漁師さんになりたい人と、人材不足に直面している漁業の現場の人たちの声。その両方に向き合い続けている馬上敦子さんがセレクトしたのは、漁業への就業に向けたはじめの一歩として読んでおきたい本でした。
漁師として独立したいという相談者からの質問で多くいただくのが「漁業権」にまつわるものです。漁業権とは、簡単に言ってしまうとその場所で漁を行う権利のことで、特例があるものの原則としてこれがないと漁ができません。ですが、同じ漁業権でも地域ごとの慣行に合わせて適用の仕方は異なっているため、取得方法や権利の内容についてこういうものとは断言できないのです。複雑で説明がしにくい漁業権について、歴史から仕組み、運用の実態など基本的な部分を理解しやすい表現で解説しているのが『3時間でわかる漁業権』です。最終的には、漁業をしたいと思っている地域の漁業協同組合に問い合わせるのが一番ですが、その前に漁業権について理解しておくのに適した一冊です。
先日、水産高校に伺った際、漁師さんになりたいという生徒に理由を聞くと、「漁師だったおじいちゃんが、かっこよくて憧れた」というような声が多くありました。そんなふうに漁師さんは歳を重ねてもかっこいい職業だと多くの人に知ってもらいたいと願っているのですが、その姿を見られるのが『漁 海と生きる』です。自らを「船上カメマン」と呼ぶ北海道釧路市出身の写真家・神野東子さんの写真集で、漁師さんと一緒に船に乗り込み撮影したさまざまなシーンが収められています。私がいいなと思うところは、若くてキラキラした漁師さんだけでなく、ベテランの漁師さんのありのままの姿を撮っている点。漁師さんが好きで、彼らのために撮り続けているという思いが写真を見ているだけで伝わってきます。自費出版のものなので、神野さんのSNSなどから問い合わせれば購入が可能です。
漁業の現場での人材不足は長年の課題ですが、近年、高校生や大学生がフェアに参加してくれています。「漁師の日」には毎年フェアを開催するなど、漁師さんになる夢を持った方が思い叶えられるように、そして漁業界で輝き続けられるように、活動を続けていきたいです。
記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。