「公共施設」と聞いて、どのような場所をイメージするでしょう。
地域のイベントが開かれるホール? ミーティングルーム?
誰もがアクセスし利用できる場所でありながら、あまり馴染みのない場所、そう感じている人も少なくはないだろう。
今、そんな公共施設のイメージを変えようとしているチームがある。
公共施設を拠点とし、そのまちのストーリーを生かしながら、人が集まる賑わいを生み出す。こうした取り組みを全国で展開しているのが、株式会社JTBコミュニケーションデザイン(JCD)のエリアマネジメントチームだ。20年以上にわたって地域と向き合い、それぞれのまちの魅力やこれからの姿を見据えながら、独自の手法で賑わいづくりを続けている。
墨田区「すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)」での活動を中心に、その取り組みを紹介する。
東京・墨田区「ユートリヤ」をハブとして広がる住民交流
墨田区の公共施設「すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)」は、ホール、ドーム、陶芸室、研修室、茶室、交流ラウンジなどを備えた生涯学習施設である。2018年からはJTBコミュニケーションデザイン(JCD)のエリアマネジメント事業局が運営を担っている。
現場のディレクションを担当しているのは石井咲子さん。石井さんは地域の人たちが仲間と協働しながら活動の輪を広げ、やがて自走していくきっかけとなる講座の企画・運営を行なっている。
講座では、地域に密接に関わるテーマを中心に取り上げ、住民が自分のまちをもっと好きになり、持続可能なコミュニティづくりへとつながることを目指している。
「墨田区に関わる内容や墨田区在住の講師を招き、地域の課題を取り上げています。そして地域を支える担い手となる“地域活動プレイヤー”の育成やスキルアップを目指す講座は、年間およそ10講座を運営しています」と石井さんは話す。

路地園芸に垣間見える”すみだ”らしさ
その講座のひとつが「まちなかガーデナー講座」。
身近な園芸をテーマに、地域をつなぐ活動の担い手を育てることが目的だ。
墨田区は、緑が少ないといわれる一方で、路地や玄関先で植物を育てる「路地園芸」の文化が根付いている地域でもある。
「玄関先で草花を育てているお宅をよく見かけます。通りがかりの人がお花をきっかけに話を交わすことも多く、下町ならではの温かさを感じます。そこでユートリヤで園芸講座を開けば、植物を通じて交流が生まれるのではないかと考えました」と石井さん。
こうして、「まちなかガーデナー講座」がスタートしたのは5年前。毎年10人ほどが参加し、卒業後も希望者は「庭部」と呼ばれるボランティアグループとして活動を続けている。

持続可能な園芸活動を目指して
この講座は、単に寄せ植えを学ぶだけではなく、それを地域でどう生かすかを考えることを特徴としている。
そのため多くの参加者は、園芸のスキルを生かしながら「自分たちのまちを緑豊かで魅力的な場所にしたい」という思いが強い。またローコスト・ローメンテナンスで緑を維持する方法を模索し、持続可能な園芸活動を実践している点もポイントだ。
その一例が、雨水の活用である。
「墨田区は雨水利用の研究や実践が盛んな地域です。園芸活動でも水道水ではなく雨水を使えないかと考えました。そこで施設の屋上から雨どいを伝って水を集めるタンクを設置したのです」
タンクの種類や設置方法はワークショップで検討を重ねた。自分たちで考え、設置した設備であるため、参加者の愛着も強い。初めてタンクの蛇口から雨水が出たときには歓声が上がったという。

植物がつなぐ地域の交流
日々の水やりや手入れをしていると、道行く人から声を掛けられることも多い。
そこから地域のコミュニケーションが自然に生まれていく。
建物の外構部で活動をしていると「庭部」ボランティアは、様々な人々に声をかけられる。なかでも、近隣の小学生たちが活動に興味を持ち、「ユートリヤをもっと盛り上げよう」というキャンペーンを企画してくれたことは、石井さんにとって大きな喜びであった。「地域との“開かれた窓”ができたように感じました」と石井さんは振り返る。
「公共施設と自分は関係ないと感じている人が多い。どこのまちにも同じような課題があると思いますが、ユートリヤではネモフィラが綺麗に咲く庭があるよ、種から育てた綿の実がはじける様子が見られるよ、といったことをきっかけに訪れてもらい、庭を通じて交流や会話が生まれることを願っています」
さらに、ユートリヤは地域への働きかけも積極的に行っている。その一例が、朝顔の苗を通じた交流だ。種から育てた朝顔の苗を商店街や図書館、高齢者施設に配布、そこにはユートリヤの絵手紙サークルが心を込めて描いた朝顔の絵ハガキを添える。
絵手紙が巡り巡って、遠く愛媛から御礼が届いたことも。
石井さんは、「朝顔が人々の会話や協働のきっかけとなったことを実感しました。」と顔をほころばせる。

まちを面白くするのは、地域の人たち
今後ユートリヤでは、ガーデンの植物を使ったクラフトづくりやガーデンツアーなど、誰でも参加できるオープンガーデンの開催も予定している。
「ボランティアとして活動するのは難しくても、ガーデンが気になっている方はたくさんいます。そうした方々にも気軽に関わってもらえる場をつくりたいと庭部のボランティアメンバーと一緒に企画を考えています」
石井さんのような指定管理者として施設を運営するJCDの目的は、単にイベントを実施することではない。
「一番の目的は、地域の人たちが自分たちで続けていける持続的な地域活動を作ること。まちなかガーデナー講座は、そのひとつのプロトタイプです。ガーデニングという素材は、路地園芸が盛んなこの地域にとても合っていると感じています。また植物は種をまき、芽が出て、手をかけて成長します。そうした変化が、活動を続けるモチベーションにもなるのです」と石井さんは語る。

「まちのストーリー」がまちの未来を育む
地域の歴史や文化、そこに暮らす人々の思いを生かしながら進める「オーダーメイド型」のまちづくり。JCDのエリアマネジメントチームは、公共施設の運営を通じて、そのまちらしいストーリーを紡いでいる。
JCDエリアマネジメントチームの遠山浩司さんは、次のように話す。
「JCDでは全国で約60か所の公共施設の運営に携わっていますが、公共施設は単に安全・確実に運営するだけでなく、『交流拠点』としての役割を果たすことが重要と考えています。私たちは、地元の資源(歴史・文化・施設)を活用した地域活動の立ち上げ支援を行っています。たとえば、愛知県一宮市では、地元の伝統工芸である尾州織と若者をつなげるきっかけづくりなど、エリアの課題に合わせた地域特化型の解決策をプロデュースしてきました。公共施設を運営することは、そのまちならではのストーリーを地域住民とともに育んでいく『場づくり』なのだと思います」
さらに、まちづくりに対する思いについてこう語る。
「住むまちは、できれば好きでいたいものですよね。いつも顔を合わせるあの人、過ごしたい場所、愛着のあるストーリー。人はきっと、そうした“住み続けたい理由”を探しているのだと思います。私たちは、そのストーリーを紡ぐ役割を担っているのです」

「まちのストーリーを見つけて住民が賑わいを生む橋渡しを」とJCDの遠山浩司さん。

「好きなまちを創るナビゲーター的な存在になれば」と語るJCDの遠山さん(左)と石井さん(右)
すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)
墨田区東向島2-38-7
URL:https://www.yutoriya.jp/
株式会社JTBコミュニケーションデザイン
エリアマネジメント第一事業局・第二事業局
URL:https://areamanagement.jtbcom.co.jp/












