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関係人口

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特集 | ソトコトが手がける講座・講演プロジェクト

第一次産業のプレイヤーに出会う、和歌山県田辺市でのフィールドワーク

ソトコト事業部

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和歌山県の南部に位置する田辺市。熊野三山をめぐる世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」と、全国でも有数の梅の産地を支えてきた農法として世界農業遺産に認定されている「みなべ・田辺の梅システム」、二つの世界遺産を有する地域です。

田辺市の関係人口講座「たなコトアカデミー」がスタートしたのは2018年。2024年9月から6期目の講座が始まり、多様なバックグラウンドを持つ社会人が参加しています。

2024年11月22日〜24日の3日間、田辺市でフィールドワークを実施。農業、林業、水産業の3つの分野で地域に関わる人々を訪ねました。関係人口をつくるためのヒントをたくさん得て、充実した時間を送ることができました。


目次

関係人口を生み出すために、第一次産業に注目。

「たなコトアカデミー」では、これまでに都内でのマルシェ出店や関係人口をつくるプラン発表など毎回さまざまなゴールを設定し、地域のプレイヤーの取り組みについて話を聞いたり、現場を訪ねたりして、地域とより深くつながるための経験を重ねてきました。

「田辺市のたなべ営業室のみなさんとも話し合った結果、田辺市の人々が都市部で物販を行う際や、現地での農作物の収穫作業の際に講座参加者がお手伝いをしやすいという理由から、関わりしろがつくりやすい第一次産業の分野を今期のテーマにすることにしました」と当講座ディレクターの嶋村有加里さんは話します。

よってこの第6期では第一次産業に焦点をあて、農業、林業、水産業の3つの分野で地域に関わる人々と出会うフィールドワークを実施することになりました。

地域の約9割を占める森林に関わる人たち

近畿地方の市町村で最も広い面積を有する田辺市。その約9割が森林であるため、林業が盛んで、木材の生産や製材業はもとより製炭業も行われています。今回のフィールドワークでは、地元の紀州材を取り扱う『山長商店』を訪問したほか、虫食いの跡が残る木材である「あかね材」の魅力を伝え広める活動を行う『Boku Moku』の取組みについて話を聞いたり、紀州備長炭を作る『木ノ国製炭』の伐採や製炭の現場を見学したりしました。

『山長商店』は紀伊半島に約6000ヘクタールの森林を所有し、植林から育林、伐採、製材、乾燥、仕上げ、品質検査、選別、プレカット加工までを一貫して手がける会社です。構造材には強度と安定が求められることから、国産材の場合、無垢材よりも集成材の方が向いているとかつては言われていましたが、同社では集成材とほぼ同等に品質が安定している無垢の製材品を生産しています。同社の三栖基史(みす もとふみ)さんから会社の歴史や製品の特徴について説明がありました。

『山長商店』の三栖基史さん(写真奥)から同社の歴史や製品の特徴を伺いました。

同社では、木造住宅の柱や梁の継ぎ手や仕口の加工を機械で行うプレカット加工を導入していますが、どうしても手加工が必要なところが出てくるそうです。「二人の大工さんが担当しています。プレカット加工を行うところでは手加工を敬遠する場合がありますが、うちの場合は手加工も得意としています」と教えてくれました。

三栖さんの話を聞き終えた後、受講生はそれぞれヘルメットを被り、イヤホンをつけてから屋外へ出て、伐採された木が製材品となるまでの一連の過程を見学しました。イヤホンをつけたのは特に製材過程で機械から大きな音が出て、話が聞こえづらいからです。

一本の木が製材品となり、木造住宅等で使われるようになるまでには、そこで働く多くの人の技術と経験、そしてそれぞれがプロとして責任を持って目の前のことに取り組む姿があることを参加者たちは自分の目で確かめることができました。

ヘルメットとイヤホンを付けて生産工程を見学する受講生たち。
木材の種類によって見た目や香り、建材としての性質が異なることも教わりました。
一本の木から製品となっていく一連の工程を見ることができました。

