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特集 | 人が集まるプレイスメイキング術

『The Sauna』に見る、 サウナに行きたくなる理由。

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流行を通り越し、もはや日常となったサウナの存在。全国に数あるサウナの中でも長野県の野尻湖湖畔にある『The Sauna』は「予約が取りにくいサウナ」として有名です。なぜ、『The Sauna』に人が集まるのでしょう。そこには常に変化するサウナの姿がありました。

目次

野尻湖の湖畔に誕生した 本格アウトドア・サウナ。

「サウナブーム」と言われて久しい。確実に日本文化に定着し、もはや定番になったと言っていいだろう。「サウナは昔からあったよ」と言う人もいるが、今のサウナは”更新“している。「昔のサウナ」はカラカラに乾燥した猛烈に熱いサウナ室でテレビ番組が流れていて、たいていは駅前の繁華街にあり、メインターゲットは会社員のおじさんたち。そして、サウナ後は飲み会だ。目的がサウナというより、ストレスの発散にあった。今、多くの人を惹きつけているのはリラックス目的のサウナだ。

長野県・信濃町の野尻湖湖畔にある宿泊施設『LAMP野尻湖』の敷地内に『The Sauna』がある。「このサウナを造った4年前までは、自然のなかで楽しむサウナはあまりありませんでしたね」と、支配人の野田クラクションべべーさんは言う。彼はこれまでに10以上のサウナを手がけたサウナビルダーでもある。「サウナが大好きで全国のサウナに行きました。そんな中、サウナはたくさんあるのに男性専用サウナが圧倒的で女性が楽しめる場所は少ないこと、それに『ロウリュ』もできない施設が多いことに疑問を感じました」。

サウナの本場フィンランドでは、サウナストーンに湯をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」を行う。蒸気がサウナ室に満ちると体感温度がぐんと上がる。これが気持ちいい。サウナ室、水風呂、外気浴を繰り返すうちに、自律神経と副交感神経が刺激されてだんだんと体がリラックスしていく。その状態をサウナー(サウナ好きの人)は「ととのう」と呼ぶ。

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サウナーを出迎えるチャーミングな木彫りのクマの看板。
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遊ぶ、食べる、ととのえる、寝るが『LAMP野尻湖』のメニュー。

誰もが楽しめて、 このまちにしかないサウナを。

2018年、野田さんはサウナ好きが高じてフィンランドへサウナ巡礼の旅に出かける。「サウナ室にテレビやBGMはなく、聞こえるのは薪の燃える音、そしてロウリュの蒸気音。本場のサウナは自然の中で楽しむことで、リラックス効果、非日常的要素がありましたね。次第に僕もフィンランド形式のアウトドア・サウナをつくりたいと思うようになりました」。

野田さんがフィンランドで体験したサウナは「ストレス発散」だけではなく、人が集うコミュニケーションの場であり、老若男女が楽しめるリラクセーションの場だった。そんなサウナをつくりたいと、会社の上司に相談すると「自分で集められるお金の範囲でならやればいい」と言われ、資金調達にクラウドファンディングを利用。場所は会社の関係施設にある『LAMP野尻湖』の敷地内。撮影OK、水着着用なので男女の利用OK、タトゥーOK、宿泊施設内にあるので宿泊、食事もできる。そしてなにより、自然のなかで「”ととのう“ことができる」という、国内ではあまり体験できなかった画期的な施設が生まれるという点が多くの人のサウナ心に火を点けた。150万円の目標に対して半年で264万円の建設費を集めることに成功。めでたし、めでたし……、とはならなかった。

念願のアウトドア・サウナができたものの、わざわざ野尻湖まで来てサウナに入る人はそれほどいなかった。「クラウドファンディングで支援してくれた人が、実際に来たのは3割程度。稼働率が上がらなかったので、近隣のキャンプ場でチラシを配ったり、駅前のお店にポスターを張ったりしました。サウナ運営をしながらも、会社の社員だったので食い扶持は稼がなくてはいけない。サウナの営業活動と並行して1か月に10本くらいのブログを書いていました」。サウナ自体のクオリティもよかったからだろう。地道な営業活動は実を結び、半年ほどで稼働率が上がり始めて、『The Sauna』は現在、「予約が取りにくい人気のサウナ施設」となった。
 
