埼玉県・横瀬町まち経営課で、民間・団体等との新しい関係性を築くための仕組み、官民連携プラットフォーム「よこらぼ」や、総合計画を担当。「小さな町だからこそできることがある」を信条に活動する。横瀬町生まれ横瀬町育ち。1974年生まれ。趣味は、高校時代から続ける演劇出演。
官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を中心に、埼玉県・横瀬町にチャレンジできる仕組みを次々と仕掛けている田端さん。「小さな町」の利点を生かし、圧倒的なスピード感で町の課題を解決していく取り組みを紹介します!
「日本一チャレンジしやすい町」の原動力は、
「小さな町」ならではの意思決定の速さと柔軟性。
官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を起点に、
圧倒的な熱意で町の未来を変える。
日本一チャレンジしやすい町」。そう呼ばれ、スタートアップから大企業まで、続々と実証試験を一緒にやりたいと集まってくる町があります。池袋から特急で73分、人口約8300人の小さな町、埼玉県・横瀬町。その仕掛けが、官民連携のプロジェクトを次々と生み出すプラットフォーム、通称「よこらぼ」です。スタートして2年半あまりで、企業等からの提案件数が既に110件、実際に連携した事業が61件にも上ります。職員数も約90人しかいないこの小さな町で、なぜこれだけの連携が起きているのか。その仕掛けを取材していると、その裏で、全力でワクワクしながら動きまくっている公務員がいました。それが今回紹介する横瀬町職員の田端将伸さんです。活動のモットーは、「小さな町だからこそできることがある」。田端さんの取り組みから、課題として捉えがちな「人が少ない」ことの価値や、人が気づきを得るきっかけについてお伝えできれば幸いです。
「小さな町だからこそできること」とは何か。スピード感を保つためのさまざまな仕掛け。
これほどまでに多くの連携が進んでいる理由には、徹底して「提案者がチャレンジしたいこと」を応援するという姿勢にあります。通常だと、行政が困っている課題を提示して、それを解決してくれる民間の企業や団体を募集します。でも「よこらぼ」は、個人や企業のチャレンジしたいことと、町に協力してほしいことを提案してもらい、それが町にとって価値があるものであれば、町を挙げて全面的に応援するというもの。そのため、支援内容も多岐に渡ります。
その際に、担当の田端さんが一番大事にしているのが、圧倒的な「スピード感」。企業にとっては時間こそ価値ですし、行政の苦手とするところでもあるからです。横瀬町は、職員数が全体で約90人、田端さんの上には、課長と副町長、そして町長の3人しかいません。だからこそ、意思決定が一瞬でできてしまう。そこが小さい町の強みだと、田端さんは言います。1000分の1ではなく、90分の1だからできることを。
そして、住民の人たちの顔が見えることも強みです。田端さんは、横瀬生まれ、横瀬育ち。自分が生まれ育った町だからこそ、いろんなキーマンを知っている。だから住民の協力を得るのも早い。外部の企業にとっては一番欲しい「つながり」でもあります。
さらに、企業がいつでも提案できるよう、一年中事業を募集。実現するため、採択事業の多くは、町の補助金等の支出をしていません。予算計上するには、費用対効果や手法など、時間を掛けて考慮した上で議会の議決を得る必要があります。それよりも、住民への協力要請や活動拠点の提供など、ニーズに沿い、いち早く実証できることを、一対一の対応で徹底的に行っています。
そしてもう一つ重要なのが、「止める勇気」です。行政では一度採択した案件は、失敗したことになるから、なかなかやめづらい。そうすると、人的資源が限られている町で、新しいチャレンジのために動ける時間が少なくなり、全体のスピード感も落ちてしまう。だからこそ、うまくいかなさそうな場合は、思い切って中止を促しています。うまく回らないことも実証試験の成果として重要、と考えていると言います。
事業の採択基準は、「熱意を持っているか」。町の未来を変えるべく、全力でチャレンジ。
最近では、「よこらぼ」をきっかけに、横瀬町への移住を希望する人も出てきました。例えば、鳥獣害対策を兼ねたジビエ事業を展開しようとする吉田隼介さん。なかなか事業展開が難しい分野ですが「だからこそ移住して本気でやりたい」という熱い気持ちに打たれ、採択。猟友会への紹介や活動拠点の提供など、全力で応援しています。採択基準のうち、大事にしているのは、「熱意」。人任せのアイデアでは世の中は変わらない。「熱意を持って実際に動く人、チャレンジする人を応援し続けたい」、と田端さんは目を輝かせます。
今では、まさに熱血漢の田端さんですが、就職当初の動機は、「公務員は、9時・17時で帰れる」から。まさに世間が持っている公務員のイメージそのものでした。実際には職員数も少なく、残業続きでしたが。そんな田端さんを大きく変えたのが、10年目の埼玉県庁への出向。初めて横瀬町を外から見
る機会ができ、今まで当たり前だと思っていた横瀬町の「おいしい水」や「澄んだ空気」、「地元の人たち」が、実は当たり前の存在ではなかったことに気づいたのです。
「こんな横瀬町で働けてるって、幸せだな」。外に出たことで気づけた、大事な感覚でした。そこからの田端さんは、人が変わったように、どんどんチャレンジを進めてきました。そんな中、次にチャレンジしたいのは、後輩職員の育成だと言います。自分自身を振り返ると、ほかのみんなはもっと可能性がある。小さい町だからこそ、一人の影響力が大きく、職員一人ひとりのモチベーションが町の元気に直結する。困っている人を全力でサポートできるし、感謝もしてもらえるのが公務員の仕事。お金を使うことも大切だけど、近所のおばあちゃんの話を聞いて全力で寄り添っていくことでも、ひいては一つの町の未来も変えられるんじゃないか。本気でそう思っています。
私自身も、田端さんのように、頑張っている人がもっとチャレンジしやすい社会を目指して、1年以上にわたってさまざまな公務員を紹介してきましたが、次回でこの企画も一旦終了。この応援の輪をもっと広げていけるよう、自分自身も引き続きチャレンジしていきたい、そう思えた取材でした。
\町長は見た/
「変化の時代」だからこそ、
小さな町にはチャンスがある。
横瀬町 富田能成 町長
小さい町は、財布も小さいし経営資源も限定的。でも、動きは速いし、柔軟だし、何よりも人の熱が伝わりやすい。予見できない未来が迫る「変化の時代」だからこそ、小さな町にはチャンスがいっぱい。だから「小さい町だからこそできることがある」。官民連携プラットフォーム「よこらぼ」で「ヒトがヒトを呼ぶ」という好循環ができてきているのは、システムが優れているからではなく、官と民をつなぐ結節点に「お役所仕事」を超えてホンキでいい仕事をする「ヒト」がいるから。誰とは言いませんが。あんなにすごい大谷翔平を日ハムの栗山監督は今でもなかなか褒めません。私もそうしたいと思います(笑)。「日本中の公務員の仕事の総量」−「お役所仕事」=わが国最大の伸びしろ、だと思ってます。みんなでがんばりましょう!