次に、受講生たちは2024年5月に開庁したばかりの田辺市新庁舎に集まり、曽祖父が始めた家具店を受け継いでインテリアショップ「Re-barrack」(リバラック)を営む榎本将明さんから田辺市の林業に関する話を聞きました。

安価な外材の輸入や木材需要の低下などの影響によって同市でも山の手入れが行き届かなくなったことから、小さなカミキリムシの幼虫が動いた跡がついて価値が下がってしまった木材「あかね材」と、これを活用して地域課題の解決につなげるユニット『BokuMoku』の活動について説明がありました。

「あかね材」について説明する『Boku Moku』の榎本将明さん。

「検査を受けて強度は下がらないと分かっているのに、虫食いの跡があるからといって、その見た目だけで敬遠されてしまう。この虫食いの跡を個性と捉えて、デザインの力でこの問題を解決しようとメンバーが集まって、プロダクトを生み出していくことにしました」と榎本さんは話しました。さらに木に触れるためのワークショップや実際に山に行って森林について学ぶ体験会も行っているとのことでした。

受講生も実際に「あかね材」の虫食い跡に触れてみました。

同市の新庁舎には紀州材が多く使われており、榎本さんらがプロデュースする「あかね材」のテーブルなども設置されています。受講生たちは庁舎内を見学したり、実際に木材を触ってみたりしながら、同市が森林に関する問題や課題に向き合う様子を知ることができました。

田辺市新庁舎の市長室を訪問。「あかね材」を使用した立派なテーブルがありました。

そして、紀州備長炭づくりを行う『木ノ国製炭』の堀部剛史さんを訪問。受講生たちはその原料となるウバメガシの山へ行き、堀部さんから備長炭についての話を聞きました。元々は愛知県名古屋市の出身ですが、田辺市秋津川にある谷川地区の炭焼き職人が木を切りながら森を守る拓伐の方法で炭焼きを行ってきたことに共感して、その方に弟子入りしたそうです。

ウバメガシの木の切り落としを実演する『木ノ国製炭』の堀部剛史さん。

どのようにして森を守りながら木を切るのか、実際に堀部さんにその様子を見せてもらいました。細い幹は切らずに残して、太い幹だけを切り倒していきます。

「全部切り倒すと次に木を切れるようになるまでに50〜60年かかります。さらに全てを切り倒すと、育ちの早い木に負けてしまい、ウバメガシの山ではなくて雑木の山になってしまうことも。でも、こうやって細い幹を残すと15年で育って切れるようになるので、昔の人はこういうサイクルで炭を焼いてきました」と堀部さんは説明しました。

堀部さんはウバメガシを切って炭を焼くだけではなく、伐採された後の場所に苗木を植えて山を守りながら炭焼きを続けています。普段の生活では出くわすことのない急斜面で体のバランスを取りながら、受講生たちは苗木の植林を体験しました。また、堀部さんが使用している紀州備長炭記念公園内の炭焼き窯も訪れ、製炭の工程について詳しく話を聞きました。屋外で体力を必要とする仕事ですが、「いろいろな作業があって面白いですよ」と笑顔で話す堀部さんの姿が印象的でした。

ウバメガシの苗木の植林を体験。
かつて使われていた炭焼きの窯(上)と現在堀部さんが使用している窯(下)を見学しました。

梅やみかん、米づくりの現場で作業のお手伝い

田辺市上芳養(かみはや)日向地区にある『日向屋』を受講生たちは訪問。同市が抱える耕作放棄地、鳥獣害被害、人口減少による担い手不足の課題を解決しながら、紀州南高梅やみかんなどの柑橘類を栽培したり、加工品を手がけたりしています。同社代表の岡本和宜(かずのり)さんは、朝早くから梅園を訪れた受講生たちに対して「眠そうな人もいるので目が覚めるように動いてもらいます」と笑いを誘い、作業体験が始まりました。

