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海中でキス「頼子」と交流を続ける83歳現役ダイバー。心を通わせたきっかけとは?【再掲】

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コブダイって、どんな魚か知っているだろうか? 大きいものだと1メートルを越えるという、ベラ科の魚だ。そんなコブダイに「頼子(よりこ)」と名付け、30年以上交流を続けている現役ダイバーの荒川寛幸(あらかわひろゆき)さんに、頼子との出会いや交流のきっかけについて話を聞いてみた。

写真:頼子と荒川代表 提供:波左間海中公園youtubeサイト

※この記事は2022年1月29日に公開した記事を再掲載しています。情報は当時のものですのでご注意ください。
目次

荒川代表が支える、コブダイ頼子の命

今年84歳を迎える荒川さんは、千葉県館山市でダイビングサービスを行う「波左間海中公園」の代表だ。ほぼ毎日海に入る荒川代表を迎えてくれるのは、コブダイの頼子。
世界一に輝いた頼子の写真

世界一に輝いた頼子の写真

水中写真コンテスト「アンダーウオーター・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー(UPY)」の2021年大会ポートレート部門で日本人初の優勝に輝いた伊藤亮平さんの作品は、頼子を撮影したものだった。写真提供:水中写真家 伊藤亮平 
http://ryoheiito-photography.com/
荒川代表「行けば必ず会える。だいたいエンジンの音で分ってるから下で待ってるね。居ないときは板をたたいて知らせるとくる。エサをもらえるのを分ってるから」

荒川代表は、網にかかったヤドカリをもらったり、自分で採取したりして1回に5個ほど頼子に与えている。

頼子と荒川代表

頼子と荒川代表

頼子と荒川代表 写真提供:水中写真家 伊藤亮平 
http://ryoheiito-photography.com/
荒川代表「殻ごとでも食べるけど、もう頼子も歳とってますからね。30年じゃきかないから。実際はもう死んじゃってるはずなんですよ。だけど、魚っていうのは体はどんどん成長するんです。ただ、口の周りは退化してくる。砕けて歯がなくなって食べられなくなって死んじゃう。体は大丈夫なんです。われわれが割ってあげれば、かまないで済むから食べられるわけです。だから頼子は30年経ってもまだ元気なんです」

人間とコブダイの絆

コブダイ頼子

コブダイ頼子

写真提供:アドレナリンダイバーズ 永野治
ピンクがかった体に、しゃくれた顎と大きな口。黄色く縁どられた目の中は美しい青色をしている頼子は、立派なコブを持っている。海の中で突然遭遇したら、恐怖さえ感じてしまいそうな見た目だが、荒川代表は頼子に素手で触れ、コブに愛情深くキスをする。いったい何がきっかけで、こんな仲になったのだろうか?

荒川代表「頼朝(よりとも)って名前のコブダイがいて、頼子もいたけど30センチくらいで小さいメスだったんです。だから頼子って名前を付けて頼朝と一緒にエサを食べさせていたんです。ある日、頼朝が縄張り争いで別の大きいやつとけんかして負けたんです。負けたと同時にその場所にいられなくなる。それで追っ払われちゃって、頼子が困っていたんです」

頼子をモチーフにした波左間海中公園のステッカー

頼子をモチーフにした波左間海中公園のステッカー

頼子をモチーフにした波左間海中公園のステッカー
頼子にエサをあげながら頼朝の帰りを待っていた荒川会長だが、頼朝が帰ってくることはなかった。悔しい思いをした荒川代表は、大きいコブダイにはエサを与えず、頼子にだけエサを与え続けたという。コブダイはメスとして生まれ、群れのなかで一番大きく育った一匹がオスへと性転換する、「雌性先熟(しせいせんじゅく)」の魚だ。荒川代表がエサを与え続けて2年ほどすると、頼子はどんどん大きく成長し、頼朝を追い出した大きいコブダイとけんかをするまでに。ところが、そのけんかに負けてしまった頼子は、怪我を追ってしまう。