人気の理由を野田さんに聞いてみると、「宿と、先人たちの存在」という答えが返ってきた。「サウナだけでなくて、元々あった『LAMP』という宿と、この土地でカヤックなどのアクティビティの体験を行ってきたみなさんの存在が大きいです。レストランで食事をして、サウナでととのって、宿で寝る。さらに信濃町の自然の中で遊べる。これらの要素があるからいいのであってひとつでも欠けたら、ただの宿、ただのサウナになってしまうんです」。

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敷地内にある自由な空間のドームテント。
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サウナストーンがぎっしり詰まったサウナストーブ。
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上段にいるお父さんの影響ですっかりサウナーになった常連の、通称“しゃちょー”さんご家族。
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野尻湖に注ぐ小川の水を利用した水風呂。大小のワイン樽で微妙に水温が違うという配慮が。

サウナと地方が生み出す 相乗効果に期待する。

野田さんの手がけた2号棟「カクシ」に入らせてもらった。『The Sauna』のサウナ室の名前はすべてフィンランド語の数字の読みが当てられている。すでに、サウナ室は適度な湿度。暗くとても静かだ。やがてサウナ番がやって来て私たちの体調や気分を聞いた。会話からサウナ初心者も交ざっていると知ると、「では、少し温度は控えめで」と言う。熟練のバーテンダーのような過不足のない完璧な対応だった。水風呂は近くを流れる小川の水。その後は180度に倒れるチェアで星空を見ながらの外気浴。「ととのったかも~」と傍らで同室の参加者の声。サウナ初心者を一発でととのわせるとは、すごいな『The Sauna』……。

野田さんは地方とサウナが生み出す相乗効果にも期待しているという。「瓦の産地なら、サウナストーンを瓦にしてもいい。お茶の産地なら、お茶のロウリュもおもしろい。食べ物とサウナの相性はよく、意外とサウナは疲れるし、汗をかくから塩分が欲しくなる。サウナ後の食事がおいしいのはそのためです。日本にはおいしい食材がたくさんあるから、可能性はすごくある。『LAMP』のメニューにも信濃町でつくられた野菜を使用するなど、ここならではの食材を使ったりしています」

『The Sauna』はサウナだけでなく、働く人たちが心地よい。このことを野田さんに言うと満面の笑みになった。「もし、東京郊外にいいサウナが生まれたら野尻湖まで来なくなるかもしれない。だけど、『誰かに会いに行く』という目的になれば、ここを選んでもらえる。僕は東京から移住してきて、本当にこの地域を気に入っています。仲間たちとサウナを続けるためにも施設や人に投資をし、僕ら自体が成長して変わり続けなければと思っています」。

サウナ好きはもちろん、苦手という人がいたら一度『The Sauna』を訪れてみてはいかがだろう。もし、気に入れば通い続け、変化を見届ける。そうすれば、人生の楽しみがいくつか増えるはずだ。人生を豊かにする「サウナの道」は、野尻湖へとつながっている。

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外気浴で完全に“ととのって”いるサウナー。
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野尻湖でSUPを楽しむ女性。後方にあるテントサウナで温まった後、湖に入って外気浴中。
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貸切専用棟「ネリャ」の水風呂に入る常連のご家族。左端のお父さん、完全に“ととのって”ます。
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最初につくったサウナの前で恍惚の表情をする野田さん。

『The Sauna』のサウナ4種

1号棟「ユクシ」

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野田さんと仲間たちが周囲の協力の下、DIYでつくった最初のサウナ「ユクシ」。存在感のあるサウナストーブでロウリュをキメよう!

2号棟「カクシ」

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「カクシ」は野田さんがフィンランドで感動したサウナ施設『ロンナサウナ』をオマージュしてつくったものだそう。唯一の2階建てのサウナ。

3号棟「コルメ」

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2022年2月に完成した3時間の貸し切り専用棟サウナ。プライベートな空間でサウナが堪能できる。利用者限定の水風呂も併設。

4号棟「ネリャ」

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「コルメ」と同じ時期に完成した貸し切り専用棟サウナ。扉にはサウナに棲む妖精「トントゥ」専用の扉も取り付けられ、遊び心が満載。

知っておきたい 基本のサウナの入り方

まずは、シャワーで体を洗います。サウナ室で体を温めてから、シャワーで汗を流して水風呂へ。その後、外気浴。サウナ・水風呂・外気浴を繰り返します。大量に汗が出るため、水分と塩分の補給をお忘れなく!
text by Hideki Inoue  photographs by Kei Fujiwara

記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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