病院は何となく怖くて、なるべくなら行きたくない場所だ。でも、『ふくやま病院』は違う。散歩がてらにでも立ち寄りたくなる。なぜ、行きたくなるのか? その理由を理事長に尋ねてみた。
地域の人たちが 気軽に足を運べる病院。
病院の敷居が低いせいか、犬の散歩がてらに病院に立ち寄り、待合室の血圧計で血圧を測って帰る男性もいる。「もしかすると、ある日血圧が高いことが気になり、受付で『血圧高いんやけど、大丈夫やろか?』と相談してくだされば、気づかなかった病気が見つかるかもしれません。そんなふうに、地域の方々が気軽に足を運び、会話することで、病気やその予兆を発見し、健康が維持できればと思い、敷居を低くしています」。
地域住民の声を聞くと、「災害時の避難所になれるか?」という質問が寄せられた。「ハザードマップを確認すると、病院を新設する場所は地震の際の液状化や、洪水も心配な地域でした」と譜久山さん。住民の高齢化や住まいの老朽化も進んでいたため、住民の要望を汲み、2階に避難所を設けることにした。ただ、避難所だけではもったいないので、普段から地域住民が集まるコミュニティホールとしても活用できるスペースをつくった。そこで、落語の口演会や映画の上映会、アートの展覧会、講師を招いた講演会などさまざまなイベントを開催し、地域の人たちが楽しんでいる。
さらに、待合室の壁に大きな本棚も設置した。「クラウドファンディングで180万円ほどの支援をいただき、病院が150万円を支出してつくりました」と、病院の敷居を低くする一環として地域の人と一緒につくったそうだ。本は、譜久山さんや病院スタッフ、地域の人たちが持ち寄って並べている。「貸し出しのシステムはありませんが、返却してくださるなら持ち帰って読んでいただいてもかまいません」と笑顔で話す譜久山さん。待ち時間に患者が本を読んだり、子どもが机で宿題をしたりする姿も見られるそうだ。ただ、コロナ禍の今、コミュニティホールでのイベントは休止中で、子どもが宿題をすることも、犬の散歩がてらに血圧を測ることも禁じざるを得ない状況が続いている。「早く以前のように地域の皆さんが気軽に集まれる病院に戻れたら」と、コロナの終息を願っている。
そんな譜久山さんは、自身のフェイスブックに患者やスタッフとの「くすっ」と笑える会話をアップしている。その理由は、「病院ではいつも難しいことばかり話しているわけではなく、日々こんなおもしろい会話が飛び交っていることを伝えたいからです。僕一人で笑うだけではもったいないし」とのこと。誌面でいくつか紹介しているので読んで笑ってほしい。
新たに得られる 生きる喜びに出合える場。
そんな人生最後の幸福やウェルビーイングを感じてもらえるよう、緩和ケア病棟では、よりよく生きるためのケアを続けている。
利用者の幸せが連鎖し、 地域のウェルビーイングへ。
3階で筋力トレーニングを行っていた86歳の西口きくゑさんは、浴室で転倒して歩行困難となったが、リハビリや食事の指導を受け、一人で歩けるまでに回復した。「ここに連れてきてくれた息子に恩返しするためにも、リハビリを頑張っています」と笑顔で話す。
西口さんの幸せは息子の幸せであり、リハビリに携わるスタッフ全員の喜びでもある。そんな幸せの連鎖が、やがては地域のウェルビーイングへと広がっていくのだ。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。