荒川代表「もう口の周りがぐちゃぐちゃになっちゃって、海底にある鳥居の下でうずくまっていた。エサも食べられない状態。歯は奥にいっぱいあるんですよ。それでサザエとかを砕くんだけど、前の歯はかみついたり何かを引っ張り出すだけの歯で、そこがぐちゃぐちゃになっちゃってたから、頼子のところにいってヤドカリを割ってあげて、本人見ていて口は開くけど食べることができないわけ。手で押し込んであげて、それを何度かやってるうちにお腹一杯になるでしょ。すると居なくなるんですよ」

頼子がふだんいる海底の鳥居

頼子がふだんいる海底の鳥居

頼子がふだんいる海底の鳥居 写真提供:波左間海中公園
荒川代表は頼子を思って心配したが、姿を現さない。定置網の仕事で海底40メートルのところで作業をしていると、じっとして動かない頼子を見つけた。「2、3日してまた行ってみると、やっぱりいるんですよ。そこで養生してるわけ」と荒川代表。その後2カ月くらいしてから、頼子はいつもの場所に戻ってきた。

荒川代表「薬を口の周りに毎日塗ってあげて。それを3カ月くらいやってるうちに治ってきて、それが現在の頼子なんですよ。だから何やっても怒らない」

傷を負った頼子にエサを与え、見守り、薬を与え続けるうちに、荒川代表と頼子は種を越えて心を通わせ合ったのだ。

頼子だけじゃない。荒川代表の海の仲間たち

荒川代表とザトウクジラ

荒川代表とザトウクジラ

荒川代表とザトウクジラ 写真提供:水中写真家 伊藤亮平 
http://ryoheiito-photography.com/
荒川代表が仲良くなるのは、コブダイの頼子だけではない。波左間海中公園では、迷子になった海の生き物たちを保護することがある。ザトウクジラ、マンボウ、メガマウスやジンベエザメなどだ。2021年は、通算9頭目のジンベエザメが定置網に迷い込んだ。
エサを食べるジンベエザメ

エサを食べるジンベエザメ

エサを食べるジンベエザメ 写真提供:水中写真家 伊藤亮平 
http://ryoheiito-photography.com/
荒川代表「傷ついたところが治るまで、エサのオキアミを与えます。慣れる前は警戒して海底の方にいるが、慣れると上の方で食べてくれるようになる。だいたい7月ごろに入って10月ごろまでいて、その間に体も大きくなります」

18歳のころから潜りだして50年以上になる荒川代表が、定置網の仕事で波左間の海に初めて潜ったのは40年以上前。当時20メートル見えていた透明度が今は5メートルになり、熱帯性の死滅回遊魚が今は死滅せずに一年中いるという。海藻がうっそうとしていたが今は無くなり、大きなサンゴに変わっていった。波左間の海を見守り続けてきた荒川代表に、今願うことを聞いてみた。

荒川代表が潜り始めたころの潜水道具

荒川代表が潜り始めたころの潜水道具

荒川代表が潜り始めたころの潜水道具
荒川代表「今の現状じゃないかな。今でも幸せですから。まぁ、頼子のことだな。いうこと何でも聞いてくれるし、うれしい限りですよ。人がやっても真似できないことだから」

たんたんと静かに語りながらも、強い意志を感じさせる荒川代表だが、頼子の話になると心なしか顔がほころぶ。頼子と荒川代表の交流は、CNNの「great big story」というyoutubeサイトでも紹介されている。

さまざまな生き物たちと触れられる波左間海中公園は、東京から車で2時間の場所だ。荒川代表と頼子の物語を、ぜひ生で体感してみてほしい。

荒川代表「みなさん、ありがとうございます。私も頼子もともに生きて行きます。エアードームでお会いしましょう。素晴らしい体験を約束いたします」

波左間海中公園:千葉県館山市波左間1012
http://hsmop.web.fc2.com/index.html

写真:波左間海中公園、水中写真家 伊藤亮平、アドレナリンダイバーズ 永野治、鍋田ゆかり
文:鍋田ゆかり
取材協力:波左間海中公園

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