同社の中西泰裕(やすひろ)さんから指導を受けながら、受講生たちは梅の木の剪定作業に挑戦しました。主枝と呼ばれるメインの枝を残して太くしていくため、そのほかの枝を切ってしまうのはもったいないような気もしますが、枝が多いと風で梅の実に傷がついてしまったり、収穫時に枝が邪魔になってしまったりとデメリットが生じるそうです。どの枝を残していいのか最初は戸惑いながら電動の剪定ハサミを使って作業を進めました。

梅の剪定作業を体験する受講生たち。

また、「たなコトアカデミー」の受講生の受け入れを長年行ってきた岡本さん。関係人口づくりには「関わりしろ」をつくることが大事だと実感しているそうで、受講生たちに自身のネームプレートを付けた梅の木を植えてもらい、その様子を1年に2回見に来てもらうことを提案しました。受講生たちは梅の木の根がしっかり伸びて成長するように、深く広く穴を掘って丁寧に梅の苗木を植えました。

『日向屋』代表取締役の岡本和宜さん(写真左)。
受講生それぞれが植えた苗木にネームプレートをつけました。

次に受講生たちは、田辺市上秋津地域で約30種類の柑橘を育てる『十秋園』を訪問。同園の代表で、「たなコトアカデミー」第6期のメンターを務める野久保太一郎さんが有するみかん畑で収穫のお手伝いをしました。

みかんの収穫前には、新たな農業の在り方について知る機会も。同市内でドローンを使った事業を準備中の『尖農園』(とんがりのうえん)の小谷大蔵(だいぞう)さんと、小谷さんが師匠と仰ぎ、同じ和歌山県広川町で農業支援やドローンの事業を行う『寺田』の寺田諭立馨(ゆたか)さんが、ドローンを使って肥料や農薬を散布する方法を説明し、デモンストレーションを見せてくれました。

全国的な問題である農家の高齢化。体力の要る作業をドローンに代行させて、農家への負担を減らす提案を行っています。

みかん畑でドローンを実装していただきました。

消毒作業を人が行うと1日3千平方メートルが限界ですが、ドローンの場合は2万から3万平方メートルを行うことが可能です。

「作業はカッパを着てマスクをしながらホースを移動させる必要があります。特に夏の暑い時期に消毒を行うとなると、若手の方はまだ頑張れるのですが、高齢になると熱中症で倒れてしまう人も多くいます。そのため、『夏場だけでもどうか』と農家さんに営業をしています」と寺田さんと小谷さんから説明がありました。

農家の課題やその課題に向けた新たな取り組みについて学んだ後は、みかんの収穫を体験。みかんの栽培が盛んな和歌山県のほかの地域と田辺市では収穫する器具や方法が異なることなどを野久保さんから聞き、実際に受講生それぞれがハサミを持ち、脚立を使って高い位置にあるみかんを収穫しました。斜面での作業は体力を要するため、農家さんの大変さを実感する機会となりました。

みかんの収穫を体験。農家さんが作業しやすいように工夫された器具に感激する受講生もいました。

さらに、米の生産から販売までを担う『たがみ』の田上雅人さんが手がける「熊野米プロジェクト」で活用されている田んぼを訪問。梅の調味液を使って田んぼの雑草を抑草し、農薬や化学肥料を減らして米の新品種「ひかり新世紀」を地域で育てています。

受講生たちは、米の収穫を終えた田上さんの田んぼに集合し、冬の間にブロッコリーを植える前にトラクターで土を耕す体験をしました。初めてのトラクターの運転に受講生たちは大興奮。畑を一周しただけでも「楽しかった!」と笑顔を見せていました。

『たがみ』代表取締役の田上雅人さん(写真右)からトラクターの乗り方を教わる受講生。

田んぼを耕すお手伝いの後は、田辺市内で生産されている卵を使った卵がけごはんのほか、梅干し、しらす、金山寺みそなどのごはんのお供と一緒に「熊野米」を堪能しました。自然豊かな環境の中で食べる朝ごはんは、普段の生活ではなかなか体験できない格別な味わいがありました。

