安全で快適に走行できる高速道路のデザインから、都市の中の街路を主体的に楽しむアート活動まで、広く道に携わってきた韓亜由美さん。選んでもらったのは、ウェルビーイングな道のあり方を考えるうえで、道をつくる側も、使う側も押さえておきたい本です。
例えば、当時のニューヨークにあった貧民街を危険視したモーゼスはそれを一掃し、新しい道路を通しました。貧民街の住人たちはニューヨーク郊外に建てられた箱のような団地に強制的に移住させられました。ところが、縁もゆかりもない土地に移らされた人々は、居心地が悪かったのでしょう。定住することはなく、別の土地に出ていってしまい、やがて団地は廃墟と化しました。
そんな、上から目線の都市開発にジェイコブズは反論します。ダウンタウンの道路に若者が屯し、治安が悪くなったときも、行政はスポーツ広場を設け、健全なまちに変えようとしましたが、逆効果。若者は今度はスポーツ広場に屯し、悪事を働くようになりました。つまり道路には、そこを歩く「人の目」によって犯罪を防ぐ効果があり、それだけではなく、多様な人々が行き交うことで「創発関係」が生まれ、活気がもたらされる場にもなるのです。
道路は人々の営為が交差する流れのようなものですが、つくり方によっては人と道路の関係を分断しかねません。例えば、歩道橋。道路は車のものという発想から生まれていて、人と道路を分断しています。そうではなく、有機的に交わる生態系のような暮らしを営むための道こそがウェルビーイングな道路だと思います。
『アースダイバー』は直接的に道を語る本ではありませんが、道路の敷設を含めた都市の開発にあたり、その土地の歴史や環境、先人が築き上げた遺構の存在を無視した開発が行われている現状に警鐘を鳴らす本として読むことができます。地形が変化し、なにが起こり、そして道ができ、まちがどう発展してきたのか。
1964年の東京五輪開催に間に合わせようと突貫工事でつくられた首都高速道路は、敷地が確保できないからと川の上に通されました。江戸の発展を支えた川をないがしろにして、新しい東京を築いてきた今、道路をつくる側も、使う側も、ウェルビーイングな道路のあり方を考え直すために読んでおきたい一冊です
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。