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ウェルビーイング

特集 | 続・ウェルビーイング入門

「また来てね」と言える病院、 『ふくやま病院』。

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病院は何となく怖くて、なるべくなら行きたくない場所だ。でも、『ふくやま病院』は違う。散歩がてらにでも立ち寄りたくなる。なぜ、行きたくなるのか? その理由を理事長に尋ねてみた。

目次

地域の人たちが 気軽に足を運べる病院。

兵庫県明石市にある『ふくやま病院』は、内科、外科、整形外科などを備えた中規模の病院だ。地域とのつながりを大事にしていて、目指すミッションもユニーク。それは、「『また来てね』と言える病院」。病院なのに、「また来てね」とは、これいかに? そのココロを、理事長の譜久山剛さんはこう話す。「2016年、建物の老朽化が原因で同じ市内からここへ移転する際に、『studio-L』代表でコミュニティデザイナーの山崎亮さんに、新しい病院づくりを手伝っていただきました。『どんな病院をつくりたいか?』とスタッフを交えて院内でワークショップを開くと、そこで出た当院の特徴の一つが、地域の人たちが集まる病院であること。『今日あの患者さん来てないね。体の調子でも悪いのかしら』と冗談を言いながらも、患者さんの元気を確かめ合える気さくな関係が築ける病院を目指しています」。

病院の敷居が低いせいか、犬の散歩がてらに病院に立ち寄り、待合室の血圧計で血圧を測って帰る男性もいる。「もしかすると、ある日血圧が高いことが気になり、受付で『血圧高いんやけど、大丈夫やろか?』と相談してくだされば、気づかなかった病気が見つかるかもしれません。そんなふうに、地域の方々が気軽に足を運び、会話することで、病気やその予兆を発見し、健康が維持できればと思い、敷居を低くしています」。

地域住民の声を聞くと、「災害時の避難所になれるか?」という質問が寄せられた。「ハザードマップを確認すると、病院を新設する場所は地震の際の液状化や、洪水も心配な地域でした」と譜久山さん。住民の高齢化や住まいの老朽化も進んでいたため、住民の要望を汲み、2階に避難所を設けることにした。ただ、避難所だけではもったいないので、普段から地域住民が集まるコミュニティホールとしても活用できるスペースをつくった。そこで、落語の口演会や映画の上映会、アートの展覧会、講師を招いた講演会などさまざまなイベントを開催し、地域の人たちが楽しんでいる。

さらに、待合室の壁に大きな本棚も設置した。「クラウドファンディングで180万円ほどの支援をいただき、病院が150万円を支出してつくりました」と、病院の敷居を低くする一環として地域の人と一緒につくったそうだ。本は、譜久山さんや病院スタッフ、地域の人たちが持ち寄って並べている。「貸し出しのシステムはありませんが、返却してくださるなら持ち帰って読んでいただいてもかまいません」と笑顔で話す譜久山さん。待ち時間に患者が本を読んだり、子どもが机で宿題をしたりする姿も見られるそうだ。ただ、コロナ禍の今、コミュニティホールでのイベントは休止中で、子どもが宿題をすることも、犬の散歩がてらに血圧を測ることも禁じざるを得ない状況が続いている。「早く以前のように地域の皆さんが気軽に集まれる病院に戻れたら」と、コロナの終息を願っている。

そんな譜久山さんは、自身のフェイスブックに患者やスタッフとの「くすっ」と笑える会話をアップしている。その理由は、「病院ではいつも難しいことばかり話しているわけではなく、日々こんなおもしろい会話が飛び交っていることを伝えたいからです。僕一人で笑うだけではもったいないし」とのこと。誌面でいくつか紹介しているので読んで笑ってほしい。

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応接室でインタビューに答える譜久山さん。地域の病院や医療のあり方を、関西人らしくユーモアを交えながら話す。
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『ふくやま病院』の外観。「前の広場でラジオ体操やリハビリ運動などもしたいですね」と譜久山さん。
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クラウドファンディングでつくった本棚。

新たに得られる 生きる喜びに出合える場。

『ふくやま病院』には「緩和ケア病棟」がある。緩和ケアとは、ガンなど命を脅かす病気にかかった患者とその家族のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させるためのアプローチだ。「ほかの病院でガンの治療を受けながら、当院の緩和ケア外来で、病状や心の状態を聞かせていただいています」と、譜久山さんの弟で院長の仁さんが説明する。「緩和ケアで大切にしているのは、患者さんと信頼関係を築き、患者さんの人となりを知ること。そのために必要なのは、患者さんやご家族との対話です」。無念にもガンが進行し、治療が困難になっても、人生の最終段階をどんなふうに過ごしたいかと対話を重ね、患者本人の要望に応えられるよう努めている。医師や看護師だけではなく、心理カウンセラーやソーシャルワーカーと連携を図り、患者や家族のQOLを向上させる。「入院すると帰れないと思われることがありますが、3人に1人は退院され、ご自宅へと帰られます。苦痛を取り除きながら、当院では音楽療法や園芸療法、さらに誕生会など個人的なイベントを行うことで、新たに得られる生きる喜びに出合える場としての環境を整えています」と仁さんは話す。「QOLの向上はウェルビーイングの向上にもつながると思います。ただ、ご本人とご家族のウェルビーイングの両立は、互いの関係が強く影響します。長らく親とは断絶同然だった海外在住の娘さんに連絡を取り、親子で最後の時間を過ごされ、喜んでいただけたこともありました」。

そんな人生最後の幸福やウェルビーイングを感じてもらえるよう、緩和ケア病棟では、よりよく生きるためのケアを続けている。

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緩和ケア病棟の音楽療法。歌うことで昔を思い出す。
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『ふくやま・すこやかクリニック』での園芸療法の様子。

利用者の幸せが連鎖し、 地域のウェルビーイングへ。

移転前の敷地にある『ふくやま・すこやかクリニック』では、通所リハビリテーションサービスを実施している。理学療法士と作業療法士のサポートを受けながら地域の人たちがリハビリや入浴を行っている。この日は、週に1度の園芸療法が行われ、利用者は自分たちで育てた花やハーブを使った寄せ植えをつくっていた。指導する園芸療法士の岡室有紀さんは、「ベランダや屋上では花や野菜を育てています。如雨露で水やりをすることで腕の筋力が鍛えられるなど、楽しんでリハビリができるよう工夫しています。また、高齢になると世話をされる立場になりがちですが、植物の世話をすることで役割や生きがいを見出すことも園芸療法の利点です」と話す。
 
3階で筋力トレーニングを行っていた86歳の西口きくゑさんは、浴室で転倒して歩行困難となったが、リハビリや食事の指導を受け、一人で歩けるまでに回復した。「ここに連れてきてくれた息子に恩返しするためにも、リハビリを頑張っています」と笑顔で話す。
 
西口さんの幸せは息子の幸せであり、リハビリに携わるスタッフ全員の喜びでもある。そんな幸せの連鎖が、やがては地域のウェルビーイングへと広がっていくのだ。
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緩和ケアで行われた「がん哲学カフェ」での体操風景。
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利用者と一緒に。前列右は質問に答えてくれた西口きくゑさん。
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リハビリの一環として花壇をつくるリハビリテーション科の理学療法士、作業療法士たち。花壇は明石市花壇コンクールで特別賞(優良賞)を受賞!
ふくやま・つよし●1994年、長崎大学医学部卒業。医学博士。『ふくやま病院』院長を経て、理事長に就任。外科、胃腸科、肛門科を担当。安心して健やかに生活できる地域になるよう医療の立場からサポート。
photographs by Hiroshi Takaoka  text by Kentaro Matsui

記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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