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世界的な日本酒品評会を広島県で開催。日本酒伝道師・橘ケンチさんが伝える、その魅力とは?

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「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」は、1984年にイギリス・ロンドンで創設された世界的に有名なワイン品評会です。2007年にはSAKE部門が設立されました。そして、2026年5月、このSAKE部門審査会が、広島県で開催されました。

このIWC広報アンバサダーを務めたのは、ダンス&ボーカルグループ『EXILE』のパフォーマーの橘ケンチさんです。橘さんは、2018年に日本酒文化の発展に寄与する「酒サムライ」に叙任され、この普及活動にライフワークとして積極的に取り組んでいます。橘さんは、広島県の酒蔵をめぐりながら日本酒の魅力を再確認し、日本酒の思いや未来について語りました。

目次

世界が注目する日本酒の品評会を広島で開催

IWC SAKE部門が創設されて以来、海外で行われる日本酒の審査会として国際的な信頼を積み重ね、今や品質を測るグローバルな指標として定着しています。日本国内ではこれまでに東京都、兵庫県、山形県で開催され、2018年以来、今回は広島で開催されました。

ゴールドメダル受賞酒を試飲する世界中から集まった審査員たち。試飲しながら納得の表情を浮かべていた。

今大会には過去最多となる1738銘柄が出品され、21か国から集まった70人の審査員が厳正に審査しました。カテゴリーは、「普通酒」「純米酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」「本醸造酒」「吟醸酒」「大吟醸酒」「スパークリング」「古酒」「熟成」「フレイバー・サケ」の11に分けられており、審査に応じてゴールド・シルバー・ブロンズメダル、大会推奨酒の評価が与えられました。

各部門で特に優れた銘柄としてトロフィーが与えられた酒蔵の代表者。発表の瞬間、会場は熱気に包まれた。

さらにゴールドメダルの中から特に優れたものに「トロフィー」が与えられ、今年新設された「フレイバー・サケ部門」には、全ての材料を広島県産にこだわって仕込んだ広島県呉市の林酒造による「三谷春 梅酒 潤」がトロフィーに輝きました。審査を総括した上級審査員は「ゴールドメダルの比率が過去最高を記録した。酒質と技術の向上が背景にある」と語り、日本酒の品質が着実に進化していることを示しました。

酒と塩の町・竹原を歩き、藤井酒造を訪問

受賞発表の翌日、橘さんは、広島の酒蔵の視察を行いました。最初の目的地は竹原市。江戸時代から塩の産地として栄え、大正時代には最盛期を迎えて26軒もの酒蔵が軒を連ねたまちです。

竹原の酒造りには、意外な歴史的背景がありました。夏に塩づくりに励んだ人々が、地域に貢献するために高額納税者になりたいと、冬の農閑期に酒造りに取り組んだのがその始まりと言われています。豊富な地下水があり、山間地で栽培された米や北前船で集まった米が手に入りやすかったことから、小さな町に数十軒もの酒蔵を生み出しました。現在は3蔵が残るばかりですが、白壁のまち並みには当時の繁栄の面影が色濃く漂っています。

藤井酒造の周辺を散策する藤井善文さんと橘ケンチさん。酒がどのような環境で醸されてきたのかを肌で感じた。

竹原市にある伝統的建造物群保存地区の一角に、江戸末期に創業した、代表銘柄「龍勢」を手掛ける藤井酒造があります。

3年前に現社長が就任したのを機に、この蔵では「生酛(きもと)仕込み」を全量に採用して醸造するという大きな決断を下しました。さらに、培養された酵母を使用するのも今年から完全にやめて、蔵に自生する天然の酵母と微生物だけに醸造を委ねる自然な酒造りへと舵を切りました。生酛とは昔ながらの手法で、乳酸菌を自然に育てるところから始める、時間と手間のかかる製法です。現代的な方法で行えば、1か月前後で終える本仕込みの作業に、ここでは最長で60日を要することもあるそうです。 「天然の酵母は、のんびり屋が多いんです。人間の都合で、30日で絞り上げようとしたらダメ。委ねるしかないですね」と藤井酒造会長の藤井善文さんは語ります。そして、ごまかすことなく、自然のままに醸した結果をそのまま飲み手に届けることを誇りに酒造りを行っています。

日本酒をテイスティング。橘さんは藤井さんの酒造りに対する思いを聞きつつ、それぞれの味わいの違いを語った。

テイスティングでは、3種類の「龍勢」が供されました。発売したばかりの「涼風生生」は、シュワっとした炭酸感と爽やかな酸味が特徴のほか、アルコール度数も14度と低めで、「白ワインのようだ」という声も上がるほどの透明感がありました。今年のIWC SAKE部門でシルバーメダルを受賞した「黒ラベル 純米大吟醸」は、安定感がありながらキレもあって、きれいにまとまった酒質。1年熟成の「日々綽々 -山田錦-」は落ち着きと深い旨みが印象的で、橘さんは「熟成によって引き出された華やかさやトロピカルさを感じつつ、香りも味わいも多層的」と評しました。

