb3.0の技術や思想を活用している事例を紹介するメディア『ローカルWeb3』からのコンテンツ提供でお届けしています。当記事は『ローカルWeb3.0』にて、2023年9月4日に公開されたものを再編したものです。
ReFiとは?
まずは「ReFi」について解説します。
ReFiとは「Regenerative Finance」の略で、日本語訳すると「再生金融」という言葉になります。これはブロックチェーンを活用して環境問題や社会問題を解決しようとする取り組みを指します。
ReFiの語源は、2015年に経済学者のジョン・フラートン氏が提唱した「Regenerative Capitalism(再生資本主義)」という用語から来ています。再生資本主義は「搾取して破壊するのではなく、回復して構築するビジネス慣行」を意味します。
これは理想的な考えですが、現行の資本主義では企業に利益を最大化させるインセンティブが働くため、利益の最大化と環境破壊は必ずしも一致しない目標であることも指摘されています。
しかし、現代において環境破壊は無視できない領域に達した問題であり、SDGsの高まりや『京都議定書』、『パリ協定』によるCO2排出量の制限など、企業が無視できない存在となってきています。
再生資本主義は、利益と地球とのゼロサムゲームではなく、両方が共存できるモデルを模索することを提唱しています。
フラートン氏は、環境課題や社会課題に対して、「経済」が問題視されることにも着目しました。要するに、環境問題や社会課題の解決が進まないのは経済的な問題があるからであり、その問題さえ解決できればこれらの課題解決は進むのではないかという考えです。
この考えや世界的なルールメイキング、国民意識の変化によって、少しずつ環境に配慮した取り組みをする企業や商品が好まれる時代となってきていますが、決定的に事業を転換するまでには至っていないことがほとんどです。
その中で、注目されているのがブロックチェーン技術であり、「ReFi」です。
ブロックチェーンを活用することで「経済」問題を解決し、新しいインセンティブを生み出すことが可能となりました。これによって、利益の追求と環境を守る行動が一致する仕組みを作り出すことができます。
まさしく再生資本主義の考えであり、そのような取り組みを指して再生金融(ReFi)と言います。
カーボンクレジットのNFT売買
続いて、ReFiをより具体的に理解していくため、そして地方創生との関連を理解していくために、ReFi領域で実際に行われている取り組みを見ていきます。
ReFiで最も盛り上がりを見せている領域は、カーボンクレジットの売買です。
カーボンクレジットとは?
カーボンクレジットを簡単に説明すると、二酸化炭素の削減証明書のようなものです。地球温暖化が無視できない程の環境問題を引き起こすようになってきたので、国際社会では「京都議定書」や「パリ協定」という取り組めを定め、その主たる原因と言われる二酸化炭素排出量を削減することを決めました。
各国に目標が存在しますが、その目標に達成できない場合は、目標以上を達成している国からカーボン・クレジットとして買い取ることで目標達成を目指します。
例えば、CO2削減目標が100トンなのに50トンしか達成できていないA国が、目標50トンに対して100トンの削減に成功しているB国から目標達成より上の余剰分(目標50-削減100)の50トン分を買い取ることができます。
これによってマクロで見れば目標達成ができると同時に、削減に成功している国はカーボンクレジットの売買によって新しい収益源とすることができます。
カーボンクレジットは、国家間だけでなく、企業間でも売買が可能です。多く排出している企業がお金を出して削減に成功している企業からカーボンクレジットを購入することで、目標達成を目指します。
このカーボンクレジットをNFTとして売買できるプラットフォームが多く生まれています。NFTで売買することで取引の透明性の担保や流動性を提供でき、グローバルで売買されるようにもなります。
例えば、Noriは炭素削減に積極的な個人や企業がNFTとして出品でき、カーボンクレジットを購入したいと考えている企業とマッチングさせるプラットフォームを運営しています。
この他にも同様の機能を持つプラットフォームが非常に多く生まれています。
地方創生との関係は?