青く広々とした空の下、受講生たちは自然を満喫したようです。

豊かな海と里が広がる田辺湾を散策

和歌山県田辺湾は、その変化に富んだ環境からさまざまな生物が生息する県内でも有数の湾です。『ヒロメラボ』代表の山西秀明さんは、同市でも養殖が行われてなじみのある海藻の一種「ヒロメ」に関する研究を行っています。この「ヒロメ」の養殖がここ数年間は難しくなり、天然資源も減少傾向にあることから、種苗生産に取り組んでいます。

田辺の特産品である海藻「ヒロメ」の研究をする山西秀明さん。
田辺市新庄町にある「内之浦干潟親水公園」。

同市内の「内之浦干潟親水公園」で山西さんと待ち合わせて、鳥ノ巣半島の先端にある釣り場までの約2キロメートルの道のりを歩きました。普通に歩いていたら見逃してしまうような何気ない風景の中にも、この地がかつて海の中にあった歴史や準絶滅危惧種の貝類が見られる貴重な環境であるなど多様なストーリーを山西さんから教えてもらいました。

田辺の海と山にまつわるストーリーを聞きながら、田辺湾を散策。

最終目的地の釣り場では、牡蠣の養殖の様子や種苗の管理小屋で「ヒロメ」の種苗を育てている様子を見学しました。「この施設で管理できても、最終的に養殖する海の水温の問題があります。水温18度ぐらいになり藻食性魚類の活性が下がらないと、海に出したところで魚に食べられてしまいます。『ヒロメ』が養殖できるかどうかは、気候変動とも大きく関係しています」と山西さんは話してくれました。

「ヒロメ」の育苗現場を見学。

田辺市の地域プレーヤーの皆さんや受講生同士の関係性がより深まった3日間のフィールドワークは、あっという間に終了しました。今後はワークショップや中間発表などを通じて田辺市との自分らしい関わり方を考えて、「たなコトプラン」を2025年2月8日に田辺市内の会場で発表します。どんなプランが発表されるのか、ぜひご注目ください!

「高尾山」(たかおやま)から田辺のまちと海を一望。

講座メンター・受講生より

第6期 講座メンター 野久保太一郎さん

これまでフィールドワークの受け入れ先として、受講生に作業の一部を数時間体験してもらったことはありましたが、メンターとして3日間一緒に過ごしたことは私自身も初めてで、田辺市の一次産業について改めて知ることがたくさんありました。そして、受講生の皆さんはこのフィールドワークを通じて受講生同士のいい関係性が紡がれているのが印象的でした。

フィールドワークでプランが見えてきた人もいれば、まだ見えていない人もいると思います。まずは田辺市のいろんな事業者の人とつながって、話をしてからプランが見えてくると思うので、私も受講生からの相談に乗ったり、地域の人とつなげたりして、プラン発表まで伴走していくつもりです。

第6期 受講生 山本倖大(こうだい)さん

東京生まれ東京育ちである私は、漠然と地域への憧れがありました。今では地域おこし協力隊になるというような選択肢もありますが、やってみたい気持ちはあるものの、大きな決断になるのでそこまでの勇気がありませんでした。そんな中、『たなコトアカデミー』第5期生である友人から声をかけてもらって、地域と関わる経験ができると思って参加しました。

参加する前は、第一次産業の手伝いをするとか、地域をPRして観光客を呼び込んでまちを盛り上げるといった関わり方を考えていたのですが、今回のフィールドワークを通じて、より広がった関わり方が見えてきたのがよかったです。また自身のキャリアを考えていく上でも、選択肢が一つ増えたように感じていて、自身の考えを豊かにしていくことにつながればとも思っています。

【写真】永井克
【文章】久保田真理

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