「Web3.0(ブロックチェーン)」は、インターネット上で価値のやり取りを可能にする技術です。これまでさまざまな制約から人・モノ・カネを活用できなかった場所で事業を興す武器になると考えられています。今回、この記事では「地方創生×NFT」の現状と課題と可能性について考察します。NFT市場が生まれてから数年が経ち、幾つかのユースケースが生まれてきたなかで、少しずつ見えてきたことを振り返りつつ、その未来を考察します。
なぜ今、「地方創生×NFT」なのか?
● 地方創生と「NFT」
「NFT」は「Non-Fungible-Token(ノンファンジブルトークン)」の略語であり、日本語訳すると「非代替性トークン」と呼ばれます。「非代替性」とは読んで字の如く、「替えが効かないこと」を指します。イメージとしては、「替えが効かない・交換できないデジタルデータ」を指して「NFT」と呼びます。
その技術の根幹には「ブロックチェーン」が採用されており、「改ざん不可能性」「透明性」「売買可能性」が備わっています。つまり、だれかにコントロールされず、今だれが所有しているか、過去どのような価格変化や所有者の変化があるかが閲覧でき、いつでもリアルタイムで売買が可能となります。
この「NFT」の仕組みによって、ゲームアイテム、ドメイン、アート、音楽、動画、メタバースの土地、会員権、学位証明書など、さまざまなものが「NFT」として発行されています。そして、この「NFT」の仕組みは「地方創生」にも利用できるのではないかと言われており、実際に多くのプロジェクトが「地方創生×NFTのプロジェクト」をリリースしています。
一体、「地方創生」と「NFT」はどのように繋がるのでしょうか。
● 地方創生の課題
・定住人口を増やす
・観光人口を増やす
・関係人口を増やす
移住したり、観光したり、ふるさと納税で寄付してもらったり、税収を増やしていくことで地域を盛り上げていく一連の活動のことを「地方創生」と呼びます。しかし、実際にはこれらの活動がうまくいってない自治体も多いです。日本全体での人口減が続くなか、東京への一極集中は依然としていて、地方は深刻な人口減と高齢化に直面しています。地方創生の施策には場当たり的な短期施策も多く、長期的に地域を盛り上げていく施策を実行できている自治体は少ないです。
これらを解決するための選択肢の1つとなるのが、「NFT」です。
地方創生に「NFT」を活用するメリット
そして、これからの地方創生の王道である「関係人口」の創出と非常に親和性が高い技術がNFTです。
たとえば、「ふるさと納税してくれた人に「NFT」を配布する」「観光に来てくれた人に『来場証明NFT』を配布する」「出生者証明としてNFTを配布する」など、「NFT」を配布することで地域と「NFTホルダーの」間に繋がりが生まれます。
その地域でお祭りを開催したり限定グッズを販売したりする際に、その地域の「NFTホルダー」に先行で商品を販売したり、お知らせを通知することも可能になります。いきなり一般に公開するよりも、過去に接触があった人たちへ向けたお知らせなので、反応率が高く、通知を受けた側も喜ぶ可能性が高いです。その地域が盛り上がれば盛り上がるほど、保有する「NFT」の価格も向上するかもしれません。そうなれば、「NFT」を保有する人々は地域を盛り上げることが自身のメリットにも繋がるので、地域を盛り上げる活動に積極的に協力します。
このように、「NFT」を活用すれば一回の接触から永続的な関係構築が可能になり、お互いにとってその地域が盛り上がれば嬉しいという共通の目的を持つ関係にもなれます。
たとえば、「ASTARチェーン」(※1)上に構築された「スマホ de おみやげ」サービス(※2)は、一度観光で訪れた観光客へ「デジタルお土産(来場証明)」を「NFT」として発行することで、観光客との長期的な関係構築を目指したプロジェクトです。
※1:数あるブロックチェーンの一つです。日本人のファウンダーが開発しており、トヨタ・博報堂など日系大手企業とのプロジェクトベースで協業しています。/※2:旅行に訪れた記念として、スマホで楽しめるデジタルお土産(NFT)を提供するサービスです。QRコードを読み取るだけで簡単にNFTを受け取ることが可能です。
「NFT」と「DAO(ダオ)」を活用した地方創生
● 地方創生と「DAO」
たとえば、「夕張メロンNFT」は夕張市の名産である「夕張メロンの引換券付き権利」を「NFT」として販売し、そのホルダーを「デジタルアンバサダー」として共に夕張メロンを世界に広げていくコミュニティを構築しました。
※3:「Web3」の新しい組織形態・コミュニティです。従来のピラミッド型組織と異なり、メンバーの出入りが自由で、自律的に活動していくのが特長です。
この取り組みは一回限りの販売ではなく、販売後も続く関係を築くことを目的にしています。
コミュニティ(DAO)化のメリットとリスク
事実、上記で説明した「山古氏DAO」では、開始から1年が経ち、実際に現地に訪れる人も増加し、なんと山古志村へ移住する人も現れました。
整理すると、従来の観光や出会いよりも「NFT」を配布した方が永続的な繋がりは生まれやすい。さらに、「NFT」を配布もしくは販売した後に「コミュニティ(DAO)」の形成もできると、より親密な関係が築け、地域の「関係人口は」増加します。もちろん、「コミュニティ(DAO)」形成には高いハードルが存在します。地方自治体には「web3」のリテラシーがなければいけませんし、数百人から数千人にリーチして購入に至るまでも高いハードルがあります。
そして何より、コミュニティを常に活性化させ続ける「コミュニティマネジメント」が非常に難しいです。専任で数名が配属されない限り、深い関係値を築けるようなコミュニティを創出することはできません。「地方創生」と「DAO」は、非常に親和性が高く可能性に満ちた領域ですが、相応のコミットメントが求められます。
次回は「NFT」活用の成功事例と成功要因を解説します
mitsui
web3リサーチャー、株式会社demmpa代表取締役、CCx3ファウンダー。2015年に個人事業主として開業。教育、シェアハウスやコワーキングスペース運営などの不動産、コミュニティ運営などの事業を経て、2020年に株式会社demmpaを創業。その後、複数のwebサービスの開発・運営。現在はweb3リサーチャーとして複数法人からリサーチ案件を受けつつ、web3関連の新規事業立案、マーケティング、開発支援も行なっている。カーボンクレジットをブロックチェーン上で売買するReFiプロジェクト「CCx3」を立ち上げる。