カーボンクレジットの売買と地方創生はどのように関係があるのでしょうか。
このプラットフォームによって、地方にある農家がカーボンクレジットの売買ができるようになります。つまり、農家が新しい収益源を確保することが可能になります。
例えば、北海道で広大な農地をもつ農家が副業としてカーボンクレジットの売買を始めることで、本業の農作物+αの収入を得ることが可能となります。売買には細かい条件や多少の手続きが必要になるかと思いますが、今までの作業の延長線上で新しい収益源が生まれるとなれば、地方の農家にとって非常に喜ばしいことです。
また、これは農家だけでなく、例えばホテルやペンション、エンタメ施設など、広大な土地を保有する施設全てに言えることです。
もちろんこれが適用されるのは地方だけではありませんが、土地の広大さと自然の豊かさを考えた際に、都市部よりも地方の方が向いていることは明らかです。つまり、地方でしかできず、今までの事業の延長線上で行える、新しい事業を行うことが可能になるということです。
そして結果的にそれが環境問題を抑制することにつながります。これこそが利益と環境問題を同時に解決する再生資本主義、そして「ReFi」の思想につながります。
地方創生×ReFiの可能性は?
ここまで「ReFi」の概要と具体的な事例を通して地方創生とReFiの関係性について見てきましたが、簡単にまとめるとこのようになります。
・ReFiとはブロックチェーンを活用して環境問題や社会問題を解決しようとする取り組み
・例えばカーボンクレジットをNFTで売買することで新しい収益の機会を生む
・これは地方の農家が新しい収益源を生むチャンスとなる
他にもReFiのプロジェクトでは、植林の寄付マッチング、アフリカや東南アジア等の新興国の人に対する小口融資や銀行へのアクセスなど、多数のプロジェクトが存在します。
現状特に盛り上がりを見せているのは「カーボンクレジット売買」と「小口融資等の銀行業」です。前者は上で解説した通りで、後者は新興国で銀行口座を持つこともできず、少額の融資を借りることもできない人たちにブロックチェーンを活用したウォレットアプリと独自の与信の仕組みによる小口融資のプラットフォームを提供しています。
尚、金融へのアクセスは「DeFi(※)プロジェクト」と見做されることもありますが、貧困問題の解決や小規模事業者の支援につながっているので、ReFiの事例として紹介させていただきました。
※分散型金融と呼ばれる管理者がいない新しい金融システムのこと。金融サービスの仲介をする企業が存在せず、自動で動くプログラムだけがある仕組み。
ReFiはまだまだ単語として馴染みのない人も多いですが、これから大きな存在感を見せる概念として非常に注目を集めています。国際世論の高まりに伴い、これから環境問題に適応する企業が生き残っていくという流れと共に市場を拡大していくと予測されます。
そして、ReFiは地方創生と非常に相性が良い概念です。
カーボンクレジットの販売は地方の農家にとって取り組みやすい領域ですし、農家への小口融資なども地方に住む事業者にとって事業成長のきっかけとなり得ます。
課題として挙げられるのはやはり「リテラシー問題」です。都心部でもまだブロックチェーンに対しての理解が追いついていない中で、地方に住む農家の方がReFiのプラットフォームでカーボンクレジットをNFTで売買している未来はあまり見えません、、。
加えて、日本の農家は高齢化が進んでおり、ReFiの普及に向けてはさらに大きな壁が存在しています。
筆者自身の考えとしては、既存の農家が自主的にReFiを活用していくのではなく、地方の農家に営業をかける、もしくは買収などして提携農場にすることで、ReFiに進出していくことが現実的だと考えています。
地方の農家をEC化している『食べチョク』のように、どこかの事業者が積極的に巻き込んでいき、事業者も農家もどちらにもプラスの影響があるようにする必要があります。
総じてReFiはこの先、必ず伸びていく領域であり、地方創生とも相性が非常に良い領域ですが、その普及には大きな壁が存在します。よって、そこをビジネスチャンスと捉えた新しい事業者によって普及していくことが予想されます。
<著者プロフィール>
mitsui
web3リサーチャー、株式会社demmpa代表取締役、CCx3ファウンダー。2015年に個人事業主として開業。教育、シェアハウスやコワーキングスペース運営などの不動産、コミュニティ運営などの事業を経て、2020年に株式会社demmpaを創業。その後、複数のwebサービスの開発・運営。現在はweb3リサーチャーとして複数法人からリサーチ案件を受けつつ、web3関連の新規事業立案、マーケティング、開発支援も行なっている。カーボンクレジットをブロックチェーン上で売買するReFiプロジェクト「CCx3」を立ち上げる。