これまでに日本酒に関する本も出版し、1杯1杯の酒に真剣に向き合う橘さん。

実はこの蔵で橘さんには忘れられない思い出があります。3年前の訪問時に、生酛づくりの仕込み作業で行われる「元摺り(もとすり)」(木桶の中で米と水をすり潰す作業)を体験したそうです。「なかなか体験できる機会がないので、貴重な経験をさせていただきました。米だったものが少しずつ液状化していく。まさに酒造りの神秘を感じました」と橘さんは振り返りました。

3年前に元摺り体験を行ったことについて懐かしく語り合う。酒造りの真髄を藤井さんから聞き、橘さんも好奇心を刺激されている様子だった。

マンションの地下に息づく酒造りの精神を、原本店で再確認

午後には広島市内に戻り、「蓬莱鶴」の銘柄で知られる原本店を訪れました。この酒蔵は、全国でも珍しくマンションの地下室で醸造を行っています。狭い環境で酒造りを行うためにどのような工夫を重ねているかについて、代表の原純さんが説明してくれました。例えば、酒造りに欠かせない「米麹」を作る工程は特別な部屋を設けるのが通常ですが、ここではアウトドア製品によく使用される防水透湿性のある素材で簡易的な部屋を作って作業をしていました。

原本店代表の原純さんと話をする橘さん。橘さんは2度目の訪問で、原さんの変わらぬ情熱に耳を傾けていた。

橘さんはこの訪問が2度目でしたが「たくさんのお酒が造れるわけではないけれど、日本酒造りに携わる方の精神がすごく感じられる場所」と改めて感じたといいます。ものづくりに必要なのは場所の広さではなく、込められた思いの深さであるということを、藤井酒造とはまた異なるかたちで感じさせてくれる場所でした。

仕込みの様子をのぞき込む。日本酒が米、麹、酵母、水だけで造られることに改めて驚かされる。

試飲会を通じて改めて語る、日本酒の魅力と思い

最後に、今回の受賞酒や広島の日本酒を一堂に集めて、日本酒に関する本も出版している橘さんによる試飲会が行われました。冒頭に紹介した林酒造「三谷春 梅酒 潤」を口に含み、橘さんは「最初は酸味が先に来て、後から甘味と絡み合う。長い余韻があって、ソーダ割りやアイスとの組み合わせも楽しそうですね」と、日本酒にあまり馴染みがない人にも魅力を感じられる言葉で表現し、そのほかの日本酒についても感想を述べました。

林酒造がトロフィーを獲得した「フレイバー・サケ」部門は、今年新設されたカテゴリーです。酒蔵は日本酒を世界に広げていくため、さまざまなスタイルの酒を生み出していこうとする動きがあります。「酒の一つの評価基準として、新たにジャンルが増えていくことで、いろいろな味わいや表現がどんどん広がっていく。この動きを応援していきたい」と橘さんは話しました。

IWC SAKE部門受賞酒や広島県産の日本酒の試飲会。橘さんは試飲を行い、ラベルを真剣に確認していた。

橘さん自身も2019年にロンドンで行われた審査会に参加したことがあり、その時の体験についても触れました。「世界中から集まった愛好家たちと、このお酒はこういう香りがする、こういう味わいがすると、話し合いながらメダルを決めていくのですが、僕はその過程に感銘を受けました。日本酒という一つのツールがあることで、世界中の人と語り合うことができる、ということを体験できました」。

試飲をしつつ、日本酒の奥深さや知る方法についてのアドバイスも伝えてくれた橘さん。

最後に、日本酒をこれから知りたい人へのアドバイスも聞かせてくれました。「まず酒屋さんに行ってみてほしいですね。スタッフさんに好みを伝えて、対話しながら一本を選ぶ。その体験が日本酒との最初の接点になると思います」。

2024年に「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録され、日本酒への国際的な関心は高まる一方です。IWC上級審査員が指摘するように、日本酒はすでにフレンチやさまざまな国の料理とともに世界の食卓へ広がっており、一国の飲み物を超えた存在になりつつあります。

橘さんは酒蔵を訪問する以外にも、フランス料理と日本酒のペアリングを体験したり、乾杯ではスパークリングを日本酒味わったりなど、この日多様な経験をしました。日本酒は「その土地の歴史をまとってきたもの」であり、酒蔵を訪れてそのまちを歩くことで「日本人として大切な何かに触れることができる」と感じたそうです。

日本人としてのルーツを感じながら、世界に羽ばたいていく可能性がある日本酒。ぜひ一度、実際に触れてみてはいかがでしょうか。

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