東京・墨田区京島で100年以上の歴史をもつ『電気湯』の4代目店主を務める大久保勝仁さん。地元の人たちにとっての居場所となるような生活空間を目指す大久保さんが選んだのは、プレイスメイキングをはじめ、地域に関わる際に必要な心構えを教えてくれる本でした。
『サバルタンは語ることができるのか』は、僕の思想の一部になっている本です。サバルタンとは、端的にいうと社会的に従属的な立場にいる人たちのことを指します。本書では、寡婦殉死の風習のもとサバルタンの立場にあるインドの女性について、エリートと呼ばれる知識人たちが理解したように語ることを懐疑的に批評しています。この本を読んで他者を語ることの難しさや、他者が発する声に誠実であることの大切さを学びました。プレイスメイキングもそうですが、地域で何か新しいことを始めるときに重要なのは、その地域の人たちが、どういう生活をして、どういう文化のなかで活動をしているのかをまず知ることです。そのためには自分の目で見て、体で感じるしか方法はありません。こうした学びが、お客さんたちとともにこの場所をつくっていく『電気湯』のスタンスにもつながっています。この本はおすすめというよりも、地域に入って何かしたいと思っているなら必読の一冊です。
僕は『電気湯』でコミュニティが生まれたらいいと思いつつ、実際にどのように生まれるものなのかがわからなかったんです。そんなときに、『電気湯』のバイトメンバーが貸してくれたのが、『団地のはなし』です。団地をひとつのテーマに、短編小説や漫画、対談などが収められています。同じ建物でともに住み、ご近所付き合いがほどほどにある点など、団地ってよく考えてみると、銭湯に似ているんですよね。等間隔にある部屋も銭湯の洗い場みたい。僕はコミュニティを生むために何か仕掛けなくてはと思っていたのですが、この本を読んでその必要はないんだといい意味で”諦め“がつきました。そんなことをしなくても適した場所があればコミュニティは自然に発生する。その具体的なイメージが、この本を読み進めていくうちに湧いてくるはずです